16 / 79
レイヴン
しおりを挟む
刺さるような湖の冷たさが身体を襲ってくる。濡れた外套が身体に張り付いて上手く魔力を操れない。
冷たくて苦しくて、目の前が真っ暗になる。
僕死んじゃうのかな…いやだ…助けて…
意識を手放しそうな中に見えた光を必死に掴んだ。それは眩しくて暖かくて、触れた部分からゆっくりと溶けていくような、そんな脱力感があった。
いつの間にか岸に上がっていたけれど、飲み込んだ水と脱力感のせいで上手く息ができない。なんとか呼吸が落ち着いてくると、冷たい風が頬をさして意識が覚醒する。
「死ぬなっ!」
押し倒した少女は、何か諦めたような顔をしている。
どうして…触れている身体は風の冷たさを感じないほどに暖かいのに、瞳はこんなにも輝いているのに。
悔しくて、この温もりを手放せなくて、涙が溢れてくる。
「私は…死なないよ」
母さんの優しい顔が浮かんだ。だけどその顔はすぐに歪んで、血で真っ赤に染まった母さんが僕の前から去ろうとする。
「一緒に幸せになろうね」
置いていかれないように必死にしがみついていた僕は耳元に聞こえた彼女の声に安堵して、すぐに意識を手放した。
頬がくすぐられている感覚がして目を覚ますと、少女がふにゃふにゃした顔で笑っている。なんだかそれが可愛くて、そして少女が居る事が嬉しくてしばらく眺めていたけれど、なんで笑っているのか気になってきて思わず声をかけた。
「何を笑ってるの」
そういうと少女が急に笑うのをやめて「綺麗な顔」だという。もしかして奴隷商に売られるのか?と不安が襲って身体が震えた。
だけど、ゆっくりと立ち上がった彼女はただ僕を気遣って出ていく素振りを見せる。
だんだんと離れていくその距離に心が冷えるようで、暗闇が訪れそうで、彼女にもう二度と触れられなくなるかもしれない、と怖くなった。そう思うと同時に体は動いていて、恥ずかしさなんて忘れて求めるように彼女を抱きしめると心はすぐに安心で満たされた。ずっとこうしていたいと思った。
だから離れないで、とお願いをした。いいよ、と言われるまで離さないつもりだったけどすぐに了承して貰えたのが嬉しかった。
だけど僕が腕を離すと、少女は血を吐いた。
頭の中で、母さんが泣いている。その腕は真っ赤に染まっていて、そして僕を見るその目は…
ヒュッ、と薄く吸い込んだ息が口内を冷やす。見つめた先には、光が差してピンク色に輝く瞳があった。そのキラキラした瞳がどうしようもなく綺麗で泣きそうになる。
暖炉の前に少女を寝かせた時、どうやら少女の出血は鼻からで、それが僕のせいだということもすぐに分かった。
僕のせいだから…
小屋を飛び出すと、いつも重かった身体が嘘のように軽いことに気が付いた。
常に暗闇の中を意識していないとできない魔力操作も思うようにできて、木の陰を踏んで駆けるのが、魔力を使うのが、少しだけ楽しいとさえ思った。
冷たくて苦しくて、目の前が真っ暗になる。
僕死んじゃうのかな…いやだ…助けて…
意識を手放しそうな中に見えた光を必死に掴んだ。それは眩しくて暖かくて、触れた部分からゆっくりと溶けていくような、そんな脱力感があった。
いつの間にか岸に上がっていたけれど、飲み込んだ水と脱力感のせいで上手く息ができない。なんとか呼吸が落ち着いてくると、冷たい風が頬をさして意識が覚醒する。
「死ぬなっ!」
押し倒した少女は、何か諦めたような顔をしている。
どうして…触れている身体は風の冷たさを感じないほどに暖かいのに、瞳はこんなにも輝いているのに。
悔しくて、この温もりを手放せなくて、涙が溢れてくる。
「私は…死なないよ」
母さんの優しい顔が浮かんだ。だけどその顔はすぐに歪んで、血で真っ赤に染まった母さんが僕の前から去ろうとする。
「一緒に幸せになろうね」
置いていかれないように必死にしがみついていた僕は耳元に聞こえた彼女の声に安堵して、すぐに意識を手放した。
頬がくすぐられている感覚がして目を覚ますと、少女がふにゃふにゃした顔で笑っている。なんだかそれが可愛くて、そして少女が居る事が嬉しくてしばらく眺めていたけれど、なんで笑っているのか気になってきて思わず声をかけた。
「何を笑ってるの」
そういうと少女が急に笑うのをやめて「綺麗な顔」だという。もしかして奴隷商に売られるのか?と不安が襲って身体が震えた。
だけど、ゆっくりと立ち上がった彼女はただ僕を気遣って出ていく素振りを見せる。
だんだんと離れていくその距離に心が冷えるようで、暗闇が訪れそうで、彼女にもう二度と触れられなくなるかもしれない、と怖くなった。そう思うと同時に体は動いていて、恥ずかしさなんて忘れて求めるように彼女を抱きしめると心はすぐに安心で満たされた。ずっとこうしていたいと思った。
だから離れないで、とお願いをした。いいよ、と言われるまで離さないつもりだったけどすぐに了承して貰えたのが嬉しかった。
だけど僕が腕を離すと、少女は血を吐いた。
頭の中で、母さんが泣いている。その腕は真っ赤に染まっていて、そして僕を見るその目は…
ヒュッ、と薄く吸い込んだ息が口内を冷やす。見つめた先には、光が差してピンク色に輝く瞳があった。そのキラキラした瞳がどうしようもなく綺麗で泣きそうになる。
暖炉の前に少女を寝かせた時、どうやら少女の出血は鼻からで、それが僕のせいだということもすぐに分かった。
僕のせいだから…
小屋を飛び出すと、いつも重かった身体が嘘のように軽いことに気が付いた。
常に暗闇の中を意識していないとできない魔力操作も思うようにできて、木の陰を踏んで駆けるのが、魔力を使うのが、少しだけ楽しいとさえ思った。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる