いきなり吸血鬼が押しかけてきて、何もかも吸い尽くされた

橋元 宏平

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第2話 隷属

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【ペニー視点】
 オレは、つねえている。
 野良猫に「変身」して、毎日人間あさりをしている。
 なんで猫なのかっていうと、ブラついていても怪しまれないからだ。

 出来れば、美味い血をたっぷり持ってそうなヤツが良い。
 オレぐらいになれば、いだだけで「美味い血を持ってる人間」が分かる。
 伊達にながく生きてないからな。

 オレは、舌がえてる美食家びしょくかだ。
 いくら飢えたって、マズい血は飲みたくない。
 腹は膨れても、気持ちがへこむ。
 
 屋根の上やブロック壁の上を渡り歩いて、探し回る。
 あまり人間に近付きすぎると、猫好きのヤツがウザいから、高いところから探す。

 化粧臭ぇババア。
 脂ぎったオッサン。
 やせすぎな女。
 きったねぇガキ。
 ヨボヨボのジジイ。

 ダメだ、どいつもコイツもマズそうだ。
 ちくしょう、腹が空きすぎて腹が鳴りっぱなしだ。
 しょうがねぇ、いつものとこへ行くとするか。

 いつもオレが穴場あなばとしている場所は、「赤十字血液センター」
「献血ルーム」とか「献血センター」とか、呼ばれることもある。
 ここに来るヤツは、16歳~69歳までの血の気が余ってる人間。

 病気もない、薬も服用してない、健康な血をみずから提供しに来る。
 その中から美味そうなヤツの数人ぐらい、いただいたっていいよな?
「オレに献血してもらう」ってことで、ひとつよろしく。
 献血に来る人間は、あまり団体様では来ないから襲いやすい。

 もちろん、吸った後のアフターサービスも忘れない。
 吸血鬼の能力「忘却」を使って、「血を吸われたこと」と「献血ルームへ行こうとしていたこと」も忘れさせる。
 だって、吸われた人間が献血ルームへ行ってみろ。
 貧血起こして、下手すりゃ死ぬ。

 とはいえ、献血ルームもそれほど繁盛はんじょうしてない。
 いつも「全ての血液型の血液が、不足しています! ご協力をお願いしますっ!」って、声掛けしてるくらいだもんな。

 近年の献血ルームは、サービスが充実している。
 血液を提供する代わりに、フリードリンクサービスだったり、漫画も読み放題。
 場所によっては、軽食やお菓子が出るとこもあるらしい。
 献血カードでポイントを貯めれば、記念品までもらえる。

 人間は何千年も命を繋いで生きているというのに、未だに人工的に血液を作る技術を開発出来ていない。
 聞けば、1日に14000人分の血液が必要だそうだ。
 病気やケガで、輸血を必要とする人間がいる。
 一定量いっていりょうの血液が失われただけで、人間は簡単に命を落とす。  

 毎日、血液提供が必要となる。
 これは、献血しない手はない!
 だから、健康なみんな! 献血へ行こうっ!

 オレは別に、献血活動に貢献こうけんしたいんじゃない。
 美味い血が飲みたいだけだ。
 でも、今日はここも不況のようだ。
 待っても待っても、誰も来やしねぇ。
 ちっ、今日はマジでツイてねぇ。

 日が傾き始めたところで、オレは別の場所へ移動する。
 次の穴場は、夜の繁華街。
 仕事帰りの会社員で、ひとり飲みに行くようなヤツを狙う。
 居酒屋へ連れて行く、引き込み店員を装って近付く。

 仕事終わりの会社員は、ガードがガバガバだから簡単に釣れる。
 ひと気のない場所へ連れ込んで、ガブリといく。
 今日は、それを狙って繁華街へ向かう。

 その途中、食欲をそそられる美味そうな匂いが漂ってきた。
 美味い血を持ったヤツが、近くにいる。
 オレは匂いを辿たどって、屋根の上を渡り歩いた。
 
 辿り着いた先にいたのは、ベランダで洗濯物を取り込んでいる男だった。
 日に焼けていない、真っ白な肌。
 中肉中背より、ちょっとむちっとした柔らかそうな体。

 シワシワのTシャツに、くたびれたハーフパンツという部屋着を着ている。
 視力が弱いのか、メガネを掛けている。
 どうやら、おしゃれセンスのかけらもねぇヤツみてぇだな。

 この男から、美味そうな匂いがする。
 洗濯物から、男がひとり暮らしであることが分かる。
 これは、良い獲物えものを見つけた。
 久々のごちそうに、あり付けそうだ。

 偵察ていさつに、オレは男の足元へと近付く。
 オレに気付いた男は、たちまち満面の笑みで目を輝かせた。

「わぁぉっ、きゃわゆぅ~いっ♡ ねこちゅわぁ~んっ♡」

 うわっ、なんだコイツッ? きめぇっ!
 オレはその声に驚いて、その場でビョンッと大きく跳び上がった。
 どうやら、相当な猫好きらしい。
 窓から部屋へ洗濯物を投げ込むと、男はオレの前にしゃがんだ。

「触られる!」と、オレは身構えた。
 だが、男はオレに触ろうとはしなかった。
 嬉しそうな笑顔で、オレを見つめているだけだ。
 猫に危害を与えたり、執拗しつように構ったりするタイプではないようだ。
 男は不思議そうに、首をかしげる。

「あれ? 逃げねぇの? 人懐っこいヤツだな」

 猫の対応を知っているのか、手を出してこない。
 それが、有り難かった。
 こちらから近付いて、男の匂いを確かめる。
 うん、間違いねぇ。
 美味そうな匂いは、コイツからしてる。

 オレが逃げないと分かると、男は恐る恐る手を伸ばしてきた。
 その手を、ペロリと舐めてみる。

 美味いっ!
 新酒のワインヌーボーのような、軽い甘みと程よい酸味が調和した味。
 確信かくしんを得たオレは爪を伸ばし、男の手のこうを引っいた。

「痛っ! ご、ごめんっ! 触られたくなかったっ?」

 男は痛みを訴えて、慌てて手を引っ込めた。
 オレはすかさず、にじみ出した血に飛び付いて舐め始める。

「あ、舐めてくれるの? 優しいねぇ、お前」

 男は何を勘違いしたのか、笑顔で大人しくしている。
 調子付いたオレは、血が止まるまで舐め続けた。
 その血は咲いたばかりの花のようにかぐわしく、豊かで甘すぎない上品な味わいとほのかな酸味。
 こんなに美味い血は、本当に久し振りだ。
 もっとガッツリ噛み付いて、たっぷりと味わいたい。

 よし、決めた。
 コイツをオレの隷属れいぞく(貴族から見た家来けらい)にしよう。
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