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燃える町
炎上
しおりを挟むテックが宿屋の従者に尋ねると、トロイは半時ほど前に外出したらしい。
二人は食堂の椅子に腰を下ろして友人の帰りを待つ。
突然、カウンターで酒を飲んでいた黒い外套の男が椅子を押し倒して立ち上がった。
紅潮した顔で奥のテーブルの客達に歩いてゆく。
席に着いている時は分からなかったが大柄で背が高い。
おそらく騎士か傭兵だろう。
「おい!てめぇ等!さっきから俺を睨んでやがるな・・・。よぉし、決闘だ。全員、表に出ろ!」
男がビール瓶を片手に大声を発した。どうやらかなり酔っている。
「大丈夫か?おっさん。少し頭を冷やしたほうがいいぞ」
けしかけられた三人の客は言い返す。
「なんだとぉぉ!・・・」
男は相手の胸ぐらを掴み、強く逆上した。
「お客さん方。ここで暴れんで下さいよ。喧嘩なら外に出ていただきたい」
食堂の店主は冷静な口調で注意した。
どうやら喧嘩や小競り合いに慣れているようだ。態度が平然としている。
「酒を飲んで我を忘れたか・・・騎士として失格だな」
宿屋の入口から声が聞こえた。
振り向くとそこにトロイがいる。
「うるせぇ、てめぇは誰だ!・・・そうか、この三人組の仲間か!」
酔った乱暴者は不安定な足取りでトロイに近付く。
トロイは音楽団の指揮者のように、宙で左手の指を踊らせた。
酔った男は何が起きるのかと身構える。
【安静と休眠の音色】
トロイが魔法を唱えた。
男の頭上に丸い光が現れ、鈴の形に変わり、心地の良い音色を奏で始める。
神秘的な旋律は優しく全身を包み、やがて瞼が重く感じてきた。体から力が抜けてゆく症状を覚え、腕も足も動かない。
フラフラと肩が揺れ・・・ドスン!
男は魔法によって深い眠りにつき、背後に倒れてしまった。
安らかな寝息を立てている。
トロイは男の様子を観て、翳した手を下げた。
「睡眠の術技と飲酒の相乗効果で、おそらく明日の朝まで目が覚めないだろう。店主、迷惑をかけたな」
「いえいえ、店の物が何も壊されなくて良かった。
トロイさん、感謝します。おぉい、この男を宿の部屋まで運んでくれ、二階の七号室だ」
宿屋の従者が三人がかりで大柄の男を抱え、二階へと昇っていった。
「さすがたなトロイ。僕らは何もできなかったよ・・・」
テックとアーツは友人の技に感嘆していた。
それから二人は食堂で夕食を食べながら、マテリアル・ハンターの旅の話を聞いた。
インバベル王国の都から旅に出て、珍しい薬草や果実が実る森を探検する
火山を越えて麓に茂る森林地帯を過ぎ、砂漠が広がる荒野でサボテンという貴重な植物を手に入れた。
そのあとマビアン共和国の港町に辿り着く。
蒸気船を借り、前人未到の山脈や古代遺跡が各所にある西の大陸へ。
意気揚々と船は進んだが、西と東を隔てる海峡の途中、水棲巨獣に襲われた。
尖った爪を持つ二本の長い腕が舳先から船尾に巻き付き、トロイが乗る船は抵抗する間もなく破壊された。
しかし付近を巡回していた海洋警備船に運良く救助され、港へ引き返す。
そこで旅を中断し、採集した素材を届けるため、ロハリネの都を経由してリゾートまで来たのだった。
「しっかりと準備を整えて、また旅を始めようと思う」
「本当にトロイはすごいな・・・。俺は魔物と戦うなんて出来ないよ」
テックがハンターを称賛する。アーツも同じ気持ちだ。
「アハハハッ!今回は戦ってない。船を壊されただけだ。なんとか助かって命拾いしたよ」
「すごく危険なのに、なんでハンターをしているの?怖くないの?」
アーツが聞いた。
「世界を旅するのは楽しいだけじゃない。俺も時々不安になる。
でも自分が知らない土地へ行ったり、新たな素材を見つけた時の興奮は、マテリアル・ハンターに与えられた特別な経験なんだ。
不安を忘れて、とにかく夢中になることが大切さ!」
食堂の時計が夜の八時を回った頃、テックとアーツは友人に別れと再会を告げ、笑う子山羊亭を出た。
商店が並ぶ歩道を歩く。
草原から戻った大勢の騎士が酒場や料理屋で好物を堪能し、明日の鋭気を養っている。
皆、体の何処かに包帯を巻いており、無傷な者は一人もいない。
魔物との戦いは想像以上に苛酷なのだろう・・・。
道具屋まで来た時、アーツは空に目を向けた。
流れてきた暗雲に月が覆われる。
リゾートの周辺に広がる草原。
山間から闇の疾風が吹き抜けて草花を揺らす。
数十体の馬が町に襲来した。黒衣を纏う 男達が鞍に跨がっている。
速度を緩めず正面の門を駆け抜けてゆく。
謎の集団は町中に拡散して、肩に掛けたベルトから細い鉄瓶を掴んで投げ放つ。
地面に触れた途端、激しい爆発を起こした。各所で爆発が続く。
カラン!カラン!カラァァァン!!
町の入口に建てられた物見櫓の鐘を夜警が鳴らす。
保安官や宿屋で休んでいた傭兵達が集まってきた。
襲撃の炎は波と化して民家を襲い、熱が地面を這い進む。
大通りや狭い小路の隅々を巡り、リゾートの全域に引火してゆく。
「何事だ!?・・・」
道具屋からジノが出てきた。
「町の西側は炎がまだ届いていない。急いで避難を!」
騎士が戸惑う住民達に告げる。
「大事な我が家と先祖代々継ぐ道具屋を壊されてたまるか!私は戦うぞ、テック、アーツ、お前達は早く逃げなさい!」
「ここは危険だ!早く町の西側へ逃げよう!」
テックが荒い言葉遣いで説得した。
決心の固いジノは店内に置かれた猟銃を取り、戦う意志を示し続ける。
脇道から現れた騎馬。教会へ向かってゆく。
「地下に例の箱があるはずだ・・・」
小さな町は燃え盛り、建物が赤く染まって闇夜に浮かぶ。
火炎で囲まれた住民達は逃げ場を失った。
「暗黒の満月」
黒衣の男が告げる。突如、空中に巨大な漆黒の球体が生じた。
邪悪な月が堕ちる。最後の爆発が尊き命を滅ぼした。
「父さんっ!兄さぁぁぁん!・・・・・」
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