前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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お菓子の空箱や包み紙でごちゃっとしていたテーブルはすっかり綺麗に片付けられていた。
代わりに置いてあったのは、小さなガラス瓶に入った真っ黒な液体と臙脂色(えんじいろ)をした革張りの箱。

「ほんとにやるのー?」
「や、やるの?」
「他に方法があるの?」
「うーん、僕がその眼球とってあげようか?うん…面白そう!義眼ならいくらでも作ってあげるよー、あっ、君は信仰心が強いとかあるの?血は赤い?意図的に髪の毛を伸ばしたりとかは出来る?生物毒はどこまで試した?そういえば眼球って…というか切断した部分って再生したりするのかな?それが出来るなら皮膚の一部からもう1人を作り出して…あっ、あと死んだ人を生き返らせたり」
「えっ、えっ」

眼鏡をかけたケイルが興味深そうにユフィににじり寄ると、答える間もなく質問を投げかけてくる。見開かれた両方の水色の瞳は近付くたびに輝きを増し、まるでプレゼントの包装を破く子供のような顔で期待に満ち溢れていた。

「叔父さんうるさいし気持ち悪い…彼女を怖がらせないでくれる?」

ケイルの勢いに恐怖を感じて身をすくめたユフィの頭上でレイヴンの声と、頬を打つようなパチッ、と乾いた音がした。
その後すぐに大きな衝撃音がして前方を見ると、棚が倒れ、薬品や本が散乱している。そこからケイルの足が飛び出し、倒れた棚の下敷きになっていることが分かった。

「ケイルさんっ!!」
「…いっ…てて…」

横倒しになった棚から引っ張りあげたケイルの手のひらはぬるりと滑る。よく見ると割れて散乱したガラス瓶で切ってしまったようだ。

「だ、大丈夫ですか?」
「あー、うんっ…あ、見てっ!!僕手切っちゃった!」
「ひぃっ」

何故か額に赤い手形まであるケイルは怪我を見て、平然と白衣に流れる血を擦り付けていたにもかかわらず、ユフィが声をかけると流血する手を嬉しそうにユフィの眼前に持ってきた。

「叔父さん…?」
「えー…怖いなぁ、そんなに睨まないでよー、黒竜の血も浄化の石も僕が持ってきたんだよー?」
「次に必要な時は僕が用意する、それに使い道なんてほとんどないでしょ?」

だらだらと流れ続ける血を他所に二人は喧嘩を始める。レイヴンはケイルを睨みつけながらもケイルの血で真っ赤に染まったユフィの手のひらをタオルで丁寧に拭いている。

「や、やりますっ!治しますから手を見せてくださいっ」

血が流れているのはユフィではない。今もボタボタと音を立てて、床に血を落とすケイルの腕をユフィは思わず掴んだ。

「フィ、お願いだからそれはほっといて」
「聖女様は優しいねぇ」
「「聖女じゃないっ(ありません)」」
「あはは、うん、分かったよー」

改めてケイルの手のひらを見るとざっくりと切れた切り口が既に腫れ上がっている。思わず、持つ手が震えてしまった。
レイヴンは眉間に皺を寄せ、ケイルは興味深そうに頬を染めている。
久しぶりに人に治癒魔法をするユフィは二人の視線を気にしないように…集中するために両手でケイルの手のひらを持ち、目を閉じた。

指先に魔力を集めるように意識して、ひたすら祈る。

ケイルさんはきっと研究オタクな人なのだろう。前世でオタ活をしていた友人を思い出す。

コンビニの期間限定推しグッズの為にコンビニをハシゴし、途中で高熱が出ていることに気付いたが気合いでなんとか推しを引き当て、その後階段から転げ落ち、足と肋を骨折したのにあの子は笑ってた。

「推しを迎えた後でよかった」

あの時の笑顔は痛みなどまるでないような…本物の笑顔だった。きっとアドレナリンが過剰に出ていたのだと思う。

だけど、夢中になりすぎて不調に気付けないのは危ないと思う…とりあえず悪いところ全部治れっ…治れ治れ治れ治れ…


「フィ」
「……」
「フィっ、もういいよ」

肩に手を置かれ、後ろに引かれる。パッと離した手はベタりと乾いた血で染まっていた。

「う、うん。ケイルさんどうでしょうか?」
「わー…あは、すごぉい…ほら見てー」

ケイルがグーパーグーパーと手を開いたり握ったりして嬉しそうにしている。それを見てほっと安心し、深呼吸をすると血の匂いで逆に気分が悪くなった。

「フィ、顔色が悪いよ」
「うん、血の匂いが…凄くて」
「窓を開けるから、ソファに横になって」
「ありがとう」

黒いソファに腰掛けると、急激な眠気に襲われる。

寝ちゃダメだ……瞳の色を、変えて…建国祭に行って…マーサさんにも……
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