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9話 「ううん、知らない人」
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その日は、そのまま帰る気になれなくて、ふらふら街を歩いていた。さっきまで誰もいない図書室で呆然としていたけど、閉館時間で追い出されてしまった。
(あ⋯⋯ラノベ、買いにいかなきゃ⋯⋯)
空がオレンジ色になった頃、僕はふと思い出した。
今日は僕の教典『美少女と距離を置くには?』と『年上美女に迫られて困っている件』の最新刊の発売日だ。どちらの物語も佳境を迎えていて、一体主人公は誰を選ぶのか、という大切な巻だ。
ずっと楽しみにしていたのに、忘れるなんて⋯⋯僕らしくない。駅前の本屋に予約してあるから、取りにいかないといけない。
僕はそのまま、ふらふらした足取りで、駅前に向かった。
駅近くにあるネオン街を通り抜けようとした時だった⋯⋯。
「もう、SUI。まだ早いって」
僕の大好きな人の声が、聞こえてきた。
ふと、そっちを見ると、路地裏で男性に抱き絞められている、制服姿の桐島さんがいた。男は青い髪をしていて、黒いだぼっとしたシャツに、黒いサルエルを履いていた。いかにも、バンドマンという風貌だった。
(あ⋯⋯)
見たくない。見たくないのに、僕はそこから立ち去れなくて、そのまま2人の成り行きを見守ってしまった。
「わり、俺もう我慢できない⋯⋯バイト中ずっと我慢してたから。毎日会ってても、全然足りねえ」
「ちょっと⋯⋯んっ」
言いながら、SUIと呼ばれた男は⋯⋯桐島さんの制止を聞かず、彼女の唇を奪った。舌が、卑猥に絡み合っていて、唾液が桐島さんの綺麗なあごに伝って、首まで垂れていた。
桐島さんは口では嫌がっていながら、男の背中に腕を回して、男の荒っぽいキスを受け入れていた。
(あんな⋯⋯あんな顔をするのか⋯⋯)
桐島さんは、学校では見た事のないような顔をしていた。とろんとしたよがった雌の目、顔を赤く染めて、喜びと優越に満ちた妖艶な表情⋯⋯きっと、学校では誰も見たことがない、彼女の素顔だった。
数分間それを繰り返したあと、2人はようやくキスをやめた。
「もう、待ってってば、SUI。ここだと誰かに見られちゃうから⋯⋯ホテルいこ?」
「え、いいの?」
「うん。もう夏休みだから、何時になってもいいよ。でも、今日は私もちょっと寝たいかも」
「ああ、俺もさすがに今日もオールしてたら死ぬかな。明日ライブだし」
「あははっ、明日のライブも楽しみにしてるから、今日はちゃんと寝てね?」
そんな他愛ない話をしてから、桐島さんは嬉しそうにSUIの腕に絡みついて、こちら側に歩いてきた。
「あっ⋯⋯」
「あっ⋯⋯桐島さん⋯⋯えっと⋯⋯」
その時、桐島さんと、バッタリ遭遇してしまった。
僕も彼女も、どうも上手く
反応できなくて、固まってしまった。SUIもそんな彼女の異変に気づいて、こちらを見る。
「お、優奈の知り合い? 同じ制服だけど」
SUIが彼女に訊いた。
桐島さんは⋯⋯ゆっくりと僕から目を逸らして、首を横に振った。
「ううん、知らない人」
「そっか、優奈のこと狙ってる奴かと思った」
「ないない」
「ほんとかー?」
「ほんとだよー」
SUIは優しく微笑んで、桐島さんの頭を撫でた。桐島さんはとても幸せそうな顔をしたいた。
そして、2人はそのまま肩を並べて、僕の方には見向きもせず⋯⋯僕の横を通り抜けた。
「あ、でも今日は高いホテルは無理だからな? 今月撮影もあって、金マジでやばいんだよ」
「うん、無理しなくていいよ。お金キツかったら、私も出すし」
「女にそんなことさせられっかよ! 昨日もほんとは泊まりにしたかったんだけど、休憩分しか金払えなくて⋯⋯カラオケでオールさせてごめんな? 学校、つらかったろ」
「ううん、大丈夫。私はSUIと一緒だったら、どこでも幸せだから」
「お、それなら今度、屋外で1回してみる?」
「ばか」
そんな会話を交わして⋯⋯2人は、ネオン街へと消えていった。
(あ⋯⋯ラノベ、買いにいかなきゃ⋯⋯)
空がオレンジ色になった頃、僕はふと思い出した。
今日は僕の教典『美少女と距離を置くには?』と『年上美女に迫られて困っている件』の最新刊の発売日だ。どちらの物語も佳境を迎えていて、一体主人公は誰を選ぶのか、という大切な巻だ。
ずっと楽しみにしていたのに、忘れるなんて⋯⋯僕らしくない。駅前の本屋に予約してあるから、取りにいかないといけない。
僕はそのまま、ふらふらした足取りで、駅前に向かった。
駅近くにあるネオン街を通り抜けようとした時だった⋯⋯。
「もう、SUI。まだ早いって」
僕の大好きな人の声が、聞こえてきた。
ふと、そっちを見ると、路地裏で男性に抱き絞められている、制服姿の桐島さんがいた。男は青い髪をしていて、黒いだぼっとしたシャツに、黒いサルエルを履いていた。いかにも、バンドマンという風貌だった。
(あ⋯⋯)
見たくない。見たくないのに、僕はそこから立ち去れなくて、そのまま2人の成り行きを見守ってしまった。
「わり、俺もう我慢できない⋯⋯バイト中ずっと我慢してたから。毎日会ってても、全然足りねえ」
「ちょっと⋯⋯んっ」
言いながら、SUIと呼ばれた男は⋯⋯桐島さんの制止を聞かず、彼女の唇を奪った。舌が、卑猥に絡み合っていて、唾液が桐島さんの綺麗なあごに伝って、首まで垂れていた。
桐島さんは口では嫌がっていながら、男の背中に腕を回して、男の荒っぽいキスを受け入れていた。
(あんな⋯⋯あんな顔をするのか⋯⋯)
桐島さんは、学校では見た事のないような顔をしていた。とろんとしたよがった雌の目、顔を赤く染めて、喜びと優越に満ちた妖艶な表情⋯⋯きっと、学校では誰も見たことがない、彼女の素顔だった。
数分間それを繰り返したあと、2人はようやくキスをやめた。
「もう、待ってってば、SUI。ここだと誰かに見られちゃうから⋯⋯ホテルいこ?」
「え、いいの?」
「うん。もう夏休みだから、何時になってもいいよ。でも、今日は私もちょっと寝たいかも」
「ああ、俺もさすがに今日もオールしてたら死ぬかな。明日ライブだし」
「あははっ、明日のライブも楽しみにしてるから、今日はちゃんと寝てね?」
そんな他愛ない話をしてから、桐島さんは嬉しそうにSUIの腕に絡みついて、こちら側に歩いてきた。
「あっ⋯⋯」
「あっ⋯⋯桐島さん⋯⋯えっと⋯⋯」
その時、桐島さんと、バッタリ遭遇してしまった。
僕も彼女も、どうも上手く
反応できなくて、固まってしまった。SUIもそんな彼女の異変に気づいて、こちらを見る。
「お、優奈の知り合い? 同じ制服だけど」
SUIが彼女に訊いた。
桐島さんは⋯⋯ゆっくりと僕から目を逸らして、首を横に振った。
「ううん、知らない人」
「そっか、優奈のこと狙ってる奴かと思った」
「ないない」
「ほんとかー?」
「ほんとだよー」
SUIは優しく微笑んで、桐島さんの頭を撫でた。桐島さんはとても幸せそうな顔をしたいた。
そして、2人はそのまま肩を並べて、僕の方には見向きもせず⋯⋯僕の横を通り抜けた。
「あ、でも今日は高いホテルは無理だからな? 今月撮影もあって、金マジでやばいんだよ」
「うん、無理しなくていいよ。お金キツかったら、私も出すし」
「女にそんなことさせられっかよ! 昨日もほんとは泊まりにしたかったんだけど、休憩分しか金払えなくて⋯⋯カラオケでオールさせてごめんな? 学校、つらかったろ」
「ううん、大丈夫。私はSUIと一緒だったら、どこでも幸せだから」
「お、それなら今度、屋外で1回してみる?」
「ばか」
そんな会話を交わして⋯⋯2人は、ネオン街へと消えていった。
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