31 / 79
レイヴン父
しおりを挟む
クレイン・コンドラー18歳。
コンドラー公爵家嫡男、次期当主として厳しく教育を受けてきた。貴族の腹の探り合いも教われば分かりやすく、表情だけで相手を翻弄することも拷問を使ったやり方も学ぶ機会があったから覚えられた。そして、それを淡々とこなしてきた。
ただ一つ、クレインには分からないことがあった。女性から向けられる好意という感情。
文字としては分かっているが、経験した事の無い感情は気になったとしても、クレイン自身に芽生えることはない。
黒髪に鮮やかな青い瞳の容姿端麗なクレインはパーティや茶会では必ず女性に囲まれる。婚約者が居ないのだから当然だ。
娼婦や男色家の喜ぶ顔を幼い頃から見ていたクレインには、媚びても痛めつけてもいないのに好意を寄せる女性達の心がよく分からなかった。
どちらかと言うと弟のケイルの方が媚びることは上手く、人懐っこい性格が女性には受けると思っていた。が、ケイルは今、社交界の噂の種となっている。
「コンドラー公爵家の次男は男色家」
噂が広まる直前、学園で友人と喧嘩したらしいケイルが顔を真っ青にして震えていたのを覚えている。それ以来、ケイルは社交の場に出ていない。それでも公爵家というのは目立つものなのだろう。尾ひれを付けた噂話は今も泳ぎ続けて、人々を楽しませている。
「クレイン様が婚約者を作らないのも…」
余計なお世話だ。現当主の父が隣国で光魔法持ちを探しているというから、きっと俺の婚約もこんなに遅れているのだろう。
だが、そんな噂を黙っていれば家格に傷が付く。余計な噂にまたヒレを付けたご令嬢に笑いかければ、すぐに寄ってきた。
「お嬢さん、時間を持て余す私と踊っていただけないでしょうか?」
「いい加減にしてくれ」
自室に戻り、かっちり締めていた首元のネクタイを緩めれば、我慢していた言葉と溜息が漏れる。
必要な社交を済ませて、家に帰ればすぐにケイルの自室へと向かった。
「社交の場に出て、少し女性と踊ればいいんだ」
「噂がおさまるのなら、どうということはないだろう?」
「俺だけに背負わせるのか?なら勝手にしろ」
終始黙っていたケイルに対して吐き捨てた言葉に後悔もあったが、出てしまったものはしょうがない。ケイルが自分から動くまで放っておけばいい。
明日は希少な薬草が生える地域に住む部族に、採取させてもらっている感謝の挨拶をしなければならない。父の代わりに。野蛮だと聞くから早めに寝て、体調を万全にしておかなくてはならないだろう。
不在の父が探している光魔法持ちというのは希少でありながら災いの元でもある。
唯一光魔法持ちが誕生する故に「聖女」に頼りきりのお隣、聖王国のせいでもあるのだが。
それでも光魔法持ちが大事なのは、その魔力の柔軟性にあった。本人がどんなに魔力が少なくても治癒魔法が使えなくとも、溢れる魔力が周りの人間の魔力や体力を引き上げ、底上げをしてくれる。
そして光魔法持ちの母体から産まれた子供は、稀に不死に近い肉体を得る。
それをお隣は分かっていない。治癒魔法を使えない光魔法持ちは使えないからと捨てられるか売られるのみ。街中には孤児が溢れていると聞く。
それでも聖王国でしか光魔法持ちは生まれないのだから、今も国が潰れないでいられるのだろう。
光魔法なんかなくても俺は丈夫だ。若くして訓練中に脚を痛めた父はそんな光魔法に縋っているようにも見える。息子が健康なだけじゃだめなのだろうか?
コンドラー公爵家嫡男、次期当主として厳しく教育を受けてきた。貴族の腹の探り合いも教われば分かりやすく、表情だけで相手を翻弄することも拷問を使ったやり方も学ぶ機会があったから覚えられた。そして、それを淡々とこなしてきた。
ただ一つ、クレインには分からないことがあった。女性から向けられる好意という感情。
文字としては分かっているが、経験した事の無い感情は気になったとしても、クレイン自身に芽生えることはない。
黒髪に鮮やかな青い瞳の容姿端麗なクレインはパーティや茶会では必ず女性に囲まれる。婚約者が居ないのだから当然だ。
娼婦や男色家の喜ぶ顔を幼い頃から見ていたクレインには、媚びても痛めつけてもいないのに好意を寄せる女性達の心がよく分からなかった。
どちらかと言うと弟のケイルの方が媚びることは上手く、人懐っこい性格が女性には受けると思っていた。が、ケイルは今、社交界の噂の種となっている。
「コンドラー公爵家の次男は男色家」
噂が広まる直前、学園で友人と喧嘩したらしいケイルが顔を真っ青にして震えていたのを覚えている。それ以来、ケイルは社交の場に出ていない。それでも公爵家というのは目立つものなのだろう。尾ひれを付けた噂話は今も泳ぎ続けて、人々を楽しませている。
「クレイン様が婚約者を作らないのも…」
余計なお世話だ。現当主の父が隣国で光魔法持ちを探しているというから、きっと俺の婚約もこんなに遅れているのだろう。
だが、そんな噂を黙っていれば家格に傷が付く。余計な噂にまたヒレを付けたご令嬢に笑いかければ、すぐに寄ってきた。
「お嬢さん、時間を持て余す私と踊っていただけないでしょうか?」
「いい加減にしてくれ」
自室に戻り、かっちり締めていた首元のネクタイを緩めれば、我慢していた言葉と溜息が漏れる。
必要な社交を済ませて、家に帰ればすぐにケイルの自室へと向かった。
「社交の場に出て、少し女性と踊ればいいんだ」
「噂がおさまるのなら、どうということはないだろう?」
「俺だけに背負わせるのか?なら勝手にしろ」
終始黙っていたケイルに対して吐き捨てた言葉に後悔もあったが、出てしまったものはしょうがない。ケイルが自分から動くまで放っておけばいい。
明日は希少な薬草が生える地域に住む部族に、採取させてもらっている感謝の挨拶をしなければならない。父の代わりに。野蛮だと聞くから早めに寝て、体調を万全にしておかなくてはならないだろう。
不在の父が探している光魔法持ちというのは希少でありながら災いの元でもある。
唯一光魔法持ちが誕生する故に「聖女」に頼りきりのお隣、聖王国のせいでもあるのだが。
それでも光魔法持ちが大事なのは、その魔力の柔軟性にあった。本人がどんなに魔力が少なくても治癒魔法が使えなくとも、溢れる魔力が周りの人間の魔力や体力を引き上げ、底上げをしてくれる。
そして光魔法持ちの母体から産まれた子供は、稀に不死に近い肉体を得る。
それをお隣は分かっていない。治癒魔法を使えない光魔法持ちは使えないからと捨てられるか売られるのみ。街中には孤児が溢れていると聞く。
それでも聖王国でしか光魔法持ちは生まれないのだから、今も国が潰れないでいられるのだろう。
光魔法なんかなくても俺は丈夫だ。若くして訓練中に脚を痛めた父はそんな光魔法に縋っているようにも見える。息子が健康なだけじゃだめなのだろうか?
1
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる