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山芋とアスパラガスは仲良くなれない#2
しおりを挟む凪川と書いてナグカワと読む。
それが彼女の名前。
詳しく言えば苗字だ。
幾分か分厚い本を片手に彼女を死んだ目で返却された定期テストを眺めていた。
高校一年の夏。
俺は 夕日に照らされる彼女の表情を見て
心臓が止まりそうになった。
無数の手で心臓を鷲掴みこねくり回されてハンバーグのように丸められ新品のフライパンで焼かれてる気分になった。
それほどまでにその表情は美しかった。
定期テストの点数が良かったのか悪かったのかは不明瞭だが
彼女はたしかに死んだ目で微笑んだ。
わずかに上がるその口角が今まで見てきたどの笑顔よりも綺麗で、儚くて少しでも触ろうとすれば二度修正できない程に潰れてしまいそうなくらいの繊細さのようなものを纏っていた。
凪川…僕は君に恋をしたんだ。
きっとそうなんだ
その瞬間だけだったのかもしれないけれど確実に惚れていたんだと思うよ。
ブランコの鎖が一瞬で切れて勢いよくそのブランコが民家に飛んで行ったかのようなそんな音がした。
言葉では説明できないが
鉄が否それよりも強固な素材のものが
物凄いスピードでぶつかったかのような衝撃音。
山田アンソニーの山芋が僕の可愛い可愛いアスパラガス刀、パラ尾に猛追してきた。
その剣戟、避けようとすればするほど吸い付くかのようで、 切っ先が削れていくのが確認できた。
あまりの恐怖に僕は尻込みをした。
それがよくなかった。
昔、ジジイにいわれたある言葉を思い出す
『おまえは いらんところで七味マヨネーズをつけようとする。
いいか、マヨで満足できない奴が七味の力を借りるんじゃない。
そもそも 素材の味を堪能しようとしない奴が素材の味を殺すことなく進化させるその素晴らしい卓越された技術とご対面するなど御法度中の御法度。
だからおまえはアタリメに殺されかけたんじゃ』
並大抵の人間がジジイのあの言葉を聞いてもなにがなんのことやら…だろうが
僕には、俺には…よくわかった。
彼女を止めようとしてはいけない
そんな生半可な覚悟で止められるほど俺は強くない。
ましてや 山田アンソニーなんていう動く凶器が目の前に出没している現在、
困難を極めることは確定事項でしかない
俺は泣きたかった。
ここまでする必要があるのかわからなかった。
されど 握った。
アスパラガスを。
彼女は 殺す気で切らないと
止められそうにないから。
俺はアスパラガスに向かってこう告げたのだ。
『かけられるのであれば マヨかドレッシングどちかが好みか』と。
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