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8-3.
しおりを挟む馬を駆るよりも、自分で移動した方が速い、と判断したレストは辿った気配を頼りに空を滑空する。
最後のあの繋がりの切れ方は、不自然だった。
フィンリーのあの言葉を聞いて、自分の精神が乱れたことも確かに要因の一つだろう。けれど、それとはまた別の力も働いたように感じた。
嫌な予感がする
おそらく、人間の盗賊はたとえ武器を持っていても魔力で身体強化をしたフィンリーの敵ではない。けれど、そもそもがおかしいのだ。人間は魔力を持たず、徒党を組まない限りは非力な存在だ。
人間達が国境を越えてこの国へ入り込むのはかなり難しい。本来であれば大精霊が国境付近で弾いてるはずだからだ。
と、すれば。大精霊の力に干渉が出来る何か、が。
大精霊の力も、この国一つ全てを緻密に守るということは難しいし、外からくるものを弾きすぎることで、国が衰退することを避けるために、険しい山々の試練を乗り越えられるものは侵入を拒まない。
つまり、獣人や亜人、そして魔族の侵入は可能なのだ。
人間がこの王国にたどり着く方法として、自力でたどり着く以外にあるとすれば、これらの種族からの助力。
「……」
思い当たる節はある。ビジューライト王国には魔族が少ない。ゆえに、強い力を持つ魔族への対抗策がない。
元々レストがこの地に留まっているのも、土地が気に入ったとかそんな陳腐な理由ではなく、大精霊と交わした約束のためだ。
「あいつ……さぼってんじゃねぇだろうな」
姿が魔族本来のものになると、どうにも口調が本質のものに近づく。レストとしてはどちらも己なので、さほど気にしていないが、街に溶け込むには少々都合が悪かった。
だから、常に笑顔を張り付けた、本心を見せない「レスト」という虚像を作り上げた。最近ではもう、どちらが本物だったか忘れかけていたが。
フィンリーが慕うレストは、レストであってレストではない。
先生……触って……
あの言葉を聞いた時、反応したのはどちらの自分だったのか……。
「まぁ、どっちでも同じだけどな」
小さく呟いて、速度を上げる。街の城壁を超えて、しばらく飛んだ先に、森を見つけた。気配が切れた箇所は、確かにあのあたりだ。
近づこうとして、レストはぴたり、と動きを止めた。
森全体を覆う気配に、ぴくり、と眉があがる。
それはすでに残滓でしかないけれど、レストにとっては見知った魔力の残り香だった。
無意識に、舌打ちをして。
視線をさらに遠くの国境へと移した。
おそらくもう、国境を超えている。
それは予感ではなく確信だ。
自分の知る相手であれば、こんな距離は一瞬で縮まる。フィンリーは手も足も出ないだろう。
だが逆を言えば、レスト自身にも言えることだ。ご丁寧にもわかりやすい残滓を残し、自分を追いかけてこいと挑発しているのだ。
この俺に、喧嘩を売るのか、タッタリア―――
にぃ、と口角があがり、鋭い牙が覗く。
「上等だ」
お前が今、誰の尾を踏んでいるか、わからせてやろう。
残滓の色濃く残る森の中へ一度降り立ち、レストは木くずになった荷馬車と、すでに物言わぬ屍となった人間の躯二つを一瞥する。
自身の親指を噛んで、血を溢れさせると、森の土へと吸わせるように手のひらを大地へ向けた。
ごう、とまるで竜巻のような大きな渦状の風が強く吹き荒れる。その風はまわりの木々をなぎ倒し、巻き込み、どんどんと大きくなっていく。生態系すらめちゃくちゃにして、巨大な嵐が起こり、森全体を飲み込んだ。
と、同時に、一瞬で風は止み、その大地には草木一本、残されていなかった。
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