19 / 53
第二部
Ⅱ
しおりを挟む
朝は迅さんと一緒に家を出る。
マンションから俺の会社までは歩いていけるから、並んで歩く。
迅さんの会社は始業時間が少し遅いから、俺を会社まで送ってから、駅に向かう。
今日も会社の前まで一緒に来た。
昼休み、同僚がざわつく中、俺はいつも通り落ち着いて弁当を広げる。
迅さんが朝に作ってくれたおかずを一口食べて、ふと小さく笑う。
(あ、これ……味付け変わってる。たぶん、昨日言ったからだ)
俺の好みの味付けになってた……!
小声で呟くのを、斜め向かいの舟形先輩が聞き逃すはずもなく、箸を止めてニヤリ。
「お、出たよ。例の“白鷹家特製弁当”だな」
「ち、ちがいますよ!普通の……普通のお弁当です!」
俺が焦っていると、舟形先輩は「はいはい」と笑いながら、わざとらしくため息をつく。
「うちの彼女、今週忙しくてさ。見ろよ、茶色いだろ」
「でも、そういうのも、愛情感じますよね」
「……お前、今の発言、自分にも刺さってんの気づいてる?」
「え?あっ……!」
途端に顔を真っ赤にして、弁当箱を両手で覆ってしまう。
舟形先輩は「ほんと人たらしだな~」と笑いながら、結局フォローしてくれるのだった。
でも、迅さんの料理はおいしい……。
午後の仕事が終わるころには、
「早く帰って迅さんの顔が見たい」と思っている自分に気づく。
ちょっとだけ苦笑する。
「ただいま」
「おかえり」
リビングに入ると、迅さんがソファに座って書類をめくっていた。
その横には湯気の立つカップが二つ。
「ごはん食べた?」
「うん。何か食べてていいって言っただろ」
「でも、一緒のほうが美味しいです」
「……じゃあ何か簡単なものでも一緒に食べようか」
迅さんは優しいから残業で遅くなった俺に、夜食みたいの作ってくれる。
そして、一緒に食べてくれる。
「……おいしいです」
だって、本当に美味しいし。
迅さんは俺の口の端についてるケチャップを拭ってくれた。
「……ったく」
俺は迅さんに笑ってごまかした。
そんなやり取りのあと、
俺は迅さんの隣に座って、肩に頭をもたせかける。
「もう眠いのか?」
「……ちょっとだけ」
「“ちょっとだけ”じゃないよな……?」
迅さんはそう言いながら、自然に腕を回す。
俺はうとうとしながら、心のどこかで思う。
(俺、ちゃんと自立してるはずなのにな……。
なんで迅さんの腕の中が、こんなに落ち着くんだろう……?)
また別の夜。
「おかえり、迅さん」
「ただいま」
玄関でお出迎え。
今日は迅さんの方が帰りが遅かった。
迅さんがリビングに入ると、俺は部屋着姿でソファに座っている、
さっきお風呂に入って、髪はまだ少し濡れていて、タオルを肩に引っかけたまま。
テレビもつけっぱなしで、ぼんやりしている。
「風呂、入ったのか」
「うん。お湯、替えたよ。迅さんもどうぞ」
「……ああ、ありがとう」
言いながら、迅さんはジャケットを脱いでソファの背にかけた。
俺の方を振り向いて笑う。
なんてことない仕草が、なんでもない夜を特別にしてしまう。
お風呂から上がった迅さんが俺を見ている。
「なぁに?」
「いや。お前がいるのが、まだちょっと不思議でな」
「え?」
「今までもよく泊まってたけど……。帰ってくる場所が、同じっていうのが」
「……そりゃあ、俺もそう思ってます」
俺は照れたように笑って、ソファの隣をぽんぽんと叩いた。
「早く、座ってください」
言われるままに迅さんが座ると、俺は何も考えずに迅さんに身体を預ける。
髪からシャンプーの匂いがする。
迅さんと同じシャンプーの匂い。
首筋が触れそうな距離で、
「これ、反則だろ……」
と、迅さんが思わず小さく漏れる。
ん?
「え、なにか言いました?」
「いや、なんでもない」
「ふうん……」
笑いながら、俺はカップを手に取る。
迅さんのマグに少しだけコーヒーを注ぎ、
「冷めないうちにどうぞ」
と差し出す。
迅さんは少し嬉しそうな顔をしている。
初めて会ったときは「怖い」しか思えなかったけど、毎日見てる迅さんは、いろんな顔を見れる。
「迅さん」
「ん?」
「明日、早いんですよね。僕が起きて朝ごはん作りましょうか」
「いや、俺が作る。お前は寝てろ」
「でも、なんか一緒に作りたい気分です」
なんか、迅さん、照れてる……?
迅さんはマグを置いて、軽く息を吐く。
「……なあ、直樹」
「はい?」
「自覚ないの、たぶん罪だぞ」
「え、なにがですか?」
「いい。知らなくていい」
そう言って迅さんは、肩を引き寄せると、俺は少しびくっとして、でもそのまま大人しく寄り添う。
テレビの音が遠くなって、
二人の間に、静かな夜が落ちていく。
「あ、そういえば週末、橘さんとごはん行くって言ってましたよね」
「ああ。一緒に住むことになったしな」
「……三人?」
「翔真の彼氏、番もくるから四人だ」
「……そっか。なんだか、ダブルデートみたい」
橘さんは迅さんの幼馴染で同級生。
今はベンチャー企業の社長をしていて、迅さんもそこの会社で役員をしている。
俺が迅さんの会社に会いに行ったことがあるから、橘さんとは一緒にごはん食べたこともある。
「……迅さんと一緒に出かけるのが楽しみ」
迅さんは俺を抱きよせて、背中をポンポン叩いてた。
マンションから俺の会社までは歩いていけるから、並んで歩く。
迅さんの会社は始業時間が少し遅いから、俺を会社まで送ってから、駅に向かう。
今日も会社の前まで一緒に来た。
昼休み、同僚がざわつく中、俺はいつも通り落ち着いて弁当を広げる。
迅さんが朝に作ってくれたおかずを一口食べて、ふと小さく笑う。
(あ、これ……味付け変わってる。たぶん、昨日言ったからだ)
俺の好みの味付けになってた……!
小声で呟くのを、斜め向かいの舟形先輩が聞き逃すはずもなく、箸を止めてニヤリ。
「お、出たよ。例の“白鷹家特製弁当”だな」
「ち、ちがいますよ!普通の……普通のお弁当です!」
俺が焦っていると、舟形先輩は「はいはい」と笑いながら、わざとらしくため息をつく。
「うちの彼女、今週忙しくてさ。見ろよ、茶色いだろ」
「でも、そういうのも、愛情感じますよね」
「……お前、今の発言、自分にも刺さってんの気づいてる?」
「え?あっ……!」
途端に顔を真っ赤にして、弁当箱を両手で覆ってしまう。
舟形先輩は「ほんと人たらしだな~」と笑いながら、結局フォローしてくれるのだった。
でも、迅さんの料理はおいしい……。
午後の仕事が終わるころには、
「早く帰って迅さんの顔が見たい」と思っている自分に気づく。
ちょっとだけ苦笑する。
「ただいま」
「おかえり」
リビングに入ると、迅さんがソファに座って書類をめくっていた。
その横には湯気の立つカップが二つ。
「ごはん食べた?」
「うん。何か食べてていいって言っただろ」
「でも、一緒のほうが美味しいです」
「……じゃあ何か簡単なものでも一緒に食べようか」
迅さんは優しいから残業で遅くなった俺に、夜食みたいの作ってくれる。
そして、一緒に食べてくれる。
「……おいしいです」
だって、本当に美味しいし。
迅さんは俺の口の端についてるケチャップを拭ってくれた。
「……ったく」
俺は迅さんに笑ってごまかした。
そんなやり取りのあと、
俺は迅さんの隣に座って、肩に頭をもたせかける。
「もう眠いのか?」
「……ちょっとだけ」
「“ちょっとだけ”じゃないよな……?」
迅さんはそう言いながら、自然に腕を回す。
俺はうとうとしながら、心のどこかで思う。
(俺、ちゃんと自立してるはずなのにな……。
なんで迅さんの腕の中が、こんなに落ち着くんだろう……?)
また別の夜。
「おかえり、迅さん」
「ただいま」
玄関でお出迎え。
今日は迅さんの方が帰りが遅かった。
迅さんがリビングに入ると、俺は部屋着姿でソファに座っている、
さっきお風呂に入って、髪はまだ少し濡れていて、タオルを肩に引っかけたまま。
テレビもつけっぱなしで、ぼんやりしている。
「風呂、入ったのか」
「うん。お湯、替えたよ。迅さんもどうぞ」
「……ああ、ありがとう」
言いながら、迅さんはジャケットを脱いでソファの背にかけた。
俺の方を振り向いて笑う。
なんてことない仕草が、なんでもない夜を特別にしてしまう。
お風呂から上がった迅さんが俺を見ている。
「なぁに?」
「いや。お前がいるのが、まだちょっと不思議でな」
「え?」
「今までもよく泊まってたけど……。帰ってくる場所が、同じっていうのが」
「……そりゃあ、俺もそう思ってます」
俺は照れたように笑って、ソファの隣をぽんぽんと叩いた。
「早く、座ってください」
言われるままに迅さんが座ると、俺は何も考えずに迅さんに身体を預ける。
髪からシャンプーの匂いがする。
迅さんと同じシャンプーの匂い。
首筋が触れそうな距離で、
「これ、反則だろ……」
と、迅さんが思わず小さく漏れる。
ん?
「え、なにか言いました?」
「いや、なんでもない」
「ふうん……」
笑いながら、俺はカップを手に取る。
迅さんのマグに少しだけコーヒーを注ぎ、
「冷めないうちにどうぞ」
と差し出す。
迅さんは少し嬉しそうな顔をしている。
初めて会ったときは「怖い」しか思えなかったけど、毎日見てる迅さんは、いろんな顔を見れる。
「迅さん」
「ん?」
「明日、早いんですよね。僕が起きて朝ごはん作りましょうか」
「いや、俺が作る。お前は寝てろ」
「でも、なんか一緒に作りたい気分です」
なんか、迅さん、照れてる……?
迅さんはマグを置いて、軽く息を吐く。
「……なあ、直樹」
「はい?」
「自覚ないの、たぶん罪だぞ」
「え、なにがですか?」
「いい。知らなくていい」
そう言って迅さんは、肩を引き寄せると、俺は少しびくっとして、でもそのまま大人しく寄り添う。
テレビの音が遠くなって、
二人の間に、静かな夜が落ちていく。
「あ、そういえば週末、橘さんとごはん行くって言ってましたよね」
「ああ。一緒に住むことになったしな」
「……三人?」
「翔真の彼氏、番もくるから四人だ」
「……そっか。なんだか、ダブルデートみたい」
橘さんは迅さんの幼馴染で同級生。
今はベンチャー企業の社長をしていて、迅さんもそこの会社で役員をしている。
俺が迅さんの会社に会いに行ったことがあるから、橘さんとは一緒にごはん食べたこともある。
「……迅さんと一緒に出かけるのが楽しみ」
迅さんは俺を抱きよせて、背中をポンポン叩いてた。
55
あなたにおすすめの小説
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
幸せごはんの作り方
コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。
しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。
そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。
仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。
次元を歪めるほど愛してる
モカ
BL
白い世界で、俺は一人だった。
そこに新しい色を与えてくれたあの人。感謝してるし、大好きだった。俺に優しさをくれた優しい人たち。
それに報いたいと思っていた。けど、俺には何もなかったから…
「さぁ、我が贄よ。選ぶがいい」
でも見つけた。あの人たちに報いる方法を。俺の、存在の意味を。
勘違いへたれアルファと一途つよかわオメガ──ずっと好きだったのは、自分だけだと思ってた
星群ネオン
BL
幼い頃に結婚の約束をした──成長とともにだんだん疎遠になったアルファとオメガのお話。
美しい池のほとりで出会ったアルファとオメガはその後…。
強くてへたれなアルファと、可愛くて一途なオメガ。
ありがちなオメガバース設定です。Rシーンはありません。
実のところ勘違いなのは二人共とも言えます。
α視点を2話、Ω視点を2話の後、その後を2話の全6話完結。
勘違いへたれアルファ 新井裕吾(あらい・ゆうご) 23歳
一途つよかわオメガ 御門翠(みがと・すい) 23歳
アルファポリス初投稿です。
※本作は作者の別作品「きらきらオメガは子種が欲しい!~」や「一生分の恋のあと~」と同じ世界、共通の人物が登場します。
それぞれ独立した作品なので、他の作品を未読でも問題なくお読みいただけます。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる