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それから数日経ったある日のこと、俺はスーパーで買い物を終えてアパートに帰ろうとしていた。
そこでばったりと健斗に出会ったのである。
「健斗!?」
俺は驚きのあまり、ぽかんと見上げる。
髪が短くなっている。あの鬱陶しかった前髪は短くなって目がはっきりと見えた。今までとは全く違う耳も出た短い髪型は健斗に似合っていて、一見爽やかなイケメン風だ。
「どう?」
照れた様子で短くなった髪を掻いた健斗の周りを俺はぐるりと回る。襟足もすっきりしていて清潔感が漂う。
「随分男前になったな」
俺がそう言うと、健斗ははにかみながらも笑顔を見せた。その顔がやたら眩しく見えたのは、きっと夕日が照らす赤い空が反射したせいだ。
「どんな髪型がいいか訊かれてもわからなかったから、任せたらこんなんなった」
今気づいたが、服もいつものアニメキャラのシャツではなく、この間一緒に買ったお洒落な服だ。
「似合ってる」
雰囲気も一気に明るくなった気がして、髪型が変わっただけでこうも変わるとは驚きだった。ただ、はにかむ様子や猫背の背中は変わっていない。
俺たちはアパートに向かって二人並んで歩いた。
「でもなんで急に?」
「前に星矢くんがいい男って言ってくれたから」
「俺か。てっきり好きな子ができたことか、彼女が欲しいとか、そういうことだと思ったんだけどな」
そう言うと健斗は、おもちゃを我慢している子供のような、途方に暮れたような顔で俯いた。今まで見たことがない表情に、俺はあれ? と首を傾げる。
「星矢くんは……好きな人いる?」
俯いたまま、恐る恐るといった感じで訊く健斗に、俺は首を横に振る。
「俺? 今いない」
もしかして健斗には好きな相手がいて、それで俺にアドバイスを求めているのだろうかと思い「気になる相手がいるなら、頑張って話しかけてみろ」と元気づけるように背中を叩いた。
顔をあげた健斗は何か言いたそうに俺をじっと見つめてくる。
「どうした?」
奥手の健斗が自分から声をかけるのは難しいだろうか? そんなことを思い巡らせていると、健斗は不意に目を逸らした。
「同性同士の恋愛はどう思う?」
意外なことを訊くなと感じつつ、俺は思ったことを正直に話す。
「別に偏見はない。本人同士がよければ、誰がどうこう言うもんでもないし」
「そうなんだ。よかった。じゃあ、年下は?」
「あ? それこそ、年下だろうが年上だろうが、好きならどっちでもいいんじゃね?」
健斗は立ち止まった。つられて俺も足を止める。
いつもの健斗らしくない様子に、不安になる。
「俺……」
言いかけて健斗は服の裾をぎゅっと握り締めて、逡巡している。
よほど深刻な相手を好きになったのかと心配していていると、健斗は俺の目を睨み付けるように強く見つめ叫んだ。
「星矢くん、好きです!」
ここは往来の真ん中、近所の人が買い物袋を手に持って、俺たちをちらちら見て通り過ぎる。時折車が通りすぎるので右に寄るのだが、この時ばかりはぽかんとしたまま俺は健斗を見上げていた。
そこでばったりと健斗に出会ったのである。
「健斗!?」
俺は驚きのあまり、ぽかんと見上げる。
髪が短くなっている。あの鬱陶しかった前髪は短くなって目がはっきりと見えた。今までとは全く違う耳も出た短い髪型は健斗に似合っていて、一見爽やかなイケメン風だ。
「どう?」
照れた様子で短くなった髪を掻いた健斗の周りを俺はぐるりと回る。襟足もすっきりしていて清潔感が漂う。
「随分男前になったな」
俺がそう言うと、健斗ははにかみながらも笑顔を見せた。その顔がやたら眩しく見えたのは、きっと夕日が照らす赤い空が反射したせいだ。
「どんな髪型がいいか訊かれてもわからなかったから、任せたらこんなんなった」
今気づいたが、服もいつものアニメキャラのシャツではなく、この間一緒に買ったお洒落な服だ。
「似合ってる」
雰囲気も一気に明るくなった気がして、髪型が変わっただけでこうも変わるとは驚きだった。ただ、はにかむ様子や猫背の背中は変わっていない。
俺たちはアパートに向かって二人並んで歩いた。
「でもなんで急に?」
「前に星矢くんがいい男って言ってくれたから」
「俺か。てっきり好きな子ができたことか、彼女が欲しいとか、そういうことだと思ったんだけどな」
そう言うと健斗は、おもちゃを我慢している子供のような、途方に暮れたような顔で俯いた。今まで見たことがない表情に、俺はあれ? と首を傾げる。
「星矢くんは……好きな人いる?」
俯いたまま、恐る恐るといった感じで訊く健斗に、俺は首を横に振る。
「俺? 今いない」
もしかして健斗には好きな相手がいて、それで俺にアドバイスを求めているのだろうかと思い「気になる相手がいるなら、頑張って話しかけてみろ」と元気づけるように背中を叩いた。
顔をあげた健斗は何か言いたそうに俺をじっと見つめてくる。
「どうした?」
奥手の健斗が自分から声をかけるのは難しいだろうか? そんなことを思い巡らせていると、健斗は不意に目を逸らした。
「同性同士の恋愛はどう思う?」
意外なことを訊くなと感じつつ、俺は思ったことを正直に話す。
「別に偏見はない。本人同士がよければ、誰がどうこう言うもんでもないし」
「そうなんだ。よかった。じゃあ、年下は?」
「あ? それこそ、年下だろうが年上だろうが、好きならどっちでもいいんじゃね?」
健斗は立ち止まった。つられて俺も足を止める。
いつもの健斗らしくない様子に、不安になる。
「俺……」
言いかけて健斗は服の裾をぎゅっと握り締めて、逡巡している。
よほど深刻な相手を好きになったのかと心配していていると、健斗は俺の目を睨み付けるように強く見つめ叫んだ。
「星矢くん、好きです!」
ここは往来の真ん中、近所の人が買い物袋を手に持って、俺たちをちらちら見て通り過ぎる。時折車が通りすぎるので右に寄るのだが、この時ばかりはぽかんとしたまま俺は健斗を見上げていた。
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