前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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◇◇◇◇

フゥー、フゥー、フゥー
《落ち着いて》


前世を思い出して2年。9歳になった私は王都を抜け出し、木が生い茂る山の中にいた。
罠に掛かって暴れる逆さ吊りの猪に鎮静魔法をかけると、手に握りしめたナイフを猪の心臓へと勢い良く振り下ろす。

ふと山の麓の方から馬の足音や行商人の賑やかな声が聞こえてきた。遠くでは花火があがっている。

「建国祭…今日か…」

確か本当なら今日お貴族に拾われる日だっけ…

◇◇◇◇


前世を思い出したあの日、空腹に耐えきれず気絶し、そのまま路地裏で朝を迎えていた。

路地裏から表通りを覗けば、無造作に並べられた色とりどりの果物や野菜が輝いている。それら商品の陳列をしているおじさんが積荷の確認の為に背中を向けた隙に、トマトを1つ盗んで走った。幸い見つかることは無く 、奥まった安宿裏口の階段に腰を下ろす。

「…ごめんなさい」

今世と前世も含めて初めての窃盗。呼吸は荒く、心臓はバクバクと、破裂するのでは?と心配になるほどに鼓動を打ち続けている。
片手に収まりきらないほどの大きなトマトは強く握ったせいでひび割れて、今も果汁を零し続けている。眺めている余裕なんて無かった。一口齧れば、強めの酸味と久しぶりの食べ物の感覚に頬がぎゅっと痛む。あっという間に平らげて指に付く果汁まで綺麗に舐めとった。

おじさん、ごめんなさい。このお代はいつか必ず返します…

満腹とまでは行かないが、久しぶりの食事で欲求が満たされ、眠気や飢えは襲ってこない。頭はスッキリと冴えている。

まずは…自分の体で試してみるか
逆剥け、ささくれ、傷跡だらけで荒れに荒れた手を持ち上げて眺める。
小さな手だなぁ…
今は自分の身体ではあるけれど、頑張って生きてきたヒロインが思い浮かんで泣きそうになる。荒れた指先をもう片方の手で優しく包んで胸に抱き締めた。トクットクッと心臓に張り巡らされた血管に血液が流れていくのを感じると同時に暖かいものが身体中を駆け巡るのを感じる。

一緒に幸せになろうね

耳元で少女の声が聞こえた気がした。パッと目を開くと、汚れてベタベタしたままなのは変わらないが傷一つない骨張った少女の細い手がそこにはあった。

小説で王子に魔力の流れとやらを手解きされるシーンを思い出して、その時は2人手を繋いでいたけれど…1人でも簡単に成功した。

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