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闇深き動乱
攻防
しおりを挟む海賊の四人が敵に迫る。
ウロサは刀の柄を両手で掴むと鞘から抜いて垂直に掲げた。
魔法力が宿る妖刀が紫紺に輝く。
振り下ろされた刀。刃から斬撃の波動が生じた。
空間を切り裂き、アーツを襲う。
フォグニーは杖を左右に動かして狙いを定める。
先端が赤く揺らめいて火球が飛んだ。
護法士は右腕を伸ばす。
【 前方防御障壁 】
掌の中心から出現した薄い光の板。
瞬時に広がり、アーツの前面を覆った。
斬撃と防御障壁が攻め合う。
そこにフォグニーが放った火球も加わる。
攻撃の圧力は増したが障壁は寸分さえ動じない。
やがて斬撃と火球は眩しく閃き、弾けながら消えた。
「!!・・・」
アーツの頭上。
ハンジョウが降下して握りしめた堅い拳を突いた。
直撃する間際、素早く跳ねて逃れる。
殺気に満ちた拳は地面を深く抉り、空中に土煙が噴き上がった。
砂や小石が周辺を漂う。
茶色の靄の中で交わる護法士と海賊の視線。
アーツは瞳に闘志を滾らせ、反撃に転じた。
地面を蹴って跳躍するとフォグニーの眼前に近づく。
【 高速転移 】
フォグニーが魔術で存在を消す。
高速転移は瞬間的に移動できるが有効範囲は限られている。
アーツは微細な気配の足跡を追う。
敵が後方に現れた途端、猛然と接近した。
フォグニーは咄嗟に所持する杖を正面に掲げて防御の姿勢で身を守る。
アーツの片脚が杖を真っ二つに割り、腹部を打つ。
魔術師は気絶したまま背後に生い茂る雑木林まで飛ばされた。
「うおおおおぉぉ!!」
戦場に鳴るウロサの咆哮。
青い光沢を放つ妖刀を護法士へ向けた。
刃の輪郭が曖昧になり、持ち主と同じ大きさと化す。
魔力が解放されて研ぎ澄んだ刀を全力で薙ぐ。
空間を横切る斬撃。
大地に傷痕をつけ、何度も妖刀が縦横に弧を描く。
常人には対処できない俊敏な速さだ。
しかしアーツは太刀筋を見極めて軽々と避ける。
護法士の手に光が集う。
【 神託の光矢 】
長い光の矢がウロサの刀と胸部を貫いた。
破砕された青い刃の輝く残骸が舞い落ちてゆく・・・。
攻撃を受けたウロサは体から白煙を燻らせ、受け身も取らずに後ろに倒れた。
ウロサとフォグニーの傍へルビオが走る。
護法士に敵わないと悟ったのだろう、敗北した同胞を連れて城の中に退いた。
戦場に立つ二人。
怪傑ハンジョウと護法士アーツ。
「想像以上の魔法力だ・・・。フフフッ、敵として申し分ない。
これほど戦意が高揚するのは久しいぞ。
命を賭けた戦いの最後に生き残るのは、どちらか一人だ・・・」
ハンジョウは両足を広げ、地面を踏みしめた。
意識が背中に集中する。
背中の刺青には二匹の大蛇と呪いの記号。
それは怒りや憎しみの感情を興起させ、体内に潜む力を引き出す魔術印だ。
魔法力が湯気のようにハンジョウの肉体を包む。
皮膚は灰色を帯び、隆々と鍛えた上半身の筋肉は更に質量を増した・・・。
アーツは敵の襲撃を警戒して身構える。
目の前にハンジョウが迫っていた。
邪悪な力で満ちた拳が胴体を殴る。
肢体鋼化の術技によって怪我は無いが、軽い痛みを感じるほど強烈な打撃だ。
時を移さずハンジョウは突進してゆく。
腰を捻り、豪快に右脚を廻した。
護法士は体を屈め、回し蹴りを紙一重で避ける。
怪傑の脚が空振りして横へ体が流れた。
その隙にアーツは〈神託の光矢〉を撃つ。
ハンジョウに命中して白煙を纏って地面へ落ちる・・・。
ドスン!、と重く鈍い音が戦場に轟いた。
アーツは敵が起き上がる前にもう一撃を与えようと攻勢に出る。
ハンジョウは体を回転させて大きく飛び跳ね、空中で渾身の力を腕に集めた。
細かい闇の粒子が体表から溢れ、複数の波に変わりながら腕に絡みつく。
最大限まで魔力が高まった・・・
【 風刃乱舞 】
鋭いナイフのような半円状の風が何度も連射された。
吹き荒れる狂乱の暴風。
無秩序に拡散し、周囲に根づく雑木林を切断する。
アーツは軽快な動きで躱すが腕や肩を嵐の刃が斬りつけた。
木の葉と砂塵が宙に舞う・・・。
斬撃を全て避けることはできない。
護法士は炎の術技でハンジョウに応戦した。
【 炎業砲!! 】
凄まじい灼熱の奔流。
炎と風の二つの業は距離を保って凌ぎを削る。
暴風が戦場を走り抜けた。
怪傑は盛大な怒声を発して力を掌に集めた。
衝撃波が吹き荒れる。
「ぐおおおぉぉぉ!!・・・」
炎の威力が魔性の風を押さえ込む。
灰色の巨体は業火で焙られてゆく。
背中の刺青が無くなり、ハンジョウは魔法力を消失した。
淀んだ煙を全身から放ち、力尽きて荒れ地へと落下する。
頭部から膝の辺りまで火傷を負った怪傑。
仰向けに倒れたまま、再び起き上がる気配はない・・・。
アーツがハンジョウへ近寄る。
それに気付き、眼を瞑った状態で声を発した。
「・・・亡き家族の復讐を果たし、倒れた我にざまぁみろと叫びたいか?」
アーツの返答はない。
「敗北は死、血染めの闇同盟の掟だ。見届けろ、これが怪傑の最後!」
ハンジョウは右手に魔法力を集め、雷を自らの心臓に押し当てる。
深い雷鳴が近辺に伝う。
口から黒煙が溢れ、脈動は完全に停止した・・・。
「まさかっ、フォグニーとウロサに続いて、首領も。あの護法士、本気でやばい奴だ」
「逃げるぞ!早く船に乗れぇ━━━」
海賊達は狼狽して、蒸気船が錨を降ろす入江に無我夢中で駆ける。
遠洋から大型の船が警告音を鳴らして慎重に進んできた。
ロハリネ共和国の旗が舳先で靡いている。
入江に接岸し、十人ほどの護法士が甲板から跳ぶ。
島に上陸した。
海賊は戦おうと銃を構える。
銃口が火を噴く前に護法士の術技が発導された。
【 鎮守の捕縛 】
罪人達の足下に銀の輪が光り、内部に点灯した星形の記号。
輪が腹部まで浮かび上がる。
急に幅が縮んで腕と胴体を縛りつけた。
その場に立ち尽くすしかない。
諦めの悪い男達はどれほど激しく叩いても壊せない頑丈な魔法の枷を振りほどこうと、手や肩を必死に動かして足掻く。
だが抵抗も虚しく、体勢を崩して地面に転ぶだけだった・・・。
「賢正、書報に連絡が届きました。
只今、議会堂にて緊急の護衛協議が開かれております。
サウスフェリー平原にエレファントゴブリンの群れが侵入したようなのです」
護法士の一人がアーツに小さな冊子を渡した。
書報とは紙面に書いた文字が別の書報に転送される道具で、情報の伝達手段として常に携帯している。
「エレファントゴブリン?あの臆病な魔物が縄張りを出ることなど滅多にないが・・・妙だな」
腑に落ちない表情でアーツが呟く。
「先に首都へブリーゲンに戻ります。ここにいる指名手配の海賊達を全員、移送してください」
「はい、滞りなく任務にあたります」
部下の返事を聞いたあと、アーツは風の術技で浮遊し、ブリーゲンへ飛んでいった・・・。
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