DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

文字の大きさ
1 / 40
燃える町

道具屋の少年

しおりを挟む


 ─ 十年前 ─

 馬にまたがった旅団がロハリネ共和国の小さな田舎町リゾートに到着した。

 町には流浪の騎士や傭兵が出入りし、酒場や医院、宿屋などは何時いつも彼等で賑わう。

 リゾートの周辺を囲む広い草原地帯には数多くの魔物が棲みついているため、腕の立つ者に褒賞金を与え、魔物の討伐を任せていた。

 
 商店が並ぶ歩道の片隅。
 老舗しにせの道具屋に鎧をまとう二人の騎士と少年がいる。
「回復やくをくれ。十個ほど欲しいんだ」

「うん、わかった。十個だね」
 店番の少年は背後の棚から小瓶を取った。


 細かい気泡の生じる透明な飲料が瓶に詰められている。

「噂で聞いたが、ここの回復薬は効果が高いらしいな。本当なのか?」

「うん。これを見て」
 少年は棚の上に飾られた木板を指差す。騎士が目を向ける。

〈薬学者であった先代が考案した当店独自の回復薬。
 浄化草じょうかそう月桂樹げっけいじゅの葉、西洋ハーブの種子、他に数種類の素材を炭酸水と混ぜ、飲みやすく調合されてます。
 傷の治癒、滋養強壮などの効能はロハリネ保健局が承認しており、防衛部隊に毎月百個ほど納めています〉

「ほう、すごいな。保健局も認めているとは」

「おじさん達は騎士だよね。これから草原へ行くの?」

「ああ。三日ぐらい草原の森に滞在して、魔物を討伐するつもりだ」
 騎士が胸の前で拳を強く握る。

「必要な物はもっとない?道具はたくさん持ってたほうがいいと思うよ」

「食料や武器は充分にあるが、煙玉けむりだまは無かったな、一つ貰おう」

 客はポケットから金貨を出し、品物と交換する。
 荷物が入った布袋バッグを背負い、道具屋を去った。

「またのお越しを!」
 店番が騎士に告げた。

 時計を見ると午前十一時。店に客はいない。
 少年がほうきを持つ。

 傭兵や騎士達は朝に装備品を整えて戦場へ向かうため、この時間帯は店内と軒先のきさきを掃除するのが習慣だった。

「アーツ。こっちに来て、手伝ってくれ」
 店の奥で聞こえた。少年は兄の声に応じる。

 倉庫から保存食のドライブレッド、防寒着、寝袋、非常時に便利な魔物けの煙玉けむりだまなどを持ってきて、棚に陳列していった。

 道具屋は家族経営で朝の七時から夜の八時まで開いており、アーツ、兄のテック、父のジノが交代で営業している。

 今日はジノが商品の仕入れで隣町となりまちに行き、テックとアーツの二人が店番を務めていた。

 正午。
 店の裏にある自宅で昼食を食べたあと、道具屋に戻る。

 それから一時間くらい経った時、客が訪れた。

 マテリアル・ハンターのトロイだ。

 マテリアル・ハンターとは世界中を巡って武器や衣服、薬などを作る際に使う素材マテリアルを採集する旅人のことだ。

 ハンターは魔物が棲む危険な土地へ赴く場合もあり、ロハリネの護法士ごほうしとして活躍していたトロイのような実力者でなければ、この仕事は担えない。
 道具屋は貴重な薬草を彼に頼んでいた。

「やぁ!トロイ。久しぶり」 

「テック、アーツ、相変わらず元気そうだな。依頼されていた浄化草の葉とオオクロバチの蜂蜜を採ってきたぞ」

 肩に下げた鞄から素材を出すとテックに渡した。

「ありがとう。在庫の浄化草がもう無かったんだ。他に何か、珍しい素材マテリアルは見つかった?」

「ああ。貴重な鉱石とか植物を幾つか発見したよ。でもミオランデの依頼者が欲しがってた深海生物サルパは捕まえられなかった。
 海上で水棲すいせい巨獣きょじゅうに船を壊されてね・・・・」

「水棲巨獣ぅ・・・」
 アーツの顔が歪む。

「まぁでも、トロイが無事で何よりだよ。あとで旅の話を聞かせてくれ」

「もちろん。俺が泊まってる宿はいつもと同じ〈笑う子山羊こやぎ亭〉だ。一階に食堂があるから夕飯ついでに話そう」

「わかった。夜になったらアーツと行くよ」

「まただよ。兄さんは冒険とか魔物の話が好きだな・・・」
 約束をしてトロイが道具屋を出た。

 テックは幼少の頃から、マテリアル・ハンターのように世界中を駆け巡って自由に冒険をしたり、街を守る勇敢な護法士になりたいと叶わぬ夢を何度も想像した。

 魔法の技で狂暴な敵と戦う彼等は、誰もが憧れる存在だった。

 毎日の生活は平凡で退屈に思うが、創業百五十年の道具屋を継ぐことも立派である。
 テックは自分にそう言い聞かせていた。

 食料を生産する農家や家具を作る職人、服屋に花屋、町外れにある地味な骨董品を売る店だって必要なのだ。


 やがて静かに陽が傾き、地平線の下まで沈んでゆく。

 夜の七時を過ぎる頃、空は暗くなり、街路灯と半分欠けた月が道を歩く人々を照らす。

 厚い雲が草原地帯に集まる。雨が降るのだろうか・・・。

 隣町から帰宅したジノと店番を交代して、アーツとテックは笑う子山羊亭へ向かった。

 町の隅に軒を連ねる数件の宿屋。

 四階建ての宿の前で足を止めた。
 入口にぶら下がった旗にスプーンを持つ山羊の絵。歯を見せてニヤリと笑っている。

 二人が子山羊亭の扉を開く。
 一階には宿の受け付けと食堂が併設され、カウンターに黒の外套コートを装う男が一人、奥のテーブルには三人の客。
 トロイの姿は無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

豚公子の逆襲蘇生

ヤネコ
ファンタジー
肥満体の公爵令息ポルコは婚約者の裏切りを目撃し、憤死で生涯を終えるはずだった。だが、憤怒の中に燃え尽きたはずのポルコの魂は、社内政争に敗れ命を落とした男武藤の魂と混じり合う。 アニメ化も決定した超人気ロマンスファンタジー『婚約者の豚公子に虐げられていましたが隣国皇子様から溺愛されています』を舞台に、『舞台装置』と『負け犬』落伍者達の魂は、徹底した自己管理と泥塗れの知略で再点火する。 ※主人公の『原作知識』は断片的(広告バナーで見た一部分のみ)なものとなります。 己の努力と知略を武器に戦う、ハーレム・チート・聖人化無しの復讐ファンタジーです。 準備を重ねて牙を剥く、じっくり型主人公をお楽しみください。 【お知らせ】 第8話「復讐はロゴマークに寄せて」は2026/02/11 08:00公開予定です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

処理中です...