ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第32話 ゆずれない誇り

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走査そうさ』でヒョウ兄貴あにきの傷の場所を調べて、全ての傷にアロエの汁をった。
 虫刺むしさされには、ヤブガラシとアロエの汁を合わせて作った抗炎症薬こうえんしょうやくる。
 仕上げに、抗生物質こうせいぶっしつのヨモギの汁を飲ませればおしまい。

「はい、これでおしまいですミャ。お薬と毛がかわくまで、日向ぼっこしてて下さいミャ。あとこのお薬はめるとぽんぽんおなかがぺいんぺいんいたいいたいになるので、しばらくは毛づくろいをしないで下さいミャ」
「分かったにゃん、ありがとにゃん……」

 ヒョウ兄貴はちからなくそう言うと、河原かわらに寝そべった。
 ひと通り作業さぎょうが終わったので、ぼくも川で水浴びをして薬で汚れた毛を洗い流した。
 れた毛をかわかす為、ふたりでのんびりと河原かわらで日向ぼっこ。
 あったかいお日様ひさまの光でぽかぽかしてくると、だんだんねむくなってくる。
 うとうとし始めたところで、ヒョウ兄貴がぽつりぽつりと話し始める。

縄張なわばりの猫じゃない、シロちゃんにだけは話すけど……。オレはみんなからたよりにされる、強くてカッコイイリーダーになりたいにゃん。だからみんなの前では絶対に弱いところを見せられなくて、ケガしても『痛い』って言えなかったにゃん……」

 それを聞いて、ぼくは目をます。

「はい、そんな気はしていましたミャ。でも言えないのは、つらかったでしょうミャ」
「うん……、つらかったにゃん」

 ヒョウ兄貴は、深々とため息をいた。

「なんで、言っちゃダメなんですミャ?」
「ダメに、決まっているにゃん! みんなからカッコワルイリーダーだと、思われたくないにゃんっ!」

 みんなからたよりにされたい。
 カッコワルイと思われたくない、か……。
 あえて自分の弱みを見せることで、みんなから信頼しんらいられるということもあると思うけど。
 ヒョウ兄貴にもヒョウ兄貴なりの、ゆずれない誇りプライドがあるんだろう。

 そこでヒョウ兄貴が、ガバリと起き上がる。

「そうだ! シロちゃんっ! 、お薬の作り方を教えて欲しいにゃんっ! そうすれば自分でケガを治せるし、みんなのケガも治せてみんなからたよりにされるにゃんっ!」

 、そうきたか。
 最初からこの縄張りの猫たちにも、薬の見分け方と使い方を教えるつもりではあったけど。
 ヒョウ兄貴しか薬の作り方を知らなければ、みんなヒョウ兄貴をたよるしかなくなる。

『みんなからたよりにされたい』って気持ちは、ぼくにも良く分かるけど。
 でも、それってなんかズルくない?
 ヒョウ兄貴に、薬の作り方を教えること自体は簡単だけどさ。
 結果的に縄張りの猫たちは、すくわれるかもしれないけど。
 ぼくが教えた薬をひとりじめして、それでみんなから尊敬そんけいされたいって考え方が気に入らない。

 ぼくはズルいヤツが、ゆるせない。
 ズルしてまで、カッコイイリーダーだと思われたいの?
 ズルやウソは、いつか必ずバレる。
 バレた時、どうなるかとか考えていないんだろうな。

 ひとつ、深いため息を吐いて答える。

「分かりましたミャ。薬草の見分け方と、お薬の作り方を教えますミャ」
「ほ、ホントにゃん? ありがとにゃんっ!」
「ヒョウ兄貴じゃなくて、縄張りの猫たちですミャ」
「にゃんでにゃんっ? みんなに教えたら、意味ないにゃんっ! たのむから、教えて欲しいにゃんっ!」

「全員に」を強調して言うと、ヒョウ兄貴は飛び上がるほど驚いた。
 ヒョウ兄貴は懸命けんめいに、「オレだけに」とくり返しうったえてくる。

「もし、ヒョウ兄貴しか、お薬の作り方を知らなかったとしてミャ。ヒョウ兄貴がケガや病気で動けなくなった時、誰がヒョウ兄貴にお薬を作ってくれるんですミャ?」
「うっ、それは……っ! でも、オレが……」

 ヒョウ兄貴は、いつまでも「でもでもだって」とごねている。 
 そんなヒョウ兄貴に、明るく笑いかける。

「ヒョウ兄貴は、もうすでにみんなから頼りにされている強くてカッコイイリーダーじゃないですミャ。縄張りの猫たちの中で、一番狩りが上手ですミャ。みんなからたくさん感謝かんしゃされていますし、いっぱい尊敬そんけいされていますよね?」
「そうにゃん! オレはみんなからたよりにされている、強くてカッコイイリーダーにゃんっ!」

 めたら、ヒョウ兄貴の機嫌きげんはあっさり直った。
 やっぱり、ヒョウ兄貴はめられるのに弱い。
 よし、もうひと押しだ。

「縄張りの猫全員がお薬の作り方を知っていれば、1匹でも多くの猫がすくわれますミャ。お薬があればヒョウ兄貴だって、もうやせ我慢がまんなんてしなくて良いんですミャ。縄張りの猫全員で助け合って、みんなで幸せになりましょうミャ」
「そうか……、分かったにゃん。それじゃあ、シロちゃん。縄張りのみんなを集めるから、お薬の作り方を教えてにゃん」

 ヒョウ兄貴はすっかりご機嫌きげんになって、縄張りへ戻って行った。
 ふっ、チョロいな、ヒョウ兄貴。

 ヒョウ兄貴の縄張りへ戻ると、縄張りの猫全員に薬草の見分け方と薬の作り方を教えた。
 ちょうど狩りでケガをしたという猫がいたので、実際じっさいに薬を作って使うところを見せた。
 みんな興味津々きょうみしんしんで、ワイワイと楽しそうに薬を作る猫たちが微笑ほほえましくて可愛い。

 基本的きほんてきな薬の作り方は、石で叩いてつぶすだけだから誰でも出来る。 
 アロエとヤブガラシは葉を折るだけで汁が出てくるから、つぶ手間てまもない。
 難しいのは、薬草の見分け方だけだ。
  
「みんなからたよりにされたい」と言っていたヒョウ兄貴には、特にしっかりと見分け方を教えておいた。
 みんなが薬草の見分け方で迷っても、ヒョウ兄貴が教えてあげられるからね。
 正しく見分けられれば、「さすがは兄貴っ!」ってな感じでみんなから尊敬そんけいされる。
 ヒョウ兄貴も、良い気分になれる。

 それをこっそりと教えたら、ヒョウ兄貴は一生懸命いっしょうけんめい薬草の見分け方をおぼえていた。
 ヒョウ兄貴のそういうところだけは、本気で尊敬そんけいするよ。
 きっともともと真面目まじめな性格で、やさしい性格なんだろうな。

 ただ他の猫よりも、承認欲求しょうにんよっきゅう(みんなからみとめられたい、自分を価値かちある存在そんざいとしてみとめたいという願い)が強すぎるんだ。
 承認欲求が良い方向へはたらけば、良いリーダーになれる。

 悪い方向へ向かえば、ただのかまってちゃんになってしまう。
 ヒョウ兄貴には、みんなにきらわれるヤツになって欲しくない。
 ヒョウ兄貴ならきっとこれからも、みんなから頼りにされる強くてカッコイイリーダーでいてくれるだろう。

 みんなに薬の作り方を教えたら、あとは旅の疲れをいやためにゆっくりとねむるだけだ。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 数日後。
 ぼくたちは、ヒョウ兄貴の縄張りを旅立つことにした。
 縄張りの猫たちが全員で、お見送りしてくれた。
 ヒョウ兄貴はぼくをギュッと抱きめて、別れをしんでいる。

「シロちゃん、ありがとうにゃん! シロちゃんのことは、ずっとずっと忘れないにゃんっ! 出来れば、ずっとここにいて欲しかったにゃんっ!」

 縄張りの猫たちも、笑顔でお礼を言ってくれた。
 ぼくたちは猫たちに見送られて、ヒョウ兄貴の縄張りをあとにした。
 みんなの役に立って、みんなから「ありがとう」って言われると、スゴく嬉しいよね。
 あれ?
 ぼくもひょっとしてヒョウ兄貴と同じで、承認欲求が強いのかなぁ?
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