前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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7.おわり

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1つは自分用に買ったんだけど、差し出せば面白いくらいに食べるものだから4つとも差し出してしまった。

「まだ食べる?」

身の無くなった串をいつまでも咥えている子供にそういえば、初めて顔をこちらへ向けた。私の体はビクリと震える。

…………推しだ。

外套から覗かせる、この世でもあの世でも見たことがないほどに綺麗で鮮やかな青色の瞳。それを隠すようにくすんだ黒の髪が目元を覆う。その左目の下に縦に並んだ2つの特徴的な小さなほくろ。間違いない。推しだ。推しがこの世に、目の前に存在している。こちらを見ている。

「……もういらない」
「あ、はい………」

それ以上何も言えなかった。
その美しさに驚愕したのもそうだけど、やっぱりここは小説の世界で私は可哀想なヒロインなんだ、と。
どこか夢見心地で見ていた感覚が、この少年が存在し生きているということで全て現実なのだと痛感させられる。

ヒロインがハッピーエンドを迎えられたのは、ヒロインらしく逞しく生き抜いたからだ。それなら、私はそれを正しくなぞることができるのか?

答えはノーだ。

既に違う生き方をしている。道を逸れてしまっているのだ。だからと言って小説通りに軌道修正したとしても施設がどこにあるかも知らないし、痛い思いは絶対にしたくはない。
でも、小説はヒロインにとっての最大のハッピーエンドで…
ヒロインらしくない行動をしている今、未来はどうなるのだろう。背筋が指先が冷えていくような得体の知れない不安が襲う。

「これ…君のだから」
「………え」

トマト2つが入った紙袋を少年へと押し付けて、顔も見ずに城門へと歩き出す。通路中央にはお城に向けて、お祝いする貴族やお祝いの品が乗る豪華な馬車がずらりと並んでいる。
鳴り響くラッパの音を聞いた鳩が慌てて空へと飛び立っていく。お祭りを笑顔で楽しんでいる通行人達の声はとても幸せそうだ。

それらがどこか膜が張ったような、遠くにあるように感じて、逃げるように城門の外へと飛び出した。


王都を振り向くことなく、森の中までくると鞄と服を脱ぎ捨てて、湖に飛び込む。悩んだ時はいつだって湖に沈んでいた。寒い日は特に考えなくて済む。自身の周りの水温を暖かくする魔力を練ることに集中するから。やがて水温が適温になると、力が抜けて身体が浮いていく。水面に浮かんで空を見上げると太陽がすっかりこちらを見下ろしている。

何も変わらない…生まれ変わったところで、今の私じゃヒロインを「ハッピーエンド」になんてしてあげられない

「どこで死んだっておんなじだ…」
「おいっ!!」

急に怒鳴る声が聞こえてきて、バシャリと激しく水面を叩くような音がした。そちらに目をやれば、誰かが外套を着たまま、こちらに泳いで向かってくるのが見える。やがて苦しそうにもがくと、湖に沈みだした。水を含んだ外套と冬の気温のせいもあり、意外と深い湖がその人を水中へと引き込もうとしている。目の前で溺死なんて見たくもないので慌てて、そちらへ泳いで向かい、岸へと運んだ。


咳き込む少年はぶるぶると身体を震わせている。急いで、風と火の魔法で編み出したドライヤー(自称)でお互いの身体を乾かすと、少年は私の肩に勢い良く掴みかかってきたため、押されるように倒れ込んだ。

「死ぬなっ!」

海のような青くて鋭い瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。

かわいいなぁ…でもヒロインのこともハッピーエンドにしてあげられない私に、推しを救えるのかな?
この子の未来も相当な茨の道なんだよなぁ…
乾かしたはずの少年の身体は未だに小刻みに震えているのが伝わってきて、無意識に頭を撫でる。

「私は…死なないよ」

ヒロインは死んだかもしれない、他人の人生乗っ取ってハッピーエンドを確約できないことに悲観はするけれど、私自身が死んだわけではない。やっぱり悲しんだってお腹は膨れないし、むしろこんなに可愛い推しが目の前にいるのは幸せなことではないだろうか。

私の胸で、私じゃない誰かに乞うように「死なないで、置いていかないで」と泣き縋る彼を抱き締めた。

「一緒に幸せになろうね」

いつか聞いた声が自分の口から聞こえてきて、安堵する。たとえ小説みたいな華やかな最後じゃなかったとしても、満足に生きてやる、絶対に笑って生き抜いてみせるから。





******

数日でパッと思い浮かんだままに書き上げたので中途半端かもしれませんがこれで終わりです。
最後まで読んでいただいた方、お気に入りに入れてくださった方本当にありがとうございます。

本当は悪役令嬢出るところとかストーリーとかキャラの詳細とかばっかり考えてまだまだ長く書こうと思ったんですけど、肝心の名前が全く思い浮かばなくて途中で諦めてしまいました。名前が決まれば続き書こうと思うんですが、続きを読みたいと思うような内容になっていますでしょうか…?
文才もですが、ネームセンスの無さに絶望しております。

それでも目に留めてここまで読んでくださった方がいるのは本当に嬉しいです。お時間を頂きありがとうございました。
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