魔王さまに抱かれるもふもふツンデレオオカミの僕

蒼井梨音

文字の大きさ
39 / 65

39.晩餐会

しおりを挟む
晩餐会の時間が近づき、ゼファールが声をかけるまで長い時間ではなかったけど、リュカは気持ちよさそうに寝ていた。
国王との挨拶だけで、こんなに疲れ果ててるから、晩餐会の後は泥のように寝るな、ゼファールは思った。

目覚めたリュカは、緊張で胸の鼓動はどんどん早くなっていった。

きっちりした服に袖を通され、髪を整えられ、
ゼファールと並んで王宮の長い廊下を歩く。

──広い。
──きらきらしてる。
──ぜ、ぜったい間違えられない場所だ……。

大広間までの廊下で、リュカは肩をすくめて、小さく歩幅をまとめながら、ゼファールの隣をちょこちょことついて行く。

すれ違う侍女や従者が
「殿下、お帰りなさいませ」
「本日もお疲れさまです」
とゼファールに深く礼をすると、堂々と返礼する。

「ああ。ご苦労」

リュカは改めて、思った。
(……ゼファって、すごい。こんなにも堂々としてて……。本当に、王子さまなんだ……。
本当に、自分が隣にいていいのかな……?)

リュカが無意識に歩くスピードが落ちて、少し後ろに下がりかけたそのときだった。

ゼファールが気づかぬまま歩く──わけがない。
すぐに横目でリュカを見て、足を少し緩めた。

「……リュカ」

「えっ、な、なに?」

ゼファールはほんのわずか、柔らかく笑った。
「お前がいると、俺も強くなれるんだ。
だから、気にするな。堂々としてろ」

「……っ」
リュカは、胸の奥に温かいものが広がり、ぎゅっと胸を張った。

小さくても、確かな勇気。
リュカは、ゼファールの隣を、今度は並んで歩いた。


大広間への扉が開かれた瞬間、光と音と匂いが一気に押し寄せてきた。

華やかな衣装に身を包んだ王族たち。
煌びやかなシャンデリア。
上座に長卓があり、その下に大きな丸テーブルが何列も並んで、楽団の演奏が流れている。

リュカはすぐに目立たないような末席の方へ歩こうとした。
が、ゼファールの手が肩を押さえた。

「おい、そっちじゃない」

「……え?」

案内の従者が丁重に示した席は──

国王の隣、王妃とイグナーツの並び。
ゼファールが国王の隣に着席、リュカは少し下がった席。
(……む、無理……!なんでここ……!)

ゼファールが小声で答えた。
「俺は第二王子だ。悪いな、客人のお前も、そばになる」
ゼファールにエスコートされ、リュカは大きく息をのんでゼファールの隣の席についた。


第一王子のイグナーツは、リュカを見るなり小さく笑った。
「へぇ……君が、ゼファールと一緒に来た子か。
名前は……リュカ、だね?」

ひどく愛想の良い笑顔。
でも、その碧の瞳の奥には何一つ温度がない。

「は、はい……」

イグナーツはワイングラスを指でくるくる回しながら、まるで興味本位のように続けた。

「ゼファールは強い。でも──弱点もあるね。
……珍しいことだ」

ただの軽口に聞こえる。
けれど、ゼファールには刺が分かった。


♢♢
イグナーツはゼファールに隠れるようにしているリュカを見ていた。
魔力を静かに動かして、周りには見えない薄膜のような術式が空気中で展開された。

(……面白い。
……ゼファールが防御はどの層が弱い?
……これは、検証の価値があるな)

イグナーツは、他愛もない雑談をしている顔の裏で、
淡々と魔術構築の計算を進めていた。


♢♢
ゼファールの方は、完全にリュカの方へ意識を向けている。
「……大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫……」

ゼファールは視線だけでイグナーツを牽制していた。
(なにを企んでる……?)


やがて国王が立ち上がり、会場が一斉に静まり返った。

「本日の宴は──
我が治世の節目を祝うと同時に、
久方ぶりにゼファールが帰還したことも、
大いに歓迎するものである」

拍手。
きらめく杯の音。
そして晩餐会が正式に始まった。

♢♢
リュカは緊張に飲まれながらも、
ゼファールの隣で、必死に姿勢を保っていた。

ゼファールの手がそっとテーブル下で触れ、
「落ち着け」というように親指で撫でてくれた。

その優しさだけが、リュカの心を支えていた。

目の前の長い卓に、次々と料理が運ばれてくる。
銀の蓋が外されるたび、香りが立ち上った。

……食べなきゃ。

リュカは背筋を伸ばしたまま、出された料理に手を伸ばした。
視線は、正直言って怖い。
知らない大人ばかりで、しかもみんな、こちらを見ている気がする。

けれど――

「それは魚だ。白身で、香草が入ってる」
ゼファが小さな声で教えてくれる。
「こっちは甘い。後で食べろ」

頷いて口に運ぶと、思わず目を瞬いた。

……おいしい。

味は確かだ。
知らない料理ばかりなのに、どれも丁寧で、やさしい味がする。

リュカは一生懸命、黙々と食べ続けた。
話しかけられることはほとんどなく、
代わりにゼファールが周囲と会話している。

名前も、称号も、よくわからない。
ただ、ゼファールが落ち着いた声で応じているのを、隣で聞いていた。

……すごいな。

同じ席に座っているのに、
ゼファールはこの場に自然に溶け込んでいる。

料理が一通り出終わる頃になると、ゼファールの周囲に人が集まり始めた。

「こちらは北の――」
「今は辺境を任されていてな」

ゼファールはその都度、ちらりとリュカを見る。
「気にしなくていい」

ゼファールにそう言われて、ほっとする。
正直、もう頭に入らない。
そのときだった。

「わあ……」

少し離れた席から、ゼファールと似たような顔をした子どもたちが、興味深そうにこちらを見ている。

近づいてきて、
――リュカの尻尾に、そっと手が伸びた。

「かわいい……」

一瞬、身体に力が入る。
反射で唸りそうになるのを、必死でこらえた。

だが、
「触るな」
ゼファの声は低く、短かった。

それだけで、空気が変わる。

子どもたちははっとして手を引っ込め、気まずそうに笑って、距離を取った。

ゼファールの手が、背中に触れる。
「大丈夫だ」
小さく囁かれて、リュカは息を吐いた。
ゼファールがきょうだいたちに少し話をすると、彼らはまた離れていった。

その後は、ゼファールが席を立つたび、必ずついて行った。
挨拶も、移動も、常に隣で。

離れる気はなかったし、離れさせられる気もしなかった。

やがて音楽が変わり、国王陛下が立ち上がった。

晩餐会の終わりだ。

ようやく――と思うと同時に、
リュカはゼファの袖を、きゅっと掴んでいた。

「お疲れ」

そう言われて、やっと肩の力が抜ける。

長くて、落ち着かなくて、それでも、隣にゼファがいた。
そのことだけが、
この晩餐会を最後まで乗り切れた理由だった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています

水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。 一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。 前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。 これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。

死神は結婚生活が楽しすぎて探し物をすぐ忘れる

ユーリ
BL
「俺たち本当の夫婦になろうな」 駆除対象である死神に出された条件は、なんと結婚! 死神は生きるためにその条件を飲むけれどーー 「お前と結婚してよかった」生かす代わりに結婚を条件に出した悪魔×突然変異で生まれた死神「僕の鎌知りませんか!?」ーー死神は落とした鎌を探そうとするけれど、悪魔との結婚生活が楽しくてすぐに忘れてしまい…。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~

いつく しいま
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在―― いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? 「俺のものになって」 「ちょっと、この子を独占しないでよ」 「お前こそ」  ちょっと困るって!   これは、法的事案だよ……! *** ※男主人公をめぐる逆ハーレムあり ※法廷・ミステリーパートの描写あり(基本理解できる範囲になっております) 以前こちらで投稿していた作品を、2章の構成を整えて再投稿します。以前読んでくださっていた方、本当にありがとうございました。36話まで1日3回(11時半、15時半、19時半)予約投稿済みです。

チョコレートがつなぐ二つの世界

一ノ瀬麻紀
BL
憧れの先輩に渡せなかったチョコレートを持ったまま、異世界に転移した天音(アマネ) 突然知らない世界に迷い込んだ天音に手を差し伸べてくれたのは、流れの冒険者のアランだった。 初めは戸惑っていた天音も、アランのおかげでこの不思議な世界にも慣れ、充実した日々を過ごしていた。 けど、そんな平和な日々は突然終わりを告げた。 突如として現れた光に包まれ、天音は気づいたら元の世界に戻っていた――。 チョコレートがつなぐ、二人の物語です。 Xにツイノベとして公開したものを改稿しました。 結構変わっているので、ツイノベで読んだ方にも楽しんでもらえると思います。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

処理中です...