ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第43話 ネコと和解せよ

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 やることやったので、トマークトゥスが肉を食べ終わる前にさっさと逃げよう。
 ぼくが背を向けて立ち去ろうとすると、トマークトゥスが気付いたらしい。
 こちらに向かって、「クゥ~ン……」とさびしそうに鳴いた。

 それと同時に、『走査そうさ』がトマークトゥスの言葉を翻訳ほんやくしてくれた。

『待ってくれ』
「ミャ?」
仔猫こねこちゃんが、オレにこれをくれたのか?』
「そうミャ。おなかがいて、死にそうだったミャ? だから、君の為に頑張がんばっていっぱい狩ったミャ。歯がなくても食べられるように、小さく切っておいたミャ」

走査そうさ』に、翻訳してもらって答えた。
 するとトマークトゥスはうれしそうに笑って、しっぽをブンブン振る。

『仔猫ちゃんが、トマークトゥスのオレにそこまで……。ありがとう。いや、ちょっと待て! 仔猫ちゃんは、オレの言葉が分かるのかっ?』 
「ぼくは猫の神様から、特別な力をもらったミャ。だから君の言葉も分かるし、君の病気だって分かるミャ」
『へぇ。こんなに小さな仔猫ちゃんなのに、スゴいんだな』

 トマークトゥスは感心した様子で、ぼくの顔をペロペロとめてくれた。 
 どうやらこのトマークトゥスは、ぼくをおそう気はないらしい。

「ぼくの名前は、シロミャ。君の名前は?」
『オレの名前は、グレイだ。よろしくな、シロちゃん』

 トマークトゥスのグレイさんはお肉を食べて、ちょっとだけ元気を取り戻したみたい。
 だけど立ち上がるほどの体力は回復していないらしく、力なくその場にせをしている。
 両前足を伸ばして、あごも地面にくっ付けている。

 ぼくもグレイさんの顔のすぐ横で、香箱座こうばこずわりをした。
 グレイさんはやさしい目でぼくを見つめて、けてくる。

『シロちゃんはなんで、オレを助けてくれたんだ?』
「ぼくはお医者さんだから、目の前に助けられる命があったら助けないワケにはいかないミャ」  
『オレは、猫をらうトマークトゥスだぞ? 怖くないのか?』
「ぼくも他の猫たちと同じように、トマークトゥスは怖いミャ。だけど、グレイさんだけは助けようと思ったミャ」
『オレだけは?』
「グレイさんは、ぼくたちの集落しゅうらくを襲わなかったからミャ。どうして、集落を襲わなかったミャ?」
『実はこのところずっと、歯が痛くて狩りが出来なくてな』
「やっぱり……」
『それに、オレは弱い。あんなにたくさん猫がいる場所に飛び込んだら、かえちにうだろう』
「グレイさんは、弱いのミャ?」
『ああ、オレは弱い。だから、れから追い出されたんだ』

 グレイさんはしょんぼりと、耳としっぽをらした。
 トマークトゥスは、大変だなぁ。
 犬科の動物は、めちゃくちゃ厳しい階級社会かいきゅうしゃかいらしい。
 強いものがリーダーとして上に立ち、弱いものは強いものにしたがうしかない。

 猫の社会は、わりと自由なんだよね。
 れでいた方が良い時は群れを作るし、ひとりが良いと思えばひとりで行動する。
 基本的に、産まれて死ぬまで同じ縄張なわばりで生きる。 

 同じ縄張りでらしていても、みんなそれぞれ自分の好きなことをしている。
 眠かったら寝るし、食べたかったら食べるし、遊びたかったら遊ぶ。
 上下関係じょうげかんけいもないし、弱いことを理由に縄張りから追い出されることもない。
 仲が悪いと、ケンカくらいはするけどね。

「この辺りにいるのって、グレイさんだけミャ? 群れは、近くにいないミャ?」
『そうだ。オレのつがいと新しい縄張りと群れを作る為に、ひとりでここまで来た』

 トマークトゥスの群れは、この近くにいないと分かってひと安心。

「じゃあなんで、グレイさんはずっと集落の周りをウロウロしてたのミャ?」
『それは――』

 グレイさんはちょっと気まずそうに、目をらした。

『オレは、猫が大好きなんだ』

 グレイさんは顔をこちらに戻すと、ぼくを見つめながら真剣な口調で言った。
 それを聞いて、ぼくは首をかしげた。

「猫が好きミャ?」

 好きって、色んな意味があるよね?
 トマークトゥスから見たら、ぼくたちリビアヤマネコは獲物えもの
 「食べて美味おいしい」=「大好物だいこうぶつ」の「好き」かっ!

 大好物だけど、グレイさんは歯が痛くて食べられない。
 大好物が目の前にあったら、食べられなくてもずっと見ちゃうし離れられないよね。
 ぼくを見つめているのも、「美味しそう」と思っているからだろう。

 でもぼくも死にたくないから、ぼく自身を食べさせてあげることは出来ない。
 グレイさんが、歯が痛くて助かった。
 じゃなかったら今頃、グレイさんにパクリと食べられていた。
 ぼくがひとりで納得なっとくしていると、グレイさんがあきれたようなため息を吐く。

『シロちゃんは、何か勘違かんちがいをしているようだな』
「勘違いミャ?」
捕食対象ほしょくたいしょうとしてじゃなくて、見るのが好きなんだ』
「見るのが好き?」

 聞き返すとグレイさんは目をキラキラかがやかせて、しっぽをブンブン振りながら熱く語り出す。

『ああ、そうだ! だって、リビアヤマネコはめちゃくちゃ可愛いじゃないか! 全てが可愛くて、最高だっ! 初めて見た時は、あまりの可愛さに驚いた! こんな可愛いものが存在していていいのかと、目をうたがったっ! 目が離せなくなった! 見ているだけで、幸せになれる! 目と目が合った瞬間しゅんかん、オレはリビアヤマネコに恋をしたっ! あんな可愛いもの、食べられるはずがないっ!』

 急にしを語る、オタクみたいなことを言い出した。
 グレイさんは、だい愛猫家猫好きだった。
 グレイさんの話によると、猫が好きすぎるあまり、猫を食べられなくなっちゃったらしい。
 イチモツの集落の周りをずっとウロウロしていたのも、可愛いから見ていただけだそうだ。
 食べる気なんて、最初からなかったんだ。

 うんうん、その気持ちは良く分かるよ。
 ぼくも、愛猫家あいびょうかだからね。
 可愛い猫がいたら、時間を忘れてずっと見ちゃうもん。

 もしぼくがトマークトゥスだったとして、どんなにおなかがいていても猫だけは絶対に食べられない。
 猫を食べるくらいなら、にしたって良い。
 出来ることなら、猫の為に死にたい。
 そう思っている愛猫家は、世界中に数えきれないほどいると思う。

 可愛いは、種族しゅぞくかべも越える。
 それからぼくとグレイさんは、「猫がどれほど可愛いか」「どれだけ猫を愛しているか」を語り合った。
 そしてぼくたちは、同じ愛猫家として友達になった。
 トマークトゥスと友達になったリビアヤマネコは、きっとぼくが初めてに違いない。

 友達になったグレイさんの歯を、治してあげたい。
 いつまでもずっと、歯が痛いのは可哀想かわいそうだもんね。
 虫歯はケガや病気と違って悪化あっかすることはあっても、自然治癒勝手に治るすることはない。

 虫歯の治療法ちりょうほうは、『走査そうさ』に教えてもらったんだけど。
 ぼくは歯医者はいしゃさんじゃないから、歯科技術しかぎじゅつは持っていない。
 そもそも、歯を治療する道具や薬が手に入らない。

「毎日、歯磨はみがきしましょう」って言われても、ハブラシもないし。
 犬だったら歯磨きセット、食べるだけで歯磨き効果があるエサ、歯磨きガム、カミカミするおもちゃとかがあるんだけど。
 自然界しぜんかいに歯磨きの代わりになるものって、なんかないのかな?

偶蹄目ウシやシカの骨やつのに、歯磨き効果あり。むことで歯と歯茎はぐき表面ひょうめんこすり、唾液だえき分泌出るされ、細菌さいきん増殖増えるのを抑制おさえる

 ウシやシカの骨や角?
 そういえば、犬って骨をかじるのが大好きだもんね。

 長老のミケさんも骨や角をカミカミしたら、歯周病ししゅうびょうが治るのかな?
 猫も、噛むオモチャ好きだよね。
 今度ためしに、ミケさんにも骨や角をカミカミしてもらおう。

 だったらまず、狩りをしなくちゃ。
 狩りをすればお肉も骨も角も手に入って、一石二鳥いっせきにちょう
 だけどぼくひとりじゃ、ウシやシカのような大きな動物は狩れない。
 大きな動物を狩ろうとしたら、お父さんとお母さんに協力してもらわなくちゃ。

 グレイさんのことを集落のみんなに「ぼくの友達だ」って、言えたらいいのにな。
 トマークトゥスが友達って言っても、絶対誰も信じてくれないよね。
 トマークトゥスってだけで、猫たちはみんなビビり散らかす。
 どうにかして集落の猫たちにバレずに、こっそりとグレイさんにお肉や骨を分けてあげられないかな?
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