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レイヴン父
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焼けるような陽射しを塞いだ天幕の中に聞こえる談笑する招待客の声。魔道具で送り込まれる冷たい風の音。
それら全てがソファに沈むクレインの耳には届かない。
メアは我慢していたのか?どうして言ってくれなかったんだ?
メアはいつだって笑顔でクレインの名を呼ぶ。初めて会った時の、変わらない無邪気な笑顔で。クレインはそれにいつも安心していた。
俺が諦めないという度に…メアは自分の気持ちを押し殺していたのだろうか…
「辛気臭い空気ー」
入口に寄りかかったケイルは、つまらなそうに天幕から垂れ下がる紐で遊んでいる。
「……メアはどうした」
「あー皇太子妃が来て追い出されちゃった」
「そうか」
「あれー、今日は誕生祭って聞いたんだけどー?僕、間違えて葬式会場に来ちゃったのかなぁ?」
クレインはケイルの軽口に反応する気にもなれなかった。ソファからいつまでも動く様子のないクレインに、ケイルは溜息を吐く。
「そろそろ贈呈式の時間でしょー?準備しなくていいの」
「あぁ…行くよ」
「メアさん、上手くできたら兄さんが喜ぶかな?ってずっと言ってたよー、いい加減その辛気臭い空気出すのやめなよ」
「え、ちょっ…兄さんっ?」
勢い良く顔を上げたクレインはケイルの呼ぶ声にも止まらず、邸内へと駆け出す。
ちゃんとメアの正直な気持ちを聞かないといけない
「いつか壊れるわよ」
クレインの頭の中でティタニアの言った言葉が反響する。
父と同じ事はしたくない、俺はメアの笑顔が大好きだ…その笑顔を守る為なら…
「メア」
「クレイン!見て、ティタニア様にブレスレット貰ったの!」
「あぁ…」
邸内で一人歩く練習をするメアの後ろ姿は最初の頃よりも背筋が伸び、ドレスがよく映える貴族らしい姿勢になった。
だけど口を開けばその愛らしさが抜けてなくて、振り向いた彼女は変わらない笑顔を見せてくれる。いつもなら心が落ち着くはずなのに、ズキリと胸が傷んで、言葉が出ない。
「クレイン?…緊張してるの?」
「そう…かもしれないね」
「私が失敗しちゃったら台無しだもんね…頑張るよっ」
「違うよ……メア、頑張らなくてもいいんだ」
「え…?」
「無理して頑張らないでほしい、この式も…辛かったら止めたっていいんだ」
「なに…言ってるの?」
「君が辛い思いをして壊れるくらいなら……」
俺が諦めるから、そう言いきれず、言葉に詰まって唇が震える。
「どうして…どうしてそんなこと言うの?今まで一緒に頑張ってきたのに…私、まだ何か足りなかった?…嫌だ、お願い、そんな事言わないで…」
「……メア?」
あんなに型崩れを気にしていたドレスで床にしゃがみこみ、涙を零すメア。
涙を流すのもこんなに取り乱すのも初めて見たクレインは動揺してしまう。
我に返り、すぐにその震える背中を撫でた。
「メア…泣かないでくれ」
「……歩き方、まだぎこちない?」
「見惚れるほどに美しい姿勢だ、一番近くで見てきた俺が言うんだから間違いないよ」
「じゃあ…御屋敷に居る光魔法使い様を好きになっちゃった?」
「好きになるわけないだろう?」
「ほんとかなぁ…私の事嫌いになっちゃった?」
「嫌いなわけが無い、大好きだ…愛してるんだ」
「私が……貴族じゃないから……」
否定が出来なかった。クレインが平民になってメアの家族を、未来を守れる自信も、貴族のまま、メアの笑顔を壊してまでする結婚もどちらも幸せだとは思えなかった。
「……ふふ、ごめんね、お化粧直ししてもらってくるね」
メアが去った後、そのまま時間になり庭園までエスコートすれば、招待客の前でも微笑みを携え、感謝状贈呈式では先程まで泣いていたとは思えないほど、メアは堂々としていた。
ティタニアがメアを褒めるといつもの笑顔が一瞬だけ見えて、すぐにクレインの顔色を伺う。
「完璧だったよメア」
「えへへ…良かった」
無事に誕生祭と贈呈式が終わり、「ここに居て欲しい」というメアが眠るまでクレインはゲストルームで過ごした。
それら全てがソファに沈むクレインの耳には届かない。
メアは我慢していたのか?どうして言ってくれなかったんだ?
メアはいつだって笑顔でクレインの名を呼ぶ。初めて会った時の、変わらない無邪気な笑顔で。クレインはそれにいつも安心していた。
俺が諦めないという度に…メアは自分の気持ちを押し殺していたのだろうか…
「辛気臭い空気ー」
入口に寄りかかったケイルは、つまらなそうに天幕から垂れ下がる紐で遊んでいる。
「……メアはどうした」
「あー皇太子妃が来て追い出されちゃった」
「そうか」
「あれー、今日は誕生祭って聞いたんだけどー?僕、間違えて葬式会場に来ちゃったのかなぁ?」
クレインはケイルの軽口に反応する気にもなれなかった。ソファからいつまでも動く様子のないクレインに、ケイルは溜息を吐く。
「そろそろ贈呈式の時間でしょー?準備しなくていいの」
「あぁ…行くよ」
「メアさん、上手くできたら兄さんが喜ぶかな?ってずっと言ってたよー、いい加減その辛気臭い空気出すのやめなよ」
「え、ちょっ…兄さんっ?」
勢い良く顔を上げたクレインはケイルの呼ぶ声にも止まらず、邸内へと駆け出す。
ちゃんとメアの正直な気持ちを聞かないといけない
「いつか壊れるわよ」
クレインの頭の中でティタニアの言った言葉が反響する。
父と同じ事はしたくない、俺はメアの笑顔が大好きだ…その笑顔を守る為なら…
「メア」
「クレイン!見て、ティタニア様にブレスレット貰ったの!」
「あぁ…」
邸内で一人歩く練習をするメアの後ろ姿は最初の頃よりも背筋が伸び、ドレスがよく映える貴族らしい姿勢になった。
だけど口を開けばその愛らしさが抜けてなくて、振り向いた彼女は変わらない笑顔を見せてくれる。いつもなら心が落ち着くはずなのに、ズキリと胸が傷んで、言葉が出ない。
「クレイン?…緊張してるの?」
「そう…かもしれないね」
「私が失敗しちゃったら台無しだもんね…頑張るよっ」
「違うよ……メア、頑張らなくてもいいんだ」
「え…?」
「無理して頑張らないでほしい、この式も…辛かったら止めたっていいんだ」
「なに…言ってるの?」
「君が辛い思いをして壊れるくらいなら……」
俺が諦めるから、そう言いきれず、言葉に詰まって唇が震える。
「どうして…どうしてそんなこと言うの?今まで一緒に頑張ってきたのに…私、まだ何か足りなかった?…嫌だ、お願い、そんな事言わないで…」
「……メア?」
あんなに型崩れを気にしていたドレスで床にしゃがみこみ、涙を零すメア。
涙を流すのもこんなに取り乱すのも初めて見たクレインは動揺してしまう。
我に返り、すぐにその震える背中を撫でた。
「メア…泣かないでくれ」
「……歩き方、まだぎこちない?」
「見惚れるほどに美しい姿勢だ、一番近くで見てきた俺が言うんだから間違いないよ」
「じゃあ…御屋敷に居る光魔法使い様を好きになっちゃった?」
「好きになるわけないだろう?」
「ほんとかなぁ…私の事嫌いになっちゃった?」
「嫌いなわけが無い、大好きだ…愛してるんだ」
「私が……貴族じゃないから……」
否定が出来なかった。クレインが平民になってメアの家族を、未来を守れる自信も、貴族のまま、メアの笑顔を壊してまでする結婚もどちらも幸せだとは思えなかった。
「……ふふ、ごめんね、お化粧直ししてもらってくるね」
メアが去った後、そのまま時間になり庭園までエスコートすれば、招待客の前でも微笑みを携え、感謝状贈呈式では先程まで泣いていたとは思えないほど、メアは堂々としていた。
ティタニアがメアを褒めるといつもの笑顔が一瞬だけ見えて、すぐにクレインの顔色を伺う。
「完璧だったよメア」
「えへへ…良かった」
無事に誕生祭と贈呈式が終わり、「ここに居て欲しい」というメアが眠るまでクレインはゲストルームで過ごした。
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