前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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「折角可愛い顔してんだから、少しくらいはお洒落しなさいな」
「……ありがとう、ございます」

女将さんが手を離すと木の枝で纏めていた長い髪が解けた。日に透けた銀色の髪がキラキラと光り、腰まで流れる。

「あんたは髪も綺麗だねぇ…こっちじゃ庶民はみーんな茶色だからね、着飾ればお偉いさんの目に留まってお姫様にもなれるかもしれないよ」

そう言って豪快に笑う女将さんに笑い返すこともできず、残りのミルクを一気に飲み干して店を出た。

そうだ、私はヒロインだった…銀色の髪は目立つし、容姿だって光の加減によって赤にもピンクにも見える珍しい色の瞳をした垂れ目で可愛らしい少女…

今世を生きてきて自分の顔もまともに見ていないから、ヒロインの身体だという意識がごっそり抜けている。
前世には無かった魔法に触れるのは確かに今もワクワクはしているけれど、自分のモノとして生活に浸透しきっているし、ストーリーの展開だけを何となく歴史書のような気持ちで頭に浮かべていた。

はぁ、もっとちゃんと防犯しないと拐われて奴隷落ちしちゃいそう…

女将さんに取り上げられた木の枝を取り返すのも億劫で羽織った外套に垂れる髪を覆い隠す。

建国祭だからなのか普段見かけない屋台も多く、開店前の市場は朝だと言うのに賑やかだ。その中に見知った顔があった。トマトのおじさんだ。店の前には既に並んでいる子供もいる。

「おはようございます」

品出し途中のおじさんは積荷の中身を確認しているようで、こちらの声掛けには一切気付いていない。並んでいる子供は既にトマトを手に取っているがおじさんに声もかけずに立ち尽くしている。そして子供は身体を翻した。私は咄嗟にさっきよりも大きな声でおじさんに呼びかける。

「おじさん!これ2つください!」
「ッ…はなせっ…」

そう言って反射的に掴んだ子供の手にあったトマトはぐしゃりと握りつぶされていた。

「おいおいおいおい…お前らは…はぁ」

振り向いたおじさんは、溜息を吐きながらも新しいトマトをくれる。今度はちゃんとお代3つ分を払って、子供の手を引いたまま噴水広場へと向かった。
私に手を引かれる子供は、俯いたまま力無くついてくる。

建国祭限定の肉串を4つ買って、ベンチに座り、子供の前へと1本差し出す。
外套を深く被った子供がビクリと肩を震わせるもこちらを見ることは無く私の手ごと両手で掴んで食らいついた。

子供といっても、身長は今の私と同じくらいだ。それに、店の前で立ち尽くしていたあの様子は…盗みもしたことはないのだろう。

前の私とおんなじだ…
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