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闇深き動乱
天下の番人
しおりを挟む日差しに照らされた海を木造の短艇が前進する。
発動機や推進装置の無い小さな船にもかかわらず、白波を航跡に残して目的地へ向かう。
船には青いマントを纏う黒髪の青年。
颯爽と立ち上がり、マントを翻して振り返る。
右手を翳すと微かな声で唱えた。
【 聖なる風の加護 】
シュッ・・シュルルルゥ・・・。
掌に集まった空気の渦が船尾に飛んで着水する。
水面が沸騰したように騒ぐ。
空気が強く弾け、反動で船の速度は倍増した。
水飛沫を周囲に放ちながら波に逆らって進む。
しばらくすると島が見えた。
一年を通じて気候が温暖なこの海域には十五の島が点在し、浅瀬は瑠璃色に澄んでいて、楽園のような環境である。
しかし幾つもの岩礁と見えない暗礁が海中に隠れているため、交易品を運ぶ貨物船や漁を行う漁船は航行を避けていた。
島の入江に大型の蒸気船が三艘。
船体に陥没や亀裂などの損傷があり、厚い鉄板で補強されている。
側面には四台の大砲。
一艘の蒸気船の煙突から煙が上がった。
動き出した戦艦と木造の小舟の距離が近づいてゆく。
もしも二つが衝突したら、小さい方は容易く壊されてしまうだろう。
急に小舟が停止した。
蒸気船も真横で止まる。
甲板には二十人ほどの男が乗っており、腰に短剣、肩に長銃を抱えていた。
奴等は凡そ五十人の傍若無人な悪漢で組織された海賊。
遠洋を通過する貨物船などを襲撃している。
海賊達が蒸気船の縁に集い、小舟を覗く。
「ん?あの小せえ船はなんだぁ。乗ってる奴は、知らねぇ顔だな・・・」
「港街の漁師か?・・いや違うな、なんの道具も持ってねぇぞ」
「おい、てめぇ!ここは俺達の島だ!
命が惜しかったら今すぐに帰りやがれ!」
そう言うと長銃を手に取り、謎の男に向けて構えた。
銃口から火花と弾丸が発射される。
「早く逃げねぇと弾が当たっちまうぜ!」
「ワハハハハ!・・・」
水面を鉄の弾丸が何度も抉る。
しかし男は威嚇射撃に全く動じない。
弾丸の一つが船底に穴を開け、海水が入り込んできた。
瞬く間に水の量は増してゆく。
数秒後に船が沈み、海の中へ水没してしまった。
海賊達は眼下の異様な状況に目を見開いて驚く。
船は沈んだが、乗っていた男は波打つ水面で直立しているのだ。
「なんだありゃ!?海の上に立ってやがる・・・」
直後、男が空に浮かんだ。
蒸気船の柵を越え、海賊の前にそっと降りる。
「あの印・・・こいつは護法士だ!」
海賊が叫ぶ。
謎の男が身に付けた上着に剣と盾を組み合わせた紋章。
護法士のシンボルマークだ。
彼らは魔法の技〈術技〉を使い、反社会的組織や他国の侵略などから人々を護る存在。
神秘的で摩訶不思議な力〈万有魔法力〉は強弱こそあれ、誰もが体内に有し、高い潜在能力と厳しい訓練の相互作用により、自らの意思で操ることができる。
魔法力が多大に潜在する者は圧倒的な術技を発導して、積み重ねた厚い鋼鉄さえも破壊するという。
その力を我がままな悪しき行いに使う者が魔術師。
正しき行いに使う者が護衛魔法騎士、通称〈護法士〉である。
蒸気船の船尾にいた海賊が真っ赤な旗を手に取った。
急いで島に向けて振り回す。
赤の旗は緊急事態を示している。
岸にいた海賊が警告を見て、仲間に報せようと駆けてゆく。
蒸気船の甲板。
二十人の海賊が敵を半円状に包囲した。
「この船には乗っていないか・・・」
護法士は悪漢共を端から確認して呟く・・・。
「気をつけろ!奇妙な魔法とか呪文を使うって噂だ」
「ってか・・、こいつは本物の護法士なのか?たった一人でこんな所に来るか?」
「ひ、引き返したほうがいい、ここなら島まで泳いでいけるぜ」
「落ち着け!相手は一人だ。恐れることはねぇ。全員で射撃すりゃいいんだ。蜂の巣にしてやれ!」
護法士は術技を発導した。
【 肢体鋼化 】
その時、銃声が響く。
続けて何十発もの弾丸が襲いかかった。
金属と金属が衝突したような甲高い音が鳴り、全ての銃弾は粉々に砕けた。
弾は護法士の体に命中したが一切の傷はない。
全身が少しだけ銀色の光を帯びている。
「なにぃ!?・・・どうなってんだ?銃が効かねぇ」
海賊達は困惑した表情で互いの顔を見合せた。
そしてまた敵を窺う。
術技の効果で骨身が鋼鉄に変化し、内在する魔法力の高さに基づき、硬度が増す。
銃弾であれ、剣であれ、爆薬であれ、傷を与えることはできない。
「やっぱり、敵わねぇ・・・」
「怖気づくな!撃て、撃てぇ━━━」
無謀にも再び銃を構える。
護法士は海賊に右腕を翳す。
【 戒めの棘雷 】
詠唱と同時に掌が閃き、ビリビリと唸る。
甲板の群集に雷の棘が突き刺さり、舞い散る床の破片と鈍い叫び声が周辺を独占した。
海賊達は銃を落とし、一人残らず崩れるように倒れた。
体を動かそうとするが無駄な試みであった。
「術技の威力は低く抑えた。手足の痺れは時間が経てば治るだろう・・・」
護法士は眼下で平伏す海賊に告げたあと、〈飛空〉の術技を発導した。
足下からか風が吹き、次第に大きな二つの翼に形を変えて背中に付随する。
見えない風の翼が空を飛ぶ力を与え、気球のように上昇した。
視線を後方に移す。
三百メートルほど先に海賊が拠点にしている広い島があり、そこまで飛行していった。
島の真上に近づき、沿岸へ降り立つ。
小高い丘の中腹に古い城。
かつてこの海域を支配した王族が島の領有権を示す目的で建てた城だが、現在は海賊の住み処となっていた。
草花が生い茂る雑木林の道を進み、丘の上まで階段を登る。
城の正面に辿り着いた。
蒸気船から連絡で海賊達は敵の動向を警戒している。
城の内部や高台、木々の陰などに潜み、護法士の命を狙う。
時おり吹く風で木の葉が揺れ、涼やかな音を奏でる。
ここが普通の島ならば癒しをもたらす自然の効果音だが、今は危険を示すサイレンに聞こえる・・・。
次の瞬間、数百発の銃弾が降り止まぬ豪雨の如く浴びせかけられた。
先ほどと同じく、的に当たった弾丸は粉々に砕ける。
四方八方から飛び交う銃弾の真っ只中で護法士は平然としていた。
流れ弾が地面を掠め、樹木を削ぐ。
なおも狙撃の嵐が続いたあと、何事も無かったかのように静けさを取り戻した。
漂流する砂塵が視界を覆う・・・。
護法士は強い魔法力の気配を察知して城の最上階を見上げた。
数人の海賊が屋根の張り出した場所から、こちらを見ている。
集団の中央に長い白髭の男。
海賊の首領ラウ・ハンジョウだ。
怪傑という異名で呼ばれ、魔術を体得している。
上半身の腕や腹筋が分厚く、背中には絡み合う二匹の大蛇が描かれた奇妙な刺青。
「ほう・・・肢体鋼化の術技か。相当な実力者のようだな」
ハンジョウは太い腕を組んで護法士を視察する。
「首領。あの護法士には唯ならぬ魔法力を感じます。どういたしましょう・・・戦いますか?それとも退避しますか?」
隣にいる細身の男が聞いた。
「退避などありえん。たった一人の敵から逃げては我輩の名が廃る。
何処へ行こうと隠れようと護法士は追ってくるだろう。
いずれ戦う運命なのだ。此処で決着をつける。
フォグニー、ウロサ、ルビオ、四人で奴を討つぞ」
ウロサとルビオは腰に刀を携え、フォグニーは片手に魔術の杖。
ハンジョウが跳び上がり、敵に向かってゆく。後に従い、三人も跳んだ。
護法士の前に着地する。
沈黙が些か、その場を包む・・・。
「貴様、かなり位の高い護法士と見える」
ハンジョウが荒い口調で問う。
「私はロハリネ共和国の護法士、ソルボーン・アーツ」
「!!」
「アーツだと・・・」
フォグニーは眉間を強張らせた。ウロサも驚いている。
「噂に聞く例の賢正か・・・。世間では天下の番人と喩えられているが、その実力はどれほどのモノか・・・」
ハンジョウが敵を睨みながら呟いた。
護法士の階級は五つある。
【賢正】
[将閤]
「大尉」
「次範」
「序名」
最高位の賢正はあらゆる属性の術技を習得し、比類無き威力を持つ。
ロハリネに所属する護法士および防衛部隊の長だ。
アーツの右手には歴代の賢正が受け継ぐ、赤と黄金の指環が填められていた。
「お前が〈血染めの闇同盟〉の幹部、ラウ・ハンジョウだな」
アーツが問う。
「いかにも」
海賊が答える。
「他の幹部は何処にいる?。サタナエル、ジュガラ、ブラッドモア、セプトゥー」
「知らん。奴等とはしばらく会っていない」
「では質問を変えよう。ロハリネのリゾートを覚えているか?十年前に破壊された町だ」
「それも知らんな。と言うより忘れた。町を襲撃したことなど数え切れぬほどあるからな。フッフッフッ」
「やはり、お前が・・・」
アーツの言葉が途切れ、気迫が増す。
「護法師になって十年、ようやく復讐が果たせる。覚悟しろ」
「我に挑む者は誰であろうと叩き潰す!赤く染めてやる、リゾートで眠る貴様の家族と同じ赤に!」
ハンジョウが怒りの表情で恫喝した。
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