魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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31.ゼファの勝てない男

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北の魔物退治から、ゼファールは本当にあっという間に戻ってきた。
リュカは出迎えながら、思わず目を丸くする。

(え、本当にすぐ帰ってきた……)

雪をまとった外套を放り投げながら、ゼファールはまっすぐリュカのもとに歩いてくる。

「ただいま、リュカ!」

「おかえり、ゼファ」

目が合った瞬間、胸の奥で何かあたたかいものが灯る。
そして、ゼファールの顔を見るなり、リュカは思いきって口を開いた。
「ねぇゼファ。僕も……剣術、やってみたい」

ゼファールの瞳がきらきら輝く。
「リュカが? いいじゃん! よーし、今から行こう!」
ゼファールの手がリュカの手をつかんだ瞬間——

「ゼファ様」

冷ややかな声が、二人の背中に突き刺さる。

カリオンだ。
「……仕事が途中です。すぐ再開してください」

ゼファールが苦笑いを浮かべて振り向く。
「い、今からやろうと思ってたんだけど……」

「今からは仕事です」

そこへリュカも慌てて口を挟む。
「ゼファ、仕事終わってからだよ。明日でいいよ」

ゼファールはがっくり肩を落とした。
「うぅ……リュカが言うなら……やる。頑張る……」

結局その日は、ゼファールは不貞腐れた気分のまま執務室へ戻っていった。



翌日、朝一番、ゼファールは張り切ってリュカを訓練場へ連れ出した。

「じゃあまずは……俺の剣を持ってみよっか!」

ゼファールが差し出した剣は、美しい銀の刃を持つが、重量は完全に魔王仕様。

リュカは両手で持ち上げ——
「……っ、重っ……!」

そのまま、ぐらりと傾き、ぺたん、と尻もちをついてしまう。

「り、リュカ!?」

尻もちをついたリュカは、少し恥ずかしそうに笑った。
「重すぎるよ、ゼファ……」

ゼファールは剣を受け取り、眉を寄せる。
「よし、じゃあ騎士団行こ! 初心者用の剣借りよう!
あと基礎とか、専門の奴に聞いた方が早いしな!」

こうして、二人は訓練に使われる騎士団詰所へ向かった。

騎士団詰所の剣戟の音が響く訓練場には、若い騎士たちが汗まみれになって木剣を振っていた。

ゼファールがリュカの背中を軽く押す。

「初心者用の——」
そう言いかけた瞬間、周囲の騎士たちがざわつき始めた。

「……おい、ガイル副団長が今日も暴れてるぞ……!」
「誰も相手したがらなくて、あの人ずっと一人で模擬戦してる……!」

ゼファールの顔が一気に険しくなる。

「……リュカ、あっちの方には、あんまり近づかないでね。……アイツいるから」

(アイツ?)
リュカが首を傾げたそのとき——

訓練場の中央で、巨体の男が片手で大剣を振り切った。

地面に衝撃が走り、砂煙があがった。

銀黒の短髪。
厚い胸板。
そして、獣のように鋭い眼光。

男がゼファールに気づき、にっ、と笑った。

「おいおい、よく来たじゃねぇか、ゼファ。
魔王様になっても、剣の腕……鈍ってねぇよな?」

ゼファールの肩がビクッと跳ねた。

「…………ガイル」

リュカは目の前の男の圧に思わず一歩下がる。

ガイルはリュカを見下ろし、爽やかに笑った。
「へぇ、こいつが噂の。……ちっせぇけど、筋肉のつき方は悪くねぇな。
お前、動きは相当良さそうだ」

リュカは緊張してゼファールの袖を掴む。

ゼファールは前に出て、ガイルを睨みつけた。
「おい、リュカを触るな! リュカは俺が教える!」

ガイルはあっさり返す。
「お前に基礎が教えられんのか? 昔から剣は俺の方が上だろ」
ガイルがニヤリと笑うと、ゼファールはぐっと言葉に詰まる。
「くっ……!」

ガイルは木剣を一本放り投げてリュカに向ける。
「初心者なら——まず俺が見る。安心しろ、丁寧に教えてやる」

ゼファールが慌てて叫ぶ。
「ガイル! リュカを怪我させるなよ!!」

「へいへい、甘やかしてんな。……ま、よろしくな、リュカ」
その笑顔は豪快で、けれどどこか優しかった。

リュカは小さく会釈する。
「……よ、よろしくお願いします……」

こうして、ゼファールが唯一剣で勝てない男・ガイルとの剣術稽古が始まった。


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