DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

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闇深き動乱

謁見

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 教会の尖塔せんとうで輝く鐘が正午の時刻を告げた。
 ムンゾ皇国の都キルドナンに流れる優雅な音色。

 東側の旧市街地には古い建物が数多く建ち、西側の新市街地には集合住宅や商店などがある。
 
 旧市街地の奥に白亜の城。国皇の宮廷だ。
 高い城壁が敷地を囲み、衛兵が周辺を警備している。

 四階の屋上。
 廊下と繋がった扉の前に槍と銃を持つ衛兵が二人いて、その一方が空を見上げた。

「!!・・」 
 素性の知らぬ誰かが接近してくる。

 屋上付近で勢いが弱まり、柔らかく降りた。
 正面にある扉へ歩く。

「貴様っ、何者!?。それ以上、近づくな!」
 衛兵が不審者に槍を向けた。
 
 よく視ると上着の胸部にノースキャトル公国の紋章。

「驚かせてしまい、申し訳ありません。私は護法士のセロナ。
 ロハリネ共和国との戦争の件で、ベルトーメ陛下に謁見を願いたいのです」
 
 衛兵がセロナを窺う。
 言葉使いは丁寧だが、こちらを威圧するような雰囲気を感じるのは、気のせいだろうか・・・。

「謁見はできません。宮廷には誰も入れてはならぬと、固く命じられております。
 どうか自国へお戻りください」

 護法士の行く手を阻むように、二つの槍を交差させた。

「命令には背けない。それは国皇の居城を守る者として当然ですね・・・」
 
 セロナがフッと溜息を吐いた。

「粗っぽい手段は選びたくないのですが・・・。あなた達が拒むなら、私が自らの手で扉を開けます」
 
 互いの関係に亀裂が生じる。

 護法士の態度の変化を察した衛兵達は武器をかざし、相手から目を離さない。
 
 セロナが〈鎮守の捕縛リストレント〉を発導する。

 衛兵の体を光の輪が包囲し、瞬く間に腕と胴体を結ぶ。
 槍が手から離れて床に落ちた。

 ジタバタと足掻あがく衛兵達の間をセロナが通り、両開きの扉を開ける。

 城の中へ入ろうとした時、屋上にクレイグが舞い降りた。

 コルノス荒野の戦いを終え、キルドナンまで移動してきたのだ。
 魔法の輪に捕まった衛兵達を見る。

「どうやら、合議ごうぎは決裂したようだな・・・」

「彼らの主張に従い、ムンゾを去ることはできません。ベルトーメ公に会わなくては」

「アーツはまだ来ていないが、一刻も早いほうがいい、我々で戦争の即時停止を申し立てよう」
 
 二人は宮廷の廊下を進む。

 城内は複雑な構造をしており、クレイグとセロナは同じ場所を何度も往復した。

 騒ぎを聞きつけた衛兵が集まった。

 屋上で光のかせに捕らわれた仲間の姿と護法士の迫力にさいなまれ、歩みを止めようとする者はいない。

 廊下の奥の扉が開き、背広姿せびろすがたの男が二人の元に来た。
 
 それは国皇の補佐官を務めるラミノとい人物だった。

「護法士のお二方。ただいま戒厳令により、宮廷の者以外は出入りを禁じられています。
 屋上で警備していた衛兵が伝えたはずですが・・・」

「はい。非常に無礼な振る舞いだと自覚しています。
 早急にベルトーメ陛下と話し合いたく、赴きました。
 ロハリネとの戦争の件です。陛下がいらっしゃる部屋まで案内してもらえませんか?」

 補佐官はセロナの覚悟に満ちた目を見て、要求を断れなかった。

 たとえ断ったとしても、探し歩けば君主をいずれ見つけるだろう。

「分かりました。こちらです・・・」
 
 ラミノが先に歩き、やや距離を空けて護法士の二人が追てゆく。
 
 階段を上がり、壁に沿って造られた通路を進む。
 
 廊下を中ほどまで行くと、扉の前で案内人が止まった。
 ノックする。内側から返答はない。

「失礼いたします・・・」

 補佐官は小声でささやいたあと、扉を開けて入口の脇に控えた。
 
 訪問者の二人が広間に入る。

 薄暗い室内の中央には横長のテーブルと十脚ほどの椅子。

 大きな飾り窓は厚いカーテンで覆われ、光を遮断していた。
 
 上座に人影が見える。
 ムンゾの国皇ベルトーメ七世だ。
 黒い長衣ローブを装い、背凭せもたれの高い豪奢ごうしゃな椅子にひっそりと座っている。

 護法士の二人はテーブルの傍へ歩み寄る。
 背後で扉が閉じた。

 うつむいていたベルトーメの顔が少しだけ上向く。
 クレイグとセロナに怪しげな視線を送った。

「・・・誰だ、お前達は?」
 愛想のない陰険な声は弱く震え、聞き取りにくい。

「私はミオランデ王国のクレイグ。隣はノースキャトル公国のセロナです。
 陛下、唐突ですがロハリネの各地に派遣した兵団を撤収し、この醜い戦争をお止めください。
 争う理由は双方ともにありません」

「余の命を奪おうと企む者がいる・・・。それはいままわしき隣国の野蛮な民。
 奴等を抹殺するまで、闘争は続くのだ」

「貴殿の命を狙う者など、どの国にもおりません。なぜそのような妄想を・・・」
 セロナが問う。

「偽りのごとで騙そうとしても無駄だ・・・。
 そうか、お前達は余を暗殺するために送りこまれた刺客なのだな!憎らしい・・・。
 我がムンゾ皇国から直ちに去れ、二度と現れるな」

 ベルトーメの両眼が闇に潜む魔物のように赤く光った。

「彼は普通の状態ではない・・・。何かにかれ、憎しみや怒りが増幅ぞうふくしているようだ。
 体の芯から魔力の気配が溢れている」
 
 クレイグの考察にセロナが同意して一歩前に出る。

「了解を得るまで幾度も献言けんげんします。
 ロハリネに派遣した兵団を退き、戦争を終わらせて下さい」

「止せ。おそらく何をさとしても聞き入れてはくれん」

「うるさい、黙れ!おぞましい悪魔の如き連中め・・・。
 命じた指示に従わぬならば、余が自力で排除する!・・・」
 
国皇は狂乱の血相で立ち上がると腕を突き出す。
 
 次の瞬間、掌から猛烈な雷撃がほとばしり、護法士を強襲した。

 クレイグは〈防御障壁ぼうぎょしょうへき〉を発導し、いかずちが光の壁と衝突する。

 白煙が揺らめき、次第に晴れてゆく・・・。

 ベルトーメは軽く跳ね、テーブルの上に乗った。
 再び雷撃を放つ。

 クレイグとセロナはそれぞれ左右に転じて回避した。
 さらに閃光が襲ってくる。

 クレイグは攻撃を阻止しようと、ベルトーメに素早く接近して手首を掴む。

「離せ!・・・お前達こそ、悪の元凶。滅ぼしてやる!」

 尚も護法士に敵意を示し、手首を持つクレイグの腕を両手で掴み返す。
 横へ放り投げた。

 広間の側壁に背中から激しくぶつかり、壁に円状のひびが生じた。

 ベルトーメは刺客達を睨みながら肩に手を掛け、黒い長衣ローブの上半身を粗末に引きちぎった。

 体は痩せていて腕や腹部にほとんど筋肉がない。
 全身が生気せいきを失ったような白色。
 
 胸の中心に岩石に似た紫の物質があり、拳ほどの大きさで角度により赤や青、黄色など様々な色彩に煌めいて見えた。

 セロナはその物質から漏れる闇の力を感じ取り、狂った敵意をもたらす魔石だと理解した。
 
 ベルトーメの精神と肉体を変えてしまった原因に違いない・・・。

「なぜ、あんな物が体に?」
 クレイグは困惑している。

「分かりません。とにかく、あの魔石を破壊したら、以前の穏やかな精神を取り戻すと思います」

「ぐおおおぉぉぉ!・・・」
 ベルトーメがれた声でえた。

 高まる魔力。体内から衝撃波を放散した。
 目の前のテーブルと椅子が壊され、大小の破片が室内を汚す。

 天井に吊るされた美しいシャンデリアは大きく振幅したあと、鎖が切れて床に落ち、粉々に砕けた。
 
 正面と左右の壁を覆う長い幕がなびき、その裏にある飾り窓が全て外側に割れる。
 
 ガラスのくずは光を反射させ、地上に降ってゆく。

 憤慨したムンゾの王はセロナに迫る。
 
 両腕を交差して拳の強打を受け止めた。
 ベルトーメが片足を振り廻す。

 護法士の胴体を蹴り、広間の隅まで圧し飛ばした。
 セロナは体を回転させ、起き上がる。

 クレイグが剣を手に攻めかかった。
 攻撃の狙いは敵の胸部で妖しく光る魔石。
 剣が空間を縦断する。

 ベルトーメは片手で弾き返した。
 護法士が連続で刃を対角にぐ。

 魔石に損傷を与えられなかったが、ベルトーメは斬撃を受けて退いた。
 そこから腕を伸ばし、甚大な雷を射る。

 クレイグは剣を前方に突き出し、刀身の切先きっさきから風の波動を撃つ。

 両者の間で魔法の技が前後に押し合う。
 その横にいたセロナも術技を発導した。
 
【 極閃光ライトホープ 】
 手に光が帯び、回転を増した光源は竜巻に変わって直進する。

 強烈な攻撃が敵の肢体を削って後ろへ流す。

 広間の側壁に衝突して分厚い壁を破り、ベルトーメは宮廷の最上階から瓦礫と共に地面に落ちていった・・・。

 壁に空いた巨大な穴。
 護法士達はふちまで移動して真下を覗く。
 
 怒りに染まるムンゾの国皇は無言のまま、仰向けで倒れていた。

 セロナが空中を舞う人物に気付く。
 
 風でマントをなびかせ、アーツが飛翔してきた。
 壁の穴から室内に入り、二人の傍へ降り立つ。
 
 壊れたテーブルや逆さまに転がった椅子、散らばるシャンデリアの輝く破片。
 無惨に乱れた広間を見回す。

 クレイグがこれまでの経緯を説明した。
 アーツは大地で横たわるベルトーメに視線を向ける。

「そうか・・・。魔石の影響で精神が憎しみや怒りに支配されていると。
 しかし、なぜ魔石が体に?誰がこんな事を・・・」

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