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レイヴン父
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メアをベッドへと運び、贈呈品や泊まっている招待客のリストを机に並べ、事務作業をしていると扉がノックされる。
「旦那様がお呼びです」
「すぐに行く」
チェックを済ませたリストを従者に預け、執事と共に廊下を進むと奥の方から扉を激しく叩く音が聞こえる。
「何の騒ぎだ」
「お気になさらず、旦那様がお待ちですので」
招待客が泊まっているのは別邸だ。気にはなったが、屋敷で領民の事情聴取をすることも偶にあり、メアのいるゲストルームには被害は及ばないと言うので、執事に従って公爵の執事室へと向かう。
「お呼びですか父上」
「あぁ、座ってくれ」
昼間、最初だけ顔を出した父は皇太子夫妻に挨拶をすると招待されていた家臣を何名か連れて、すぐにその場から居なくなっていた。何か事件があったのだろうとは思っていたが呼ばれることもなく、気にも留めていなかった。
「聖王国から流れた孤児らが徒党を組み、組織化しているのは知っているな?」
父は地図を開き、帝国の下にある王国との境を指差す。
「はい、そこは仕切っていた人物を捕まえて静かになったはずですよね」
「この国境沿いで帝国の貴族の馬車が被害に遭った」
「新たな頭目が?」
「あぁ…そこをお前に任せたい」
「それは構いませんが…そこは父上の…」
「その後、その領地をお前に渡す」
「は?」
「伯爵位を与えると言っているんだ」
各地の犯罪組織を潰し、争いごとを収めてきた父は複数の離れた領地と爵位を持っていた。
「私の身体は…もう魔法を使うだけで不整脈になる、最近では視覚までおかしくなっている」
「そんな…」
「私は領地を守れない、公爵位はケイルに渡す」
「部族は……」
「あぁ、薬草は土壌でも調べて研究すればいいだけの話だ、もう手は出さない」
魔法が使えないからとは言え、脅しまで使っていた父が呆気なく引き下がるその思惑が分からない。父は爵位を下げるから、後は自分で何とかしろということなのだろうが
では、あの女性はどうなる?
ケイルは知っているのだろうか…
先程、騒がしかった場所は母の寝室辺りだ。クレインは嫌な予感がして父を見るが、両手を組んで顔を伏せているため、表情が読み取れない。
「………ケイルはどこですか」
「邪魔をするな」
「…ふざけるな、貴方はどこまで残酷になれば気が済むんだ」
父の執務室を飛び出し、母の寝室へと走る。
扉を激しく叩く音はすでに止んでいて、扉の前には父に仕える〝影〟が二人、黒いローブを着て佇んでいる。
「どけ」
「おやめ下さい」
「ケイル、おい…ケイルッ!!」
影が、クレインが部屋に入ろうとするのを押さえてくるため、必死に抵抗して扉に耳を当てる。
「いやだ、お願い…やめて、開けてくれお願いあけて」
ケイルが扉に張り付き、泣いているのが聞こえたクレインは1歩下がると、一人の影の腕を掴み、壁へと叩きつけた。
そして、もう一人の影が動く前に剣先を向ける。
「ケイル、そこをどけ」
両手を上げる顔の見えない影を横目にクレインは扉へと声をかけた。一拍置いて扉を蹴破ると、見たこともない魔法陣の上で震えて座り込むケイルが見えて、剣を仕舞い駆け寄った。
「ケイル、大丈夫か?」
「うう…やめてって、やめてって言ったのに…」
子供のように泣き続け、耳を真っ赤にするケイルは薄いガウンを纏い、それを隠すように震えている。
自分が来ていた上着をケインの肩にかけ、従者にケイルを運ばせる。
ベッドへと向かうと、包帯をしているせいで上気した顔色が目立つプラチナブロンドの女性が派手な夜着のまま横たわっていた。ベッドの脇にあるお香からは、甘い匂いが漂ってくる。
「誰も入るな」
扉の外ではメイドや従者が数名集まっていたため、それらに声をかけ、女性をシーツで包み、抱き上げる。なるべく息をしないように部屋の窓を開けて、外へと飛び出した。
「あなたが…クレインさまなのですね」
か細い声には返事をせず、父の元へと向かう。
「旦那様がお呼びです」
「すぐに行く」
チェックを済ませたリストを従者に預け、執事と共に廊下を進むと奥の方から扉を激しく叩く音が聞こえる。
「何の騒ぎだ」
「お気になさらず、旦那様がお待ちですので」
招待客が泊まっているのは別邸だ。気にはなったが、屋敷で領民の事情聴取をすることも偶にあり、メアのいるゲストルームには被害は及ばないと言うので、執事に従って公爵の執事室へと向かう。
「お呼びですか父上」
「あぁ、座ってくれ」
昼間、最初だけ顔を出した父は皇太子夫妻に挨拶をすると招待されていた家臣を何名か連れて、すぐにその場から居なくなっていた。何か事件があったのだろうとは思っていたが呼ばれることもなく、気にも留めていなかった。
「聖王国から流れた孤児らが徒党を組み、組織化しているのは知っているな?」
父は地図を開き、帝国の下にある王国との境を指差す。
「はい、そこは仕切っていた人物を捕まえて静かになったはずですよね」
「この国境沿いで帝国の貴族の馬車が被害に遭った」
「新たな頭目が?」
「あぁ…そこをお前に任せたい」
「それは構いませんが…そこは父上の…」
「その後、その領地をお前に渡す」
「は?」
「伯爵位を与えると言っているんだ」
各地の犯罪組織を潰し、争いごとを収めてきた父は複数の離れた領地と爵位を持っていた。
「私の身体は…もう魔法を使うだけで不整脈になる、最近では視覚までおかしくなっている」
「そんな…」
「私は領地を守れない、公爵位はケイルに渡す」
「部族は……」
「あぁ、薬草は土壌でも調べて研究すればいいだけの話だ、もう手は出さない」
魔法が使えないからとは言え、脅しまで使っていた父が呆気なく引き下がるその思惑が分からない。父は爵位を下げるから、後は自分で何とかしろということなのだろうが
では、あの女性はどうなる?
ケイルは知っているのだろうか…
先程、騒がしかった場所は母の寝室辺りだ。クレインは嫌な予感がして父を見るが、両手を組んで顔を伏せているため、表情が読み取れない。
「………ケイルはどこですか」
「邪魔をするな」
「…ふざけるな、貴方はどこまで残酷になれば気が済むんだ」
父の執務室を飛び出し、母の寝室へと走る。
扉を激しく叩く音はすでに止んでいて、扉の前には父に仕える〝影〟が二人、黒いローブを着て佇んでいる。
「どけ」
「おやめ下さい」
「ケイル、おい…ケイルッ!!」
影が、クレインが部屋に入ろうとするのを押さえてくるため、必死に抵抗して扉に耳を当てる。
「いやだ、お願い…やめて、開けてくれお願いあけて」
ケイルが扉に張り付き、泣いているのが聞こえたクレインは1歩下がると、一人の影の腕を掴み、壁へと叩きつけた。
そして、もう一人の影が動く前に剣先を向ける。
「ケイル、そこをどけ」
両手を上げる顔の見えない影を横目にクレインは扉へと声をかけた。一拍置いて扉を蹴破ると、見たこともない魔法陣の上で震えて座り込むケイルが見えて、剣を仕舞い駆け寄った。
「ケイル、大丈夫か?」
「うう…やめてって、やめてって言ったのに…」
子供のように泣き続け、耳を真っ赤にするケイルは薄いガウンを纏い、それを隠すように震えている。
自分が来ていた上着をケインの肩にかけ、従者にケイルを運ばせる。
ベッドへと向かうと、包帯をしているせいで上気した顔色が目立つプラチナブロンドの女性が派手な夜着のまま横たわっていた。ベッドの脇にあるお香からは、甘い匂いが漂ってくる。
「誰も入るな」
扉の外ではメイドや従者が数名集まっていたため、それらに声をかけ、女性をシーツで包み、抱き上げる。なるべく息をしないように部屋の窓を開けて、外へと飛び出した。
「あなたが…クレインさまなのですね」
か細い声には返事をせず、父の元へと向かう。
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