ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第89話 猫の記憶力

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 イチモツの集落しゅうらくから一番近い集落といえば、イヌノフグリの集落。
 イヌノフグリの集落の猫たちは全員、イチモツの集落で引き取ったから誰もいないはずだ。
 今のイヌノフグリの集落がどうなっているのか、少し気になる。
 まずは、イヌノフグリの集落から様子を見に行ってみよう。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾
 
 その日のうちに、イヌノフグリの集落へ辿たどいた。
 誰もいないことを、「猫の子一匹いない」と言うけど。
 本当に、猫の子一匹いなかった。
 イチモツの集落と同じ高台たかだいにあるので、洪水こうずい被害ひがいを受けた様子も見られない。
 以前、おとずれた時のまま何も変わっていなかった。
 静かな集落には、猫がんでいたあとだけが残っている。
 よし、イヌノフグリの集落は問題なしと。

 ここから近い集落は、キランソウの集落だけど……。
 お父さんとお母さんが「もう二度と行かない」と、ブチキレていたからなぁ。
 もちろん、困っている猫たちを助けたい気持ちはある。
 だけどまた助けてしまったら、ぼくをたよってくるに違いない。

 あそこの猫たち、ぼくを利用しようって考えが見え見えなんだよ。
 お父さんとお母さんに相談したら、ダメって言うに決まっている。
 だけど一応、話だけでもしてみるか。
 横を歩いているお父さんとお母さんに、話し掛ける。

「お父さんとお母さんが大嫌いなのは、分かっているけどミャ。キランソウの集落を、見に行っちゃダメミャ?」
「シロちゃんの気持ちも、分かるけどニャー……」
「猫たちが困っていたら、シロちゃんはまた助けちゃうニャ?」 

 ぼくが懸命けんめいに訴えるけど、ふたりともしぶい顔をしている。
 いつもならぼくがどこへ行くと言っても、笑顔で「いいよ」って言ってくれるのに。
 キランソウの集落だけは、絶対にゆずれないらしい。

 ぼくだってあの集落のおさは苦手だけど、苦しんでいる猫たちをほうっておけない。
 お母さんが言う通り、猫たちが困っていたら迷わず助ける。
 ぼくたちが話し合っているのを見て、グレイさんが首をかしげる。

『どうしたんだ? 親子ゲンカとは、珍しいじゃないか』
「ケンカなんてしてないミャ」

 グレイさんは、キランソウの集落を訪れたことがないから何も知らない。
 ぼくはグレイさんにキランソウの集落のことを、簡単に説明した。

 グレイさんは「グルル……」と低くうなり声を上げながら、歯をき出しにする。

『オレの可愛いシロちゃんに悪いことをするヤツらは、例え可愛い猫であっても許せん! そんな集落は、放っておけっ! 次の集落は、どっちだっ?』

 ここまで怒っているグレイさんを見たのは、初めてな気がする。
 次に近い集落は、シロツメクサの集落だ。

「シロツメクサの集落は、あっちミャ」
『分かった。さっさと、そちらへ行くぞ』

 ぼくがシロツメクサの集落の方向を指差ゆびさすと、グレイさんはぼくの首根くびねっこをくわえて走り出した。
 やっぱり、こうなってしまったか。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 グレイさんのおかげで、かなり早くシロツメクサの集落に辿り着けた。
 シロツメクサの集落という名前は、ちょうどこのあたりがシロツメクサの群生地ぐんせいち(たくさんえている場所)だからぼくが勝手に呼んでいるだけ。
 前に来た時は、集落の名前を聞き忘れちゃったんだよね。
 今度こそ、忘れずに聞かなくちゃ。

 このあたりは平地へいちだから、洪水の被害ひがいってしまったようだ。
 洪水から1ヶ月以上っているから、どろかわき切っている。
 だけどあきらかに、土や草木くさきが流された跡が残っていた。
 シロツメクサの集落の猫たちは、無事だろうか。
 集落より少し手前てまえでグレイさんと別れて、集落の中に入る。

 集落内では、猫たちがのんびりと過ごしていた。
 あれ? 洪水の被害を受けたはずなのに、なんだか平和そう。
 ぼくたちに気が付いた一匹の猫が、話し掛けてくる。

「あっ、あなたたちはっ! お医者さんたちじゃないですなぉっ?」
「どうも、お久し振りですミャ。あれから皆さん、いかがお過ごしですミャ?」
「それがこの間の大雨おおあめで、集落が水浸みずびたしになりまして大変だったんですなぉ」
「集落の猫たちは、皆さんご無事でしたミャ?」
「あの横穴よこあなに逃げ込んだので、全員無事ですなぉ」

 そういえばこの集落では雨がり出したら、大きな岸壁がんぺきられた横穴へ避難ひなんする決まりになっていたっけ。

 しばらく話していると、他の猫たちも集まって来た。
「また来てくれてうれしいニャー」と、猫たちは歓迎かんげいしてくれた。
 この集落のおさであるトビキジも、笑顔でやって来た。

「お医者さんがた、またいらして下さって、ありがとうございますにゃん」
「トビキジさんも皆さんも、お元気そうで何よりですミャ」
「いやいや、実はとても大変でしたにゃん……」

 トビキジは、深いため息を吐いて、話し始める。
 トビキジの話によると、猫たちは全員横穴に避難したので無事だった。

 しかし洪水で、集落は大雨おおあめで水の底へしずんだ。
 そのせいで、横穴から出られなくなってしまった。
 水が引くまで飲まず食わずで、ただ待つしかなかった。

 水が引いてようやく外へ出られたと思ったら、今度は病気が流行はやり始めた。
 さっするに、細菌感染症さいきんかんせんしょうだと思う。
 トビキジたちは大急ぎでヨモギを探して、病気の猫たちに食べさせた。
 ヨモギを食べさせ続けると、猫たちは少しずつ回復していった。

走査そうさ』が反応しなかったのは、もうすでになおっていたからか。
 ぼくが教えた薬草で、猫たちが助かって良かった。
 ヨモギは、叩きつぶさないと薬にならないと思っていたけど。
 猫が猫草ねこくさとして食べるくらいだから、そのまま食べても大丈夫か。
 
『ヨモギは、食物繊維しょくもつせんい豊富ほうふな為、そのまま食べると消化不良しょうかふりょうを起こす可能性が高い。繊維せんいを叩きつぶすことにより、消化吸収しょうかきゅうしゅうしやすくなる。用法ようほう用量ようりょうを正しく守って、服用する飲ませること』

 やっぱり、そのまま食べさせちゃダメなのか。
 ぼくは真剣しんけんな顔で、集落のおさのトビキジに言い聞かせる。

「ヨモギは叩き潰《つぶ》して、お薬にしてから飲ませて下さいミャ。どんなに良い薬草も使い方を間違まちがえると、ぽんぽんぺいんぺいんおなかがいたいいたいになりますミャ」
「すみませんにゃん、次から気を付けますにゃん」

 トビキジは苦笑にがわらいをしながら、小さく頭を下げた。

走査そうさ』によると、ヨモギに含まれるcineoleシネオールという成分せいぶんに、抗菌作用こうきんさよう免疫力強化めんえきりょくきょうかなどの効果こうかがあるらしい。
 だけどりすぎると、効果こうかが強すぎて中毒症状ちゅうどくしょうじょうを起こすそうだ。

 どんなに体に良い物だって、食べ過ぎたら毒になる。
 今回はたぶん食べた量が少なかったから、大丈夫だったんだ。
 他の集落でも、間違った使い方をしている猫がいるかもしれない。
用法ようほう用量ようりょうは正しく守るように」と、伝えたはずなんだけどな。
 もしかしたら、忘れちゃったのかもしれない。

 実は猫は、人間の約20倍の記憶力きおくりょくを持っている。
 猫は自分にとって興味があるものや、嫌な記憶はずっと覚えている。
 逆に、興味がないものはすぐ忘れる。
 興味がないものは、そもそも覚える気がない。

 もちろん、個体差《こたいさ》はある。
 人間と同じように、昔《むかし》の記憶は少しずつ薄れていくけどね。
 これは、猫に限った話じゃないか。
 ぼくも好きなもののことはずっと覚えているし、興味がないものは全然おぼえられない。

 トビキジもきっと、用法ようほう用量ようりょうを忘れちゃったんだ。
 だけどヨモギの見分みわけ方は、覚《おぼ》えていてくれて良かった。
 薬草と毒草を間違まちがえると、最悪死ぬからね。

 なんにせよ、シロツメクサの集落の猫たちが全員無事で何よりだ。
 みんなの無事が確認出来たところで、次の集落へ行こう。
 おっと、忘れるところだった。

「この集落は、なんという名前なのですミャ?」
「シロツメクサの集落にゃん」

 合っていた。

 どの集落も、その集落の特徴となるものの名前を付ける。
 この集落はシロツメクサの群生地だから、その名前を付けたんだと思う。

 シロツメクサは、繁殖力はんしょくりょくがとても強い雑草ざっそう
 地面にしっかりとるので、地面を強くする効果がある。
 洪水にも流されにくいし、傷付いてもすぐに再生する強い草だ。

 シロツメクサを猫草として食べる猫もいるし、薬草にもなる。
 薬草としては、風邪、鎮静作用ちんせいさよう止血しけつなどの効果がある。
 猫たちにも、シロツメクサが薬草になることを教えておこう。
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