強くなりたいと言ったら、元魔王に開発調教されていました~宝石姫と元魔王の恋物語~

花虎

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1.十五歳、入学

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 ビジューライト王国の現国王は夜になると男性体になるので、普段から見た目も男性だ。その国王と婚姻し、双子を生んだのは兎の獣人の王妃。

 そう、ビジューライト王国は王族以外獣人や亜人……魔族といった人間という種族とは外れた理にいる者たちだった。王国を遠く離れた土地には人間も住んでおり、時折ビジューライト王国に迷い込んでくることもあるが、その旅程は険しく、ほとんどの人間がたどり着く前に死ぬか、諦めるという。そうしてそれが、人間の王国がこちらに侵攻できない理由ともなっていた。

 おかげでビジューライト王国は建国から数百年、基本は平和を享受している。唯一の危機と言えば、百年に一度襲いくる巨大魔獣だが、それも王族の力で退けるのが慣例となっていた。

そんな平和な王国に歴史上初めて生まれた王族の双子は、国中から祝福された。

 これは吉兆だ、と国の占い師が宣言したほどだった。

「クイン、今日はピアノのお稽古?」

楽譜を大事そうに抱えた自分と同じ顔をした美少女を見やる。クインは深いフォレストグリーンの瞳に、鮮やかな黄金色の髪をしている。さらさらのストレートの長い髪を弄ぶように掬うと、クインがいたずらっ子を見るような目でくすくすと笑う。

「フィンリーは外で剣のお稽古?」

まったく同じ容姿だが、ふんわりと春色のピンクドレスを着たクインと、少年の恰好をしたフィンリーでは見間違いようがない。フィンリーは、髪も本当は短く刈り込みたかったが、さすがにそれは両親に止められたので、肩で切りそろえたくらいの長さだ。

 フィンリーの腰に下げられた子供用の木剣を見て、クインが尋ねる。

「うん!やっと打ち合いをさせてくれるようになったんだ!」

太陽のようにぱっと明るく笑うフィンリーを、クインも嬉しそうに見ている。

「僕が強くなって、クインを守るからね」
「ふふ、楽しみにしているわ」

仲の良い双子を、周りも温かく見守っていた。おそらく王としての資質はフィンリーが持っているだろう。けれどクインの人を惹きつけてやまない才能も素晴らしい、と。二人がいればこの王国はさらなる発展と安寧を得られるだろうと誰もが確信をしていた。

 まわりが囃し立てるのも気にすることなく、二人は仲睦まじく成長した。そうして十五歳になった時、二人は国を治める王族として国を知り、処世術を身に着けるため国立の学園へと入学をはたした。

 今まで隔離された箱庭で大切に育てられていた二人は、初めて同年代と触れ合う。

「へぇ、双子っていっても、あんまり似てないんだな」

そういって不躾な視線をじろじろと浴びせてくるのは獅子の獣人だ。獣人といっても普段は人間と変わらない姿をしている。ただ体格などは元の生物にひきずられるらしく、目の前の男も身体が大きく、威圧的な空気を醸し出している。ビジューライト王国は人間の王国とは違い自由を愛し、束縛を嫌う。そのため、身分に対する序列がさほど厳しくなく、王族相手にもこういった態度をとっても不敬といって罰せられることはない。

 肉食系獣人は、総じて態度が悪い。

「それにしても、妹の方は白くて美味そうだ」

下卑た笑みを乗せて、舌をべろりと出して唇を舐める。恐怖に震えるクインを背に庇って、フィンリーが睨みつけると。

「お~怖い。中途半端野郎がナイトごっこか」

ふん、と馬鹿にするような鼻息。ビジューライト王国はいわば実力主義だ。王族がこの特性を持ち続けているのは、性別が安定しないが故の力があるからだ。

「王家を侮辱するのか」

厳しい声でそう告げると、獅子の獣人は肩をすくめる。

「俺の一族は強い者が全てだ。お前の父親は大精霊を従えているからな……だが、お前はまだ何者でもないだろう?」

 ―――そう、大精霊を従えることが出来るのは国王、もしくは女王だけだ。これが、我が一族が王族であり続けられる理由だった。

 大精霊は、ビジューライト王国に住まい、国全体の守護をしている。敵国からこの王国を守り、時に追い払う。人間がこの王国にたどり着けないことがほとんどであることも、その大精霊の力によるところが大きい。さらに百年に一度の大災害と言われる巨大魔獣には、国王が大精霊と共に追い払い、封印する役目を担っている。

その力は人智を超えており、いかな屈強な獣人や亜人とて敵わない。唯一対抗しうるのは魔族の王くらいなものだ。しかし、この国にいる魔族にそこまで強大な力を持つ魔族はいない。何故なら魔族は強ければ強いほど国という束縛を嫌うからだ。

 そうして、ビジューライト王国は自由で平和な王国を成り立たせているのだ。

 逆を言えば、実力がなければ国民を従えることなど出来ない。だから、獅子獣人が言う「お前が何者でもない」は事実でしかない。フィンリーが幼い頃から剣術や体術など、武に関連した習い事を好んだのは、このためだ。

 自分とクインは歴史上はじめての双子。吉兆だと言われてはいるが、将来大精霊を従えることが出来るのかは不確定要素だった。

 万一、大精霊が二人を認めなかった時のことを考えて、クインを守れる力をつけておきたかったのだ。

獅子獣人は、ぐい、とフィンリーの細い腕を掴む。いくら男性体を確定視されていても、まだ子供の身体であるフィンリーは、クインと体格がほぼ同じだ。背は低く、手足も細い。

「はは、こんな細腕で何ができる」

掴んできた手は大きく、無骨でフィンリーよりもずっと力がある。ぎりぎりと力を加えられて、顔が痛みに歪むと、クインが後ろでやめて、と訴えている。

 けれど、こんなやつに負けたくない……!

「僕は……っ」
「はーい、そこまで」



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