強くなりたいと言ったら、元魔王に開発調教されていました~宝石姫と元魔王の恋物語~

花虎

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8.追跡

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「フィンリー様が、登校していない?」

昼休み、焦った顔でレストの研究室を訪れたのはクインだった。

「えぇ、遅刻かと最初思ったのだけれど、フィンリーは今まで一度もそんなことなかったから変だと思って」
「……それで、私に確認しにきたわけですね」

確かにレストは、早めに登校するというフィンリーを見送った。昨晩少し様子がおかしかったから、本当は一緒に行こうと言いたかったけれど、思春期の複雑な年ごろに踏み込み過ぎてもよくない、とそう考えたのだ。

「フィンリー様は今朝早く家を出られました」
「では、学園に向かったのに来ていないということ?」

クインが表情を険しくするのに、レストは軽く頷くと眉間に皺を寄せた。
 授業をサボる?あの真面目を絵に描いたようなフィンリーがそんなこと思いつくだろうか。昨日の様子を思えば、可能性としてないとは言い切れないが。
 レストはひとまず研究室の床に散らばった書類やら道具を乱暴に脇へ除け、床に一定の広さの空間を確保する。

「何をするの?」
「フィンリーの魔力を追います」

同族ではないフィンリーの魔力を追うには、自分でもかなり集中力がいる。本来なら出来ないが、十五の時から二年間、フィンリーの魔力を体内に取り込み続けた自分なら、あるいは、と考えた。
 チョークで魔法陣を描いていると、校内の鐘が昼休み終了を示す。

「クイン様は、ひとまず授業へ」
「嫌……っ私もフィンリーを探す……っ」

聞き分けなく頭を振ったクインに、レストは苛立ちから舌打ちをする。

「集中したいので、邪魔になります」

硬く厳しい声に、びくり、とクインが怯えた顔になる。おそらくレスト自身、優しい顔を出来ていないことはわかっている。
 けれど、クインを気遣っている余裕はない。
万が一でも、フィンリーが国外に出れば、大精霊の加護は届かない。

「……必ず……見つけて……」

言いたいことはたくさんあっただろうに、クインはぐっと喉に押し込めてそれだけ言うと研究室を出ていく。
 レストは緻密な魔法陣を書き終えると、深い息を吐いて髪をかき上げた。同時に、その背に黒い大きなコウモリの翼が出現し、頭から牡牛のような黒い大きな角が生える。
 大きな魔力を使う時は、本来の姿でなければ発揮できない。魔法陣に手をかざして、意識を集中する。
 ともすれば切れてしまいそうな細い魔力の糸を手繰り寄せる。ほとんど残滓といっても差し支えがないほどの心もとなさのそれを、力を入れて霧散させてしまわないように、慎重に慎重に辿る。
 閉じた瞼がぴくりと痙攣し、額に汗が浮かぶ。
気が急いてしまえば、それは簡単に手の中から消えうせるであろうことが感じられる。まわりに数多の雑音がひしめき、その中に残る清廉な気配を必死で追いかけて、どれくらい時間が経っただろう、額から滑り落ちた汗が顎を伝ってぽたりと床へ落ちた時。
 気配が色濃くなった。

「……っ」

意識をさらに深く潜り込ませて、飛ばす。

『……フィンリー様……』

注意深く、呼びかけると、ゆらりと気配が揺らいだ。

『……レスト……先生?』

小さく返ってきた反応に、レストは瞼を持ち上げて、は、と詰めていた息を吐く。繋がった。これなら少し気を緩めても大丈夫。

『フィンリー様、何がありました?』

とにかく状況を把握することが先だ、と質問をすると、フィンリーが悔しそうに答えた。

『おそらく、人間の盗賊だ。宝石姫を盗んで、人間のコレクションとして売りさばこうとしている』

知らず、レストの握った拳にぎりり、と力が入る。

『それで今……』

貴方は無事ですか?という問いかけに気づいて、フィンリーは被せるように言った。

『大丈夫。僕は無事だ。おそらく商品だからひどい暴行は受けないと思う。それよりも、国外に出ようとしていることが厄介だ』
『……そうですね。場所は、お分かりになりますか?』
『いや、麻袋に入れられているから方角まではわからない。ただ、急いでいるようだから学園から一番近い国境門を目指していることは確かだろう』

それなら、ある程度場所は絞り込める。頭の中でざっと地図を開いて、距離を測る。あの異変を感知する紋様さえ残っていれば、媒介にして一瞬にしてフィンリーの元へ転移できるものを、と歯がみする。
 つくづく、タイミングが悪い。
国境へ先まわりして待ち伏せするとして、その間にフィンリーの身に何かが起こる可能性も捨てきれない。
 人間は、わが身可愛さで考えをすぐに翻す。己の利益のためなら、フィンリーを無傷で生かすという選択肢もすぐに捨てるだろう。

「ネズミ風情が……」

吐き捨てた後、もう一度問いかける。

『では、フィンリー様、私は国境に先回りを……』
『あ、ねぇ……待って!先生』

これ以上の魔力消費を節約したくて終わらせかけたレストを、フィンリーが引き留める。

『どうしました……?』
『あの……、身体強化が使えれば、自力で脱出できると思うんだ……』

遠慮がちな声に、意図するところを察して、レストの口元に笑みが浮かぶ。

『あぁ、引き出してほしい、と』
『……う……ん……。出来る……?』

伺うように尋ねられて、レストは片方の眉をあげて、目を細めた。

『仰せのままに』

慇懃に応えてから、手放しかけた気配を再度捕まえて、それから先ほどよりも意識の繋がりを深くする。
 こうすることで、おそらくフィンリーの頭に響いていた自分の声が、まるで耳元で囁くように聞こえるはずだ。

『……では、フィンリー、思い出してください。私がいつも貴方に触れる時、どこから触れますか?』
『……っ』

かすかに息を飲む声が、した。





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