前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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家族がいないと即答したレイヴンにそれ以上、深く問いかけることも出来ず、それでも気にはなってしまう。ユフィの頭の中ではもやもやとした疑問が膨らんで何度も小説の内容を思い返していた。

「フィ、またぼんやりしてる」
「……あ、ごめんね」
「どこか具合悪い?」
「え…あ、ううん!大丈夫だよ」

頬にかかる濃いグレーの髪を耳にかける仕草は色っぽく、心配そうに顔を覗いてくるレイヴンに心臓がドキリと跳ねる。

いやいやいやドキリ、じゃないよっ!推しとは言え、子供の仕草になに釘付けになってるんだ私は…

「ぷっ、あははは、ねぇ…フィ顔赤いよ?」
「あっ、いやこれは…暑くて」
「こんなに寒いのに?…あー、なんかやらしいことでも考えてた?フィのえっちー」
「ちがうよっ……もう!からかわないで」

顔を掌で仰いでも、レイヴンが煽るせいで顔はどんどん赤くなっていく。耳まで熱くなるのを感じた頃、目的の防具屋についた。最近刃こぼれして柄が緩んだナイフをお兄さんに見てもらうためだ。

「お、ユフィじゃないか、久しぶりだね…と後ろの子は初めましてかな?」
「キリさんお久しぶりです、この子は…」
「レイヴンです、初めまして」

先程までユフィをからかって意地悪な笑顔を浮かべていたのが嘘のように、人好きのする顔で挨拶をするレイヴンにユフィは唖然とする。

「仲が良くて羨ましいね」

防具屋のキリさんの視線はレイヴンと繋いだままの手にあり、ユフィは慌てて手を離すと、キリさんがくれた鞄からナイフを取り出す。

「刃自体も薄くなってるし買い換えた方がいいね」
「そうですか…分かりました」
「そういえば、ユフィは聞いた?聖女が見つかったって話」
「聖女…いえ、初耳です」

小説の中では、義姉に踏みつけられた花が思ったよりも大きく育ってしまい、バケツに入れて部屋の中に隠していた。その花を義家族が留守にしている間に別の場所に移そうとして外に出た先で王子とぶつかり、ヒロインの力に気付かれる。


「今年12歳の赤い瞳をした女の子、だってさ」
「あはは、似た人もいるものですね」
「赤い瞳の子供なんてこの国じゃそうそういないよ、騎士にはユフィのことは黙っておいたけど…」
「……」

小説よりちょっと早い展開だけど…いやいやいや、まず私は王子と遭遇してないんですけど?!本当は勘違いで私、実はヒロインに似たモブだったとか?それとも私以上に魔力お化けの聖女が見つかったとか?

それだったらいいな

キリさんはユフィが目立ちたくないことを察してくれていて、これからも知らないふりをする、と言ってくれた。お礼を言って防具屋を出ると店内では黙ったままだったレイヴンが、ユフィの腕を引っ張り歩いていく。

「ヴィ、どこにいくの?痛いよ」

声をかけても返事をしないレイヴンは路地裏に入るとやっと立ち止まった。振り返ったその表情には感情が見えず、不安になったユフィがレイヴンの頬を触ると、その手に寄り添ってくる。

「ヴィ?」
「フィ…この国は好き?」
「うーん…お世話になった人がいるのは確かだし、その人達は大好きだけど、国自体はそんなに…かな」
「じゃあさ、今すぐこの国出よう?」
「えっ、無理だよ…マーサさんの依頼もあるし、まだ12歳になってないもの」
「そんなのほっとけばいいじゃん…僕が何とかするから…お願い」

不安に揺れるその顔にはいつものあざとさがなく、頬に添えた手に縋り付くレイヴンは必死ささえ感じた。

「ごめんね…お世話になった人達にはちゃんと挨拶をしてから国を出たいな、それに誕生日は来週だよ?」
「……じゃあ来週には出れる?」

レイヴンは私が「聖女」だと思ってるのかな?
どちらにしてもこの国に未練はないし、確かめたいこともある

レイヴンの頬を掴んで、仕返しとばかりにユフィは意地悪な顔で笑った。

「うん、いいよ」

ほっと安心して笑うレイヴンを見て、ユフィもひとりで国を出ることが不安だったのだと今更気付いた。
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