前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

文字の大きさ
57 / 79

25

しおりを挟む
涙のあとを腕で乱暴に拭ったユフィは、鏡に映った情けない自分と目が合い、両頬を叩いた。

今まで物語から逃げることばっかり考えてた、舞台に上がるような派手な演出はなくて…それでも日々の幸せがあることにやっと気付けたんだ、助けてもらってばかりじゃだめ…私の幸せは私が決める…

「私が出来ることをやらなきゃ」

ユフィが立ち上がると、部屋の扉をノックする音がなる。

扉が開くと白に金の刺繍が施されたローブを身にまとう金髪の女性が、騎士にお礼を言いながら部屋へと入ってくる。後ろに従えていた無地の白のローブを羽織る2人が入ると扉が完全に閉まる。

その女性は騎士に見せていた笑顔を崩し、怪訝な表情に変わるとユフィを睨んだ。

「とても…みすぼらしいわね、あなたが聖女?」
「違います」
「フッ…そうでしょうね…その赤眼が本物かどうか先に見させていただきます」
「分かりました」

女性が持っているのは点眼薬。控えていた2人がユフィの後ろに回り込むと両腕を押さえられる。まるで捕らえられた罪人のようだ。

「…小細工なんてすぐにバレてしまうのよ?今のうちに白状した方が身のためだと思うわ」
「…肩が痛いので早く終わらせてくれませんか?」
「ッ……」

ユフィが怯まないのを見て顔を真っ赤にした女性はユフィの髪を乱暴に掴むと、溢れるほどに点眼薬を差した。

「あ゙あ゙あ゙ぁ…痛い痛い痛いっ……痛いよぉ……」
「ヒッ」

点眼薬を差されたユフィは叫び声を上げ、肩が解放されると必死に目元を拭いながら転げ回った。手や目元には青い液体が滲んでいる。

「ふ、ふん…聖女ならそれくらい治せるわ…嘘つくからそうなるのよ…」
「ぐぅ……い…たいぃ」
「…行くわよ」

のたうち回るユフィのその様に慄きながらも「あなたが悪いんだから」といいながら女性は出ていった。

目に染みる程度だと思っていたユフィは思った以上に激痛で熱くなる瞼を必死に押さえて耐える。

騎士が扉を開ける音、人の叫び声やバタバタと騒がしくなる足音がだんだんと遠のき、そこで意識は途絶えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レイヴンside


「レイラ様…?」
「あ、すみません…聖女ですか…今はどちらに?」
「南地区で発見されたみたいです、今頃王城かと…」

レイヴンが王城への侵入の計画を考えているとキーラが両手を叩いた。

「王城に行ってみましょうか!ヘリオス殿下…がこの国の王太子様なのは、もうご存知なのでしょう?」
「いい…のでしょうか?」
「ヘリオス殿下もよく勝手に訪問されるでしょ?だから…仕返しです。あ、でも一応失礼のないように父に会う名目で知らせは届けましょう」

無邪気に笑うキーラに少し、今まで適当に扱っていたのが申し訳なくなった。

キーラの伝手で王城にはすんなり入城できたが、聖王国の神官服を着た人々が右往左往して、声をかけられそうになかった。

「聖女様に会わせていただきたい」
「断る。今保護したばかりだ、確認出来次第、知らせるから大勢で城を歩かないでくれ」
「赤眼なのだろう?初代大聖女様と同じ、私に確認させてくれ」
「しつこいぞ」

騎士達に止められた神官はそれでも動こうとはしない。

「いきましょ」

騎士に挨拶をしたキーラはそんな神官達の横を堂々と歩いていく。恨めしそうな視線を無視しながらレイヴンは後に続いた。

「キーラ」
「ヘリオス殿下、そんなに慌てて…どうされたのですか?」

神官達の懇願する声も聞こえなくなるほど歩いた廊下の先の曲がり角からヘリオスが飛び出してくるのが見えると、こちらに気づいたヘリオスが走ってくる。

「っと…レイラ嬢、すまない、弁明は後でさせてくれ」
「ヘリオス殿下が謝られることはございません、私の方こそ失礼はなかったでしょうか?」

ヘリオスはニコリとレイヴンに笑いかけると、レイヴン達が歩いてきた方向を見つめた。

「大丈夫だよ、それで…聖女様のことは聞いてる?」
「外に神官様がうようよ居らっしゃるくらいですからね」
「そうだよね…うーん、場所を変えよう」

さらに奥の廊下に進み、別宮へ向かう渡り廊下に差し掛かると、奥から騎士達がバタバタと駆け寄ってくる。

「どうしたの?」
「それが…」

ヘリオスの前で跪いた騎士達は、キーラとレイヴンに視線を向ける。

「構わないよ、話して」
「ハッ…確認に来られた聖女補佐の方が聖女様の瞳に悪竜の血を」
「は?お前たちは何をしてたの?…それで容態はッ!聖女様は今どこに居る」

ヘリオスは声を荒らげた。キーラは「そんな…」と震えている。その後ろでレイヴンは心臓が激しく動くのを必死に押さえていた。

悪竜の血は、山岳地帯に潜む黒い竜の生き血。その血は野生動物を凶暴化させ、人が摂取すれば狂い死ぬ。唯一光魔法だけが治療出来る毒。

聖女の儀式で用いられる、と聞いたことがある。水瓶いっぱいの聖水に黒竜の血を一滴垂らしたものが使用される。光魔法持ちがその水瓶に手を浸して浄化することで「聖女」だと民衆に知らせるのだ。


捕まったのはユフィなんかじゃない、ユフィが捕まるはずがない、お願いだ…お願いだから別人であってくれ

ドレスの裾を掴んでいなければ震えてしまう手を痛くなるほどに握りこんだレイヴンは信じてもいない神にただひたすら祈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

処理中です...