無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

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第二部

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朝は迅さんと一緒に家を出る。
マンションから俺の会社までは歩いていけるから、並んで歩く。
迅さんの会社は始業時間が少し遅いから、俺を会社まで送ってから、駅に向かう。
今日も会社の前まで一緒に来た。

昼休み、同僚がざわつく中、俺はいつも通り落ち着いて弁当を広げる。
迅さんが朝に作ってくれたおかずを一口食べて、ふと小さく笑う。

(あ、これ……味付け変わってる。たぶん、昨日言ったからだ)
俺の好みの味付けになってた……!

小声で呟くのを、斜め向かいの舟形先輩が聞き逃すはずもなく、箸を止めてニヤリ。

「お、出たよ。例の“白鷹家特製弁当”だな」
「ち、ちがいますよ!普通の……普通のお弁当です!」

俺が焦っていると、舟形先輩は「はいはい」と笑いながら、わざとらしくため息をつく。
「うちの彼女、今週忙しくてさ。見ろよ、茶色いだろ」
「でも、そういうのも、愛情感じますよね」
「……お前、今の発言、自分にも刺さってんの気づいてる?」
「え?あっ……!」

途端に顔を真っ赤にして、弁当箱を両手で覆ってしまう。
舟形先輩は「ほんと人たらしだな~」と笑いながら、結局フォローしてくれるのだった。

でも、迅さんの料理はおいしい……。

午後の仕事が終わるころには、
「早く帰って迅さんの顔が見たい」と思っている自分に気づく。
ちょっとだけ苦笑する。


「ただいま」
「おかえり」
リビングに入ると、迅さんがソファに座って書類をめくっていた。
その横には湯気の立つカップが二つ。

「ごはん食べた?」
「うん。何か食べてていいって言っただろ」
「でも、一緒のほうが美味しいです」
「……じゃあ何か簡単なものでも一緒に食べようか」

迅さんは優しいから残業で遅くなった俺に、夜食みたいの作ってくれる。
そして、一緒に食べてくれる。
「……おいしいです」
だって、本当に美味しいし。
迅さんは俺の口の端についてるケチャップを拭ってくれた。
「……ったく」
俺は迅さんに笑ってごまかした。

そんなやり取りのあと、
俺は迅さんの隣に座って、肩に頭をもたせかける。
「もう眠いのか?」
「……ちょっとだけ」
「“ちょっとだけ”じゃないよな……?」
迅さんはそう言いながら、自然に腕を回す。

俺はうとうとしながら、心のどこかで思う。
(俺、ちゃんと自立してるはずなのにな……。
なんで迅さんの腕の中が、こんなに落ち着くんだろう……?)


また別の夜。

「おかえり、迅さん」
「ただいま」

玄関でお出迎え。
今日は迅さんの方が帰りが遅かった。
迅さんがリビングに入ると、俺は部屋着姿でソファに座っている、
さっきお風呂に入って、髪はまだ少し濡れていて、タオルを肩に引っかけたまま。
テレビもつけっぱなしで、ぼんやりしている。

「風呂、入ったのか」
「うん。お湯、替えたよ。迅さんもどうぞ」
「……ああ、ありがとう」

言いながら、迅さんはジャケットを脱いでソファの背にかけた。
俺の方を振り向いて笑う。
なんてことない仕草が、なんでもない夜を特別にしてしまう。


お風呂から上がった迅さんが俺を見ている。
「なぁに?」
「いや。お前がいるのが、まだちょっと不思議でな」
「え?」
「今までもよく泊まってたけど……。帰ってくる場所が、同じっていうのが」
「……そりゃあ、俺もそう思ってます」

俺は照れたように笑って、ソファの隣をぽんぽんと叩いた。
「早く、座ってください」

言われるままに迅さんが座ると、俺は何も考えずに迅さんに身体を預ける。
髪からシャンプーの匂いがする。
迅さんと同じシャンプーの匂い。
首筋が触れそうな距離で、
「これ、反則だろ……」
と、迅さんが思わず小さく漏れる。

ん?

「え、なにか言いました?」
「いや、なんでもない」
「ふうん……」

笑いながら、俺はカップを手に取る。
迅さんのマグに少しだけコーヒーを注ぎ、
「冷めないうちにどうぞ」
と差し出す。

迅さんは少し嬉しそうな顔をしている。

初めて会ったときは「怖い」しか思えなかったけど、毎日見てる迅さんは、いろんな顔を見れる。

「迅さん」
「ん?」
「明日、早いんですよね。僕が起きて朝ごはん作りましょうか」
「いや、俺が作る。お前は寝てろ」
「でも、なんか一緒に作りたい気分です」

なんか、迅さん、照れてる……?
迅さんはマグを置いて、軽く息を吐く。

「……なあ、直樹」
「はい?」
「自覚ないの、たぶん罪だぞ」
「え、なにがですか?」
「いい。知らなくていい」

そう言って迅さんは、肩を引き寄せると、俺は少しびくっとして、でもそのまま大人しく寄り添う。
テレビの音が遠くなって、
二人の間に、静かな夜が落ちていく。

「あ、そういえば週末、橘さんとごはん行くって言ってましたよね」
「ああ。一緒に住むことになったしな」
「……三人?」
「翔真の彼氏、番もくるから四人だ」
「……そっか。なんだか、ダブルデートみたい」

橘さんは迅さんの幼馴染で同級生。
今はベンチャー企業の社長をしていて、迅さんもそこの会社で役員をしている。
俺が迅さんの会社に会いに行ったことがあるから、橘さんとは一緒にごはん食べたこともある。
  
「……迅さんと一緒に出かけるのが楽しみ」
迅さんは俺を抱きよせて、背中をポンポン叩いてた。

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