DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

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燃える町

決意

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 灰色の夜明け。
 濁った太陽がリゾートを温める。

 都から派遣された護法士の特使団が到着した。

 積み重なる残骸が路面を埋め尽くす驚愕の状況。
 隣町から訪れた保安官達と共に生存者の捜索を行う。

「エクリー将閤しょうこう!」

 道の前方から護法士が担架を運んできた。
 幼い少年を乗せている。
 衣服は土砂とすすで汚れ、意識はないようだ。

「生存者です。怪我をしていますが重篤じゅうとくではありません。
 町の外に設置した医療用テントで応急処置を施したあと、都の医院へ搬送します」

 エクリーは少年の異質な外見に気付いた。全身が薄く銀色に輝いている。

「これは・・・肢体硬化スティルリンクか?」

 捜索活動は継続し、一人でも多くの生存者を救おうと懸命に探し回る。

 町から逃げ遅れた人々の中で命を取り留めた者は、少年と数名の傭兵だけであった・・・。


 四日後。
 護法士協会の静養棟を歩くエクリー。
 例の少年が目を覚ましたと、昨日の晩に連絡を受けたのだ。

「彼の名はソルボーン・アーツ。リゾートで家業の道具屋を手伝っていたようです。
 怪我は軽症でしたので回復しています」
 横を歩く医師が説明した。

「ソルボーン・アーツ・・・」
 エクリーが小声で呟く。

 静養棟の一室に入ると少年は寝台ベッドに座り、窓の外を眺めていた。

「初めましてアーツ君。私は護法士将閤エクリー。体調の方はどうかな?」

「・・・平気、どこも痛くない」

「そうか。怪我が治って安心したよ」
 エクリーは出来うる限りの優しい物腰で言った。

 会話が途切れたあと、エクリーは重たい口を開く。
「事件のことは聞きたくないだろうが、私には伝える義務があるから話す・・・。
 リゾートを襲った集団は〈血染めの闇同盟レッド・ファミリア〉。大陸を放浪する謎の組織だ。
 被害は町全体に及び、生存者は数名。君の家族は残念だが・・・」

 アーツの悲しげな目がまた窓の外に向く。

「あの惨事で君は無事だった・・・。おそらく無意識に肢体硬化スティルリンク術技じゅつぎを発導し、自分の身を守ったのだ」

「まさかっ・・・。彼は魔法力が発揮できる年齢に達していません」
 医師は驚き、エクリーの意見を否定した。

「現実は我々の想定を越えてゆく。魔法力の神秘に常識など通用しない」

「もしかすると、邪気が彼に憑依ひょういしているのでは?」

 邪気とは魔物から生じる活力エネルギーの集合体。
 動物や植物にく性質を持ち、確率はとても低いが人間に憑依する場合もあった。

 過去から現在まで約三百年の記録によれば、二十歳に満たない者が邪気で呪われたという事例は皆無だ。

 医師がアーツを診る。
 瞳の光彩や瞳孔は異常が最初に表面化する部分である。

 他に髪や爪が早く伸びたり、夢遊病のように自覚なく行動するなどの症状が起きる。
 しかしアーツにそんな事は無かった。

「まだ幼い彼が術技を行使できるのは、非常に強大な魔法力が潜在しているからだろう・・・。
 色水レベルを持ってきてくれ。力量を測りたい」

 ワイングラスと似た形状の大きなうつわが用意された。

 内部に透明な水が入っている。
 アーツはエクリーに促され、掌で水の表面を軽く撫でた。
 熱くも冷たくもない。

 水面に波紋が広がって円を描く。

 水の色が青になった。器の水は魔法力の強さにより色が変わる。

 世間一般の人が触れても透明なままだが、高い魔法力を持つ者が触れると力の強弱に応じて、様々な色に染まる。

 水面は波打ち、青い色彩が絵の具のように溶けてゆく。

 やがて濃度を低下させ、緑に変色したあと黄色へ変わった。

 そして最後には金色こんじきの輝きを映す。

 エクリーと医師は器から発する光を真剣に見つめていた。

 色水レベルが黄金に煌めくのは魔法力が強大で、あらゆる属性の術技に対応した資質を表すのだ。

 護法士の最高階位〈賢正けんせい〉が映す色である。
 エクリーは考えていた提案をアーツに話した。

「唐突な申し出だが、君を術技院じゅつぎいんに招きたい。ロハリネの護法士協会は常に優れた逸材を求めているのだ。
 魔法力は使い方によって善にも悪にもなる。君には正しき護法の技を身につけてほしい」

「術技院?」

「護法士を育成する学校だ。術技の訓練が主な課題で、数学や歴史などの教科も学習する。
 国家の重要な機関であり、厳しい資格選定に合格しなければ入学できない。
 だが君の類稀たぐいまれなる潜在能力と将来性は資格を充分に満たしていると、私が人事局に推薦しよう。
 術技院で魔法の技を学ぶのだ」

「僕は強くなれるの?・・・。悪いヤツを倒せるの?・・・」
 涙でうるんだ瞳がエクリーに向く。

「飽く無き鍛練を積めば、如何いかなる敵をも凌駕りょうができよう」

 アーツは誰にも言わなかったが、一年ほど前から小さな炎や風を操れた。

 その力についての興味や上達したいという願望、父と兄をあやめた憎いかたきに対する復讐心。

 同年代の子供達と同様に、人並みの生活を送るほうが楽であろう。

 しかし危険な役目を担う〈護衛魔法騎士〉になることが自分の運命だと、アーツは決意したのだった・・・。

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