魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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20.ゼファが来ない!

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朝。
いつもと同じように、リュカはゼファールの執務室へ向かった。
魔王さまの大きな机、壁一面の書棚、窓から差し込む光……全部見慣れた景色。
今日もここで勉強して、ゼファに褒めてもらうんだ、と胸が少し浮く。

——でも。

「……ゼファ、いない」

リュカの耳と尻尾が、ぴん、と立った。
いつもは朝からここにいるはずなのに。
部屋にはカリオンしかいない。

カリオンは机に書類を揃えながら言った。

「リュカ殿。ゼファ様は……ルーシア様とミレーニア様がみえたようですよ」

「ルー……シア?……ミレ……ニア?」
聞いたことのない名前に、リュカは小さく眉をひそめる。

「ゼファ様の弟君と妹君です。王都からの、久しぶりのご来訪です」

「…………弟、……妹」

その瞬間、リュカの胸の中に、チリッと小さな火種が灯った。

(……なんか、やだ)

ゼファがいない。
その理由が弟とか妹とかなんて、気分が悪い。

でもリュカはツンデレなので、言えるわけもなく。

「べ、べつにいいし!弟とか妹とかどうでもいいし!!」

と言いながら席につき、
普段より明らかにガサガサとノートを広げる。

カリオンは苦笑しつつ「では始めましょうか」と授業を始めた。
リュカはいつも以上にがんばった。
(ゼファに褒めてもらうんだ)
その気持ちだけで突っ走っているのは、カリオンにもよくわかる。

——でも。

午後になっても、ゼファは現れなかった。

そのたびに、リュカの胸の火種はじわじわ大きくなり
魔力が落ち着かなくなる。

「……もういい。魔力、ぐらぐらするから、アルドのとこ行く」

半ば拗ねたように席を立つと、カリオンは
「ええ、行ってらっしゃい。気をつけて」
と穏やかに送り出した。


リュカが魔力制御の練習用の円陣に入ると、アルドが静かに眉を上げた。

「……ゼファ様、今日は来ないのか?」

「こないよ!!弟?妹?といるんだって!!」

リュカの尻尾は明らかに逆立っている。
アルドは内心で(ああ、なるほど)と理解する。

「……ルーシア殿とミレーニア殿か。久しぶりだからな。リュカ、お前……」

「なに?!」

「いや……あまり無茶をするなよ」

リュカはますます不機嫌に魔力を放つ。
びしっ、ばしっ、と空気が震え、結界が軋む。

アルドが制御に入ろうとしたその時——

扉がノックされた。

「アルド、いるか」

聞き慣れたサラッとした声。
同時に、もうひとつ、柔らかい声が。

「兄上、ここがあなたの魔力師の部屋?」

ゼファと……ルーシア?

リュカの心臓がきゅっと固くなった。

そして次の瞬間、扉が開き——

若い女の人がゼファの腕に軽く触れながら入ってきた。

(……腕、くんでる……?)

リュカの感情が、一瞬で針のように尖った。

ぱちん。

魔力が弾け、結界が大きく波打つ。

「リュカ!!」

アルドが即座に押さえたが、
リュカの目はゼファールとミレーニアの腕しか見えていない。

(なにそれ……なにそれ!!やだ……!!)

部屋に入ったきたばかりのゼファールには、目の前の魔力暴走を「訓練中の発作」くらいにしか思ってない。

「リュカ、集中が乱れているぞ。……ほら、紹介だ」

ゼファがルーシアとミレーニアを前へ出す。

「こいつはルーシア。俺の弟だ。
こっちはミレーニア。俺の妹だ」

ルーシアもミレーニアも優雅に微笑んだ。

「……あなたが、リュカ?兄上から聞いてるよ」
「ほんとにかわいらしい、オオカミさんなのね」

リュカは目をそらして、ツンデレ全開の声で言った。

「べ、べつに……。どうでもいいし……」

その様子を見ていたアルドは、苦笑い。
……これは、完全に嫉妬だな。

ゼファールは、リュカがなんで機嫌悪いのかいまいちわからない。

そして、ルーシアとミレーニアにはわかってしまう……。
(……ああ、この子、兄上のこと……)


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