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レイヴン父
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遠くの空には大きな入道雲が見え、青空が広がっている。そんな真夏日にコンドラー公爵邸の庭園には沢山の招待客が集まっていた。
「公子様おめでとうございます、是非娘からも」
「まぁ大変麗しく成長なされて…この子も」
ひっきりなしにかけられる言葉はいつまでも止まない。そして、娘の紹介を怠らない挨拶にそろそろ笑顔が引き攣りかけてきたクレインは設置された天幕で涼むユリウスとティタニアの元へと逃げた。
「主役がここに居てもいいのかしら」
「駄目だろうね、というか邪魔をしないでくれ」
「メアが足りない」
夫婦揃って、飽きれた顔でクレインを見ている。メアとの恋が実り、ユリウスに報告してからはクレインの惚気話が加速し、引かれるほどになっていた。
最初からメアをエスコートする気でいたクレインは
「貴族や令嬢達に目をつけられて気後れしたら居心地悪くなるだろうし、感謝状贈呈式の時にエスコートしろ」
とパーティ直前にユリウスに言われて嫌々それを呑んだ。
「あんなドレス着て並べば、攻撃されるのは分かっていたでしょうに…」
「お花畑だなとは思ってたけど、正直ここまでとは思わなかったよ…」
クレインは2人の言葉に今更実感し、項垂れた。
メアを庭園に誘ってみたが、贈呈式の予行練習がしたいからと邸内で待機している。ケイルと一緒に。
何故かいつからは分からないが、いつの間にか2人は仲良くなっていて薬草や古代文字、魔法の話で盛り上がっているのをたまに見ることがある。塞ぎ込んでいたケイルが明るく人と話すようになったのは嬉しい。だけど先日廊下でケイルとすれ違った時のことを思い出す。
「あ!メアさんはっけーん、この前言ってた罠試したんだけどさぁ」
「あっ!あれすごいでしょー?」
「すごいってもんじゃないよぉ」
「ケイル、廊下で喋るな」
「クレイン?…怖いよ?」
「おーこわいこわい、でさー」
メアが気を使って会話を切り上げてくれたが、思い出せば今でも嫉妬してしまう。
「弟に嫉妬するなんて…情けないな」
「恋煩いっていうのはそういうものよ」
「えっ、ティアは私に嫉妬してくれたことあるの?」
「さぁね、それより…貴方だって毎日別の女性と話してるのでしょう?」
「あぁ…まぁ…」
光魔法持ちの女性とは毎朝、何気ない会話を続けている。始めは父に光魔法の恩恵を受けさせようと誘ってみたが断られ、「花は香りがするから好きらしいですよ」と何気ない会話を父に報告すれば毎朝メイドも知らない新しい花が部屋に飾ってあったので父も少なからず会ってはいるのだろうと思い、会話を続けていた。
「はぁ…曖昧なことばかりして…いっその事、爵位なんて放棄してしまいなさいよ」
「えっ…それは困るなぁ、ケイルは私の手にも余るよ…」
「爵位を放棄して平民になればそれこそ部族を潰されそうな時に何も出来なくなる」
身分なんて投げ出して、メアと一緒になりたい。クレインはこれまで何度も思っていた。だが貴族としての立場でしか問題の解決を見出せず、更なる問題が増えていくばかりだった。それを、簡単でしょう?と言うように放棄しろと言うティタニアの言い方が気に食わなかった。
「あら…そんなの今だって変わらないじゃない。公爵に楯突いて皇帝陛下に爵位はいらないから部族の管理は俺がやる、って直談判するぐらいの根性があるのかと思えば、自分勝手な行動してうじうじ悩んで…それでいて貴族という立場を享受してメアを連れ回し、結婚することしか頭にないのだと思っていたわ」
「ティア…それはまだ」
「黙って…メアの気持ちが貴方に分かって?分からないままに皇城に連れて来られて、今まで触れてこなかった作法や風習に文句ひとつ言わず泣きもせず…過保護な貴方が私を批難しなかったということはメアの靴擦れや筋肉痛にも気付いていなかったのでしょう?」
……靴擦れ?メアはいつだって笑顔でだった。痛みに耐える様な素振りなんて少しも見えず、楽しい、と言っていた。
「それでも貴方と添い遂げたい、力になりたい…信じているからと貴方に笑顔で従い続けているのでしょうけど」
「……どういうことだ」
「私を責めるのは…メアの優しさを責めることと同じよ…言ってしまった私をメアが責めるのなら分かるけれど。正直、あの子は健気すぎるわ…自分の心や身体が擦り切れても気付かないまま笑顔を通して…いつか壊れるわよ」
「……」
「ティア…言い過ぎだよ…今日はクレインの誕生祭だよ?」
「あら…ごめんなさいね、愛することと支えることを混同してらっしゃるようだったからつい…貴方たちみてると、理解できなかった愛人や愛妾の存在の意味がよく分かって勉強になるわ」
ティタニアは「喉が渇いたわ」と言い、ユリウスが「メアさんともっとよく話し合ってみなよ、クレインなら大丈夫だから」と肩を叩いてティタニアを追いかけ、クレインは天幕に一人残された。
「公子様おめでとうございます、是非娘からも」
「まぁ大変麗しく成長なされて…この子も」
ひっきりなしにかけられる言葉はいつまでも止まない。そして、娘の紹介を怠らない挨拶にそろそろ笑顔が引き攣りかけてきたクレインは設置された天幕で涼むユリウスとティタニアの元へと逃げた。
「主役がここに居てもいいのかしら」
「駄目だろうね、というか邪魔をしないでくれ」
「メアが足りない」
夫婦揃って、飽きれた顔でクレインを見ている。メアとの恋が実り、ユリウスに報告してからはクレインの惚気話が加速し、引かれるほどになっていた。
最初からメアをエスコートする気でいたクレインは
「貴族や令嬢達に目をつけられて気後れしたら居心地悪くなるだろうし、感謝状贈呈式の時にエスコートしろ」
とパーティ直前にユリウスに言われて嫌々それを呑んだ。
「あんなドレス着て並べば、攻撃されるのは分かっていたでしょうに…」
「お花畑だなとは思ってたけど、正直ここまでとは思わなかったよ…」
クレインは2人の言葉に今更実感し、項垂れた。
メアを庭園に誘ってみたが、贈呈式の予行練習がしたいからと邸内で待機している。ケイルと一緒に。
何故かいつからは分からないが、いつの間にか2人は仲良くなっていて薬草や古代文字、魔法の話で盛り上がっているのをたまに見ることがある。塞ぎ込んでいたケイルが明るく人と話すようになったのは嬉しい。だけど先日廊下でケイルとすれ違った時のことを思い出す。
「あ!メアさんはっけーん、この前言ってた罠試したんだけどさぁ」
「あっ!あれすごいでしょー?」
「すごいってもんじゃないよぉ」
「ケイル、廊下で喋るな」
「クレイン?…怖いよ?」
「おーこわいこわい、でさー」
メアが気を使って会話を切り上げてくれたが、思い出せば今でも嫉妬してしまう。
「弟に嫉妬するなんて…情けないな」
「恋煩いっていうのはそういうものよ」
「えっ、ティアは私に嫉妬してくれたことあるの?」
「さぁね、それより…貴方だって毎日別の女性と話してるのでしょう?」
「あぁ…まぁ…」
光魔法持ちの女性とは毎朝、何気ない会話を続けている。始めは父に光魔法の恩恵を受けさせようと誘ってみたが断られ、「花は香りがするから好きらしいですよ」と何気ない会話を父に報告すれば毎朝メイドも知らない新しい花が部屋に飾ってあったので父も少なからず会ってはいるのだろうと思い、会話を続けていた。
「はぁ…曖昧なことばかりして…いっその事、爵位なんて放棄してしまいなさいよ」
「えっ…それは困るなぁ、ケイルは私の手にも余るよ…」
「爵位を放棄して平民になればそれこそ部族を潰されそうな時に何も出来なくなる」
身分なんて投げ出して、メアと一緒になりたい。クレインはこれまで何度も思っていた。だが貴族としての立場でしか問題の解決を見出せず、更なる問題が増えていくばかりだった。それを、簡単でしょう?と言うように放棄しろと言うティタニアの言い方が気に食わなかった。
「あら…そんなの今だって変わらないじゃない。公爵に楯突いて皇帝陛下に爵位はいらないから部族の管理は俺がやる、って直談判するぐらいの根性があるのかと思えば、自分勝手な行動してうじうじ悩んで…それでいて貴族という立場を享受してメアを連れ回し、結婚することしか頭にないのだと思っていたわ」
「ティア…それはまだ」
「黙って…メアの気持ちが貴方に分かって?分からないままに皇城に連れて来られて、今まで触れてこなかった作法や風習に文句ひとつ言わず泣きもせず…過保護な貴方が私を批難しなかったということはメアの靴擦れや筋肉痛にも気付いていなかったのでしょう?」
……靴擦れ?メアはいつだって笑顔でだった。痛みに耐える様な素振りなんて少しも見えず、楽しい、と言っていた。
「それでも貴方と添い遂げたい、力になりたい…信じているからと貴方に笑顔で従い続けているのでしょうけど」
「……どういうことだ」
「私を責めるのは…メアの優しさを責めることと同じよ…言ってしまった私をメアが責めるのなら分かるけれど。正直、あの子は健気すぎるわ…自分の心や身体が擦り切れても気付かないまま笑顔を通して…いつか壊れるわよ」
「……」
「ティア…言い過ぎだよ…今日はクレインの誕生祭だよ?」
「あら…ごめんなさいね、愛することと支えることを混同してらっしゃるようだったからつい…貴方たちみてると、理解できなかった愛人や愛妾の存在の意味がよく分かって勉強になるわ」
ティタニアは「喉が渇いたわ」と言い、ユリウスが「メアさんともっとよく話し合ってみなよ、クレインなら大丈夫だから」と肩を叩いてティタニアを追いかけ、クレインは天幕に一人残された。
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