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〝痛い……。
袖を捲れば、黄青紫に変色した皮膚に新しい赤が滲んでいるのが見えた。
…治癒魔法が使えてよかった。
義母に言いつけられていた屋敷の掃除を済ませて、厨房の残りを貰いに行く。
「パンと……林檎!やったぁ」
外は既に夕暮れで、オレンジに染まる廊下をいつもより早歩きで進んだ。
ロウソクの火をつけずに食事できそう…
夜に明かりが灯っているのがバレると、義母から叩かれる。
昼にしては遅い昼食を始めると、大きな音を立てて扉が開いた。扉から出てきた義姉がパンを持つユフィの腕を魔力を纏って強く蹴りあげる。
私はこんなに苦労してるのに、あんたがいなきゃ、卑しい血で家を汚すな
いつもの罵詈雑言は、蹴り上げる音と痛みのせいではっきりとは聞こえない。
どうやら学園で成績の悪さや孤児だった私の噂が広まっているらしい。虫の居所が悪かった義姉は、ユフィが食事をしていることが気に食わなかったのだろう。
静かになった室内で転がったパンを拾い集める。
袖を捲って見えた痛々しい青痣に手を乗せて、ゆっくりと魔力を這わせる。
施設にいた頃はこの痛みが一週間以上も続いていた。
打ち付けた腰を撫でる。
路地裏にいた頃は酔っ払いからの理不尽な暴力と飢えや寒さが常に襲ってきた。
大丈夫、私なら耐えられる。こんなに柔らかいパンがあって、勉強が出来て、お友達も出来たんだから。だからいつかきっとこの痛みもなくなるはずだから〟
************
〝肩口で綺麗に揃えられた銀色の髪に白いリボンをつけた可愛らしい後ろ姿。振り向いて綻ぶその笑顔に僕はとても安心する。堪らず、抱き締めれば返ってくる温もりに嬉しくなる。
「ユフィ……幸せ?」
「ええ、とっても」
その笑顔の裏でどれだけ傷付き、涙を零してきたのだろうか。これからも出自がきっと彼女を追い詰めるのだろう。その過酷な道に彼女を引き込んだのは、僕だ。
「過去なんて消してしまいたいな」
「あら、過去があるから今の私がいるのに?…過去があるから強くなれたのに」
「でも…」
不安そうに頬を撫でる彼女の手は暖かい。素直にその手に頬を預ける。
「過去があったから今の幸せがあるの…私の思い出を消さないで?」
「お手上げだ…弱い君もみたかったけど?」
「うーんっと甘やかされたら弱くなっちゃうかもねっ」
そう言って舌を出す子供みたいな君が大好きだ。きっと甘やかしたところで彼女はこれからも己で立ち向かうのだろう。
どうかこれからは僕もその隣にいさせて欲しい。君の隣に立てることが僕の幸せなのだから。〟
思い浮かぶのは王子とヒロインの結婚式の挿絵。向かい合う二人の笑顔が「ハッピーエンド」だと物語っている。
私が見たことないほどに幸せそうな私。
「……私じゃない」
「ごめんね」
まるで傷付けられたかのように歪むレイヴンの表情が私には分からなかった。
何も言わずに去ったくせに、連絡ひとつなくいきなり現れて…違う、そんなことで怒ったことは1度もない、これは…ただの八つ当たりだ
寒さで悴む指先の痛さも、喉の乾きで張り付く喉や飢えで動けなくなる辛さも、理不尽に襲いかかる暴力も私には耐えられなかった。尊厳を奪われる苦しみなどもう耐えられる気がしなくて逃げた。
だけどこれは物語で、美しい容姿をした人達が舞台に立つ。そして心を動かす物語を作り上げた者にハッピーエンドが訪れる。
私ではない
ヒロインではない、と伸ばし続けた髪も日に晒し続けて日焼けした肌もこの美しい顔が全てを否定してくる。
立ち向かうことをやめたヒロインはこれからどうなってしまうんだろう。矯正力というものが働いて痛めつけられる日々に戻されてしまうのだろうか?それとも悪役令嬢がヒロインになって…私が…断罪されて、死ぬの?
袖を捲れば、黄青紫に変色した皮膚に新しい赤が滲んでいるのが見えた。
…治癒魔法が使えてよかった。
義母に言いつけられていた屋敷の掃除を済ませて、厨房の残りを貰いに行く。
「パンと……林檎!やったぁ」
外は既に夕暮れで、オレンジに染まる廊下をいつもより早歩きで進んだ。
ロウソクの火をつけずに食事できそう…
夜に明かりが灯っているのがバレると、義母から叩かれる。
昼にしては遅い昼食を始めると、大きな音を立てて扉が開いた。扉から出てきた義姉がパンを持つユフィの腕を魔力を纏って強く蹴りあげる。
私はこんなに苦労してるのに、あんたがいなきゃ、卑しい血で家を汚すな
いつもの罵詈雑言は、蹴り上げる音と痛みのせいではっきりとは聞こえない。
どうやら学園で成績の悪さや孤児だった私の噂が広まっているらしい。虫の居所が悪かった義姉は、ユフィが食事をしていることが気に食わなかったのだろう。
静かになった室内で転がったパンを拾い集める。
袖を捲って見えた痛々しい青痣に手を乗せて、ゆっくりと魔力を這わせる。
施設にいた頃はこの痛みが一週間以上も続いていた。
打ち付けた腰を撫でる。
路地裏にいた頃は酔っ払いからの理不尽な暴力と飢えや寒さが常に襲ってきた。
大丈夫、私なら耐えられる。こんなに柔らかいパンがあって、勉強が出来て、お友達も出来たんだから。だからいつかきっとこの痛みもなくなるはずだから〟
************
〝肩口で綺麗に揃えられた銀色の髪に白いリボンをつけた可愛らしい後ろ姿。振り向いて綻ぶその笑顔に僕はとても安心する。堪らず、抱き締めれば返ってくる温もりに嬉しくなる。
「ユフィ……幸せ?」
「ええ、とっても」
その笑顔の裏でどれだけ傷付き、涙を零してきたのだろうか。これからも出自がきっと彼女を追い詰めるのだろう。その過酷な道に彼女を引き込んだのは、僕だ。
「過去なんて消してしまいたいな」
「あら、過去があるから今の私がいるのに?…過去があるから強くなれたのに」
「でも…」
不安そうに頬を撫でる彼女の手は暖かい。素直にその手に頬を預ける。
「過去があったから今の幸せがあるの…私の思い出を消さないで?」
「お手上げだ…弱い君もみたかったけど?」
「うーんっと甘やかされたら弱くなっちゃうかもねっ」
そう言って舌を出す子供みたいな君が大好きだ。きっと甘やかしたところで彼女はこれからも己で立ち向かうのだろう。
どうかこれからは僕もその隣にいさせて欲しい。君の隣に立てることが僕の幸せなのだから。〟
思い浮かぶのは王子とヒロインの結婚式の挿絵。向かい合う二人の笑顔が「ハッピーエンド」だと物語っている。
私が見たことないほどに幸せそうな私。
「……私じゃない」
「ごめんね」
まるで傷付けられたかのように歪むレイヴンの表情が私には分からなかった。
何も言わずに去ったくせに、連絡ひとつなくいきなり現れて…違う、そんなことで怒ったことは1度もない、これは…ただの八つ当たりだ
寒さで悴む指先の痛さも、喉の乾きで張り付く喉や飢えで動けなくなる辛さも、理不尽に襲いかかる暴力も私には耐えられなかった。尊厳を奪われる苦しみなどもう耐えられる気がしなくて逃げた。
だけどこれは物語で、美しい容姿をした人達が舞台に立つ。そして心を動かす物語を作り上げた者にハッピーエンドが訪れる。
私ではない
ヒロインではない、と伸ばし続けた髪も日に晒し続けて日焼けした肌もこの美しい顔が全てを否定してくる。
立ち向かうことをやめたヒロインはこれからどうなってしまうんだろう。矯正力というものが働いて痛めつけられる日々に戻されてしまうのだろうか?それとも悪役令嬢がヒロインになって…私が…断罪されて、死ぬの?
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