拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう

花虎

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 そうして順調に、浄化の旅は続いた。ミーシュタット王国の次は地神グリズリーの守護するヴォーデ王国。ここは、緑の自然豊かな土地に、色々な動物が過ごしやすい気候と餌場が揃っているため、畜産が盛んな国だった。

 広大な敷地の牧場を持つ家も多く、人口は多くないが、様々な動物たちが多く生息している。

 三番目に選ばれた理由としては、動物が瘴気汚染の媒介となりやすいためだ。このヴォーデ王国での浄化は少し苦戦した。

 理由は、闇神フォグがこちらの弱点を突いてきたことだ。瘴気汚染された動物たちは狂暴化し、人も襲う。

 だが、狂暴化した動物たちをただ排除すると、生態系が狂ってしまう。できるだけ殺すことなく、リナリアの浄化の力で、動物たちの身体の中から瘴気を追い出し、消滅させる必要があった。

 だが、リナリアが浄化の祈りを捧げる間、闇神フォグはそこをついて大量の動物たちを操り、襲撃してきた。動物たちを可能な限り殺さず退けるというのは、聖騎士達の能力の特性を考えるとかなり難しい。

 今までは守りを主に担当していたノエスが、土壁で狂暴化した動物を閉じこめ、無効化する必要があった。

 ミーシュタットのように派手に魔法で蹴散らせばいいというわけではない。そういった工夫も必要になるのだと学んだ旅だった。

 そして四つ目の国は、炎神サラマンダーが守護するリム王国。そこは、いわゆる南国だった。ヤシの実があちこちに自生し、常に暑さを感じる気候のため過ごしやすさは他の国よりも劣る。だが、住まう人々は笑顔に溢れていて明るく人懐っこい人柄が多かった。

 さらに、炎神サラマンダーが「美と情熱」を愛する神である所以か、今まで見てきた王国で一番皆おしゃれだ。目にも鮮やかな色とりどりの布地を合わせ、独自のファッションを確立していたり、多くの煌びやかな装飾品が街に並んでいる。

 聞けば、リムでは加工業に力を入れていて、装飾品の生産や貿易も盛んなんだとか。なるほど、エカルラートをそのまま体現したかのような陽気な国だ。
 
「……早く……帰りたい……暑い……」

 水属性であるイサラはこの国と相性が悪いらしく、部屋に設えられた背の低い床置きクッションソファにもたれ掛かってぐったりしている。可哀そうになって、街を歩いていたら屋台の店主にもらった扇で扇ぐ。

 リムはどうやら他の四国とは違い独特の発展を遂げたらしく、家の形も平屋が多い。今宿泊している宿も、宿屋として一つの大きな建物というわけではなく。大きな敷地に、点在した小さなコテージが並んでおり、その一つがまるまる部屋となっている。なんだか気候と国の明るさで、旅行気分になってしまいそうだ。

 リナリアに危険が及ばないよう、実は常に近くに一人は聖騎士が控えている。こうやって部屋で一緒に過ごすこともあれば、部屋が狭ければ隣の部屋にいることもある。イサラのコテージはさすがに遠いので、わざわざ来てくれたのである。

 イサラは、リナリアより一つ年上だが、騎士団では最年少だからか少し甘えん坊だ。人見知りでネガティブな一面があるが、この人は大丈夫と思うと懐いてくれるらしい。

 以前は警戒してほとんど姿を見せてくれなかったし、最初の馬車の訪問はこの世界にリナリアが不安を覚えないためにとフィグルドの命でしぶしぶやって来ていたのだろう。今の態度とは全然違う。

 こうやって旅を経て、彼が自らの意思で姿を現し、自分と過ごしてくれるのはなんだか仲良くなれたようで嬉しい。

 おそらく、他の聖騎士達の前で泣きごとを言うと叱られるから、こうやってイサラは時折リナリアの前で愚痴を言ってガス抜きをしているようだ。

 今はこの街における最良の浄化地点を見つけるべく、ノエスとディーが調査に出ている。

 街に出て聞き込みでもしようと考えていたが、イサラが暑さに弱いと知って、涼やかな室内でのんびりしていると、突然、ばーんと扉が開いた。

「リナリアちゃん!いるー!?」
 
元気よく入って来たのは、この国についてからやたらと元気いっぱいなエカルラートだ。イサラが慌てたようにソファの後ろに隠れた。国同様、イサラはエカルラートが少々苦手らしい。だが、ぴょこん、とソファの上から紫の髪がはみ出ているのでいるのはバレバレなのだけれど。
 
「エカルラートさん、どうしたんですか?」
 
エカルラートはイサラを気にすることなく部屋にずかずかと入ってくると、小脇にかかえた荷物をリナリアの目の前に置いた。木の皮で編まれた籠だ。そのまま、ぱこっと蓋を開けた。
 
「すっごく良い物を手に入れたの」
 
上機嫌なエカルラートが、にんまりと笑った―――――。





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