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9.宴
しおりを挟む次に目覚めた時、そこはやわらかな寝台の上だった。
「おぉ!目を覚ましたぞ!」
周りの状況を認識するよりも早く、頭に響いてきた人の声。驚いてそちらを見ると、寝台のまわりに柵があり、それをぐるりと取り囲むように椅子に座った人々がこちらを見下ろしていた。
「ひ……っ」
無数の不躾な視線にさらされて、フィンリーは思わず喉を引きつらせた。値踏みするような視線、舐めるような下品な視線、見下すような高圧的な目線……自分を見る目はどれも、自分を「生命ある個体」ではなく「物」として見ていた。
「ほぅ、さすがに美しい……この世のものとは思えんですな」
先ほど声をあげた男とは別の男が、楽しそうにそう評する。
「我が家にも一体いれば、自慢できますわねぇ」
甲高い女の声も後ろから聞こえてくる。前からも後ろからも下卑た視線を受けるのが気持ち悪くて両手で身体を抱きしめたら、がちゃり、と無機質な金属音が鳴った。視線を足首に向けると、太い鎖の足枷がついていた。
柵に入れるだけでは飽き足らず、逃亡しないように鎖でつないであるのだ。よく見れば、服装もひと目でわかるほど高級な生地で仕立てられた純白のドレスに着せ替えられている。
「ははは。お戯れを、レディ。この宝石は二つとない代物だからこそ、価値がある」
でっぷりと脂ののった、恰幅のいい男が、赤ワインのグラスをまわしながらそう評した。
「まぁ、申し訳ありません。公爵。素敵なコレクションだったから、つい……」
公爵、と呼ばれた恰幅のいい男は、まんざらでもなさそうにお腹を揺らして笑った。
「さて、ここからがメインのショーですよ、皆様」
言いながら、手に持った赤ワインを高く掲げた。
「奇跡の両性具有の身体を、とくとご覧あれ」
声高に男が言い放つと同時に、部屋の中の観衆がおぉおお、と歓声をあげた。フィンリーの身体が、恐怖にがたがたと震える。何を、言っているのだ、この目の前の人間たちは。
「いやぁ、両性具有が、どんな風に啼くか!見ものですな!」
「ねぇ、目の前で犯すのでしょう?相手はどなた?うんと痛くしてくださらないと面白くないわ」
「後で腕を一本いただけないですかねぇ。研究したくて。もちろんお礼は弾ませていただきます」
「いやいや、それなら私は目玉が欲しいですな。食らえばなんでも長寿が得られるとか……」
興奮した声が、わんわんとフィンリーの頭を揺らす。何を、言っているのだ、こいつらは。正気じゃない。悪意という名の欲望を直にぶつけられて、フィンリーは恐怖で身体が震えるのを止めることが出来ない。
恐怖で唇が青くなったフィンリーを、満足そうに見下ろして、公爵はにちゃりと笑った。
「タッタリア、やれ」
命令と共に、公爵の後ろの影から、翼のないタッタリアが現れる。
「まぁ!美しい!後で私もお相手願いたいわ」
タッタリアの美貌に、女が喜ぶ。
「啼く声を皆様に聴かせたいから、口は塞ぐなよ」
「御意に。快感と、絶望と、痛みの鳴き声をさえずらせましょう」
慇懃に頭を下げたタッタリアの瞳は、血のような黒くも見える赤色をしていた。ゆっくりと柵の中へ入ってくる。
フィンリーはぱさぱさと頭を振って、ガチガチなる歯で、嫌だ、とそれだけを繰り返す。
絶望に叩き落されるとは、こういうことを言うのだろう。本来なら人間など敵ではないはずなのに、捕らえられて籠の中へ繋がれれば何も出来ない。たとえできたとしても、目の前には圧倒的な力の差を見せつける上級魔族がいる。
これから自分は……抵抗も出来ぬまま、ただ一方的に嬲られるのだ。
フィンリーは自分の身体を抱きしめて溢れる涙を止めることが出来なかった。それすらも、人間たちは嬉しそうに歓喜の声をあげている。
「おぉ、泣いている!涙も美しい!」
「ねぇ、誰か小瓶に詰められないの?美容によさそうだわ」
「あとで私にも舐めさせてくれ」
耳を覆いたくなるような下卑た言葉たちがフィンリーの心をずたずたに引き裂いていく。ぎし、と寝台の端にタッタリアが乗り上げた。
フィンリーを侮蔑の濃い瞳で睥睨し、歪んだ口を開く。
「ぷちっと潰してあげますね」
わんわんと響くような声に、フィンリーは耐えられなくなった。
「……せ……んせ……」
消え入りそうな声で、カチカチと歯を鳴らしながら、フィンリーは声にならない声を紡いだ。
―――助けて―――……
一瞬後、
轟音をたてて、部屋の屋根が壁ごと吹き飛んだ。
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