魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

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32.剣術の稽古

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基礎訓練が始まり、リュカは、ガイルに渡された軽い木剣を慎重に両手で握った。
昨日のゼファールの剣とは違い、ようやく「剣」として扱える重さだ。

「よし。まずは構えだ。腰落として、片足は少し後ろ」

ガイルが背後から、リュカの腕や腰の位置を調整していく。
大きな手だが、その動きは驚くほど丁寧だった。

「……ここ。力入りすぎだ。肩の力抜け」

「う、うん……」
リュカは必死に真似し、額にうっすら汗をにじませる。

少し離れた場所で、ゼファールが腕を組んでじっと見ていた。
真剣な横顔。
リュカを見つめるその目は、どこか保護者のようで……そして少し嫉妬深い。
(大丈夫かな……怪我しないかな……)

ガイルがリュカの木剣を軽く叩くたび、ゼファールの肩がピクっと動く。

しばらく、基礎訓練が続く。

「じゃあ素振り十回。ゆっくりな」

「はい!」
リュカは言われた通りに剣を振り下ろす。
まだぎこちないが、最初よりずっと安定していた。

——ひゅっ。

ガイルが目を細める。

(ふむ……この子、身体の使い方が素直だな。力みが少ねぇ)

「腕だけで振るな。腰を回す!」

「こ、こう?」

リュカが回転させた瞬間、木剣がすっと真っすぐに走った。

ガイルの眉が一瞬だけ上がる。
(……今の良いぞ。才能あるじゃねぇか)

リュカ本人は気づかない。
ただ、一生懸命ゼファールがやっていた動きを思い出して真似しているだけだ。


「ゼファ様」
無駄のない足音でカリオンが訓練場に現れた。
ゼファールはびくっと振り返る。

「っ、カリオン……リュカ、見てたんだけど……!」

「見ているだけでは、仕事は終わりません。
リュカ殿のことは騎士団にお任せください。
さあ、戻りますよ」

カリオンは容赦なくゼファールの腕をつかむ。

「ちょ、ちょっと待て! リュカが——」

「集中しておられますから、今は気づきませんよ。
むしろ邪魔になるだけです」

ゼファールがリュカを見ると、案の定、リュカは木剣に全神経を向けている。

「ハッ! ハッ……これでいい、かな……?」

息を切らしながらも、楽しそうに素振りを続けていた。
(……夢中になってるなぁ。可愛い……)

ゼファールは名残惜しそうに、引きずられるようにカリオンに連れられていった。




ガイルはゼファールが連れ去られるのを横目に、リュカへと視線を戻した。
「よし、次。踏み込みやってみろ」

「ふ、踏み込み……」

「剣を振りながら、一歩前に出る。やってみ」

リュカは呼吸を整え、剣を構える。

——すっ。

驚くほど自然に前へ踏み出せていた。

ガイルが腕を組む。
(重心移動が綺麗だ。普通は転びそうになるんだが……
この子、野生で鍛えられた“動きの勘”があるな)

さらに素振りを続けさせると、

ひゅん。
ひゅん。

木剣が空を切る音が、だんだん鋭くなる。

「……ほぉ」

ガイルの口元がわずかに吊り上がる。

「リュカ、お前……素質あるな。
基礎しかやってねぇのに、この動きは上等だ」

リュカはぱっと顔を上げる。

「本当? やった……!」

ガイルはリュカの頭を大きな手で軽く撫でる。

「明日も来いよ。鍛えてやるからな」

リュカは嬉しそうに笑った。

それを見て、ガイルは確信する。

(……面白ぇ弟子ができたな)

そして内心、
(ゼファの奴、これ知ったら絶対張り合ってくるな……)
とにやりと笑うのだった。


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