DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

文字の大きさ
34 / 40
破魔の護法士

指環

しおりを挟む
『・・・ソル・ボーン・・・アーツ・・・』
 幻想的な夢の中で誰が呼ぶ。

『閉じた眼を開き、立ち上がれ。ソルボーン・アーツ・・・』

 言葉が体と心に反響する。

 暗闇はゆっくりと縦に広がり、視界が鮮明な光で満たされた。 

 青空と純白の雲。

 両眼を解放したアーツは仰向けに寝たまま、しばらくその光景を見つめた。

 上半身を起こす。
 円形の島が雲で囲まれ、内側から大粒の水滴が幾つも空へ舞い上がっている。

 まばらな雑草が生えた大地。
 正面にそびえる小高い山の火口で蒸気が沸いていた。

 記憶では魔塊との戦いで敗れ、体が焼失したはずなのだが・・・。

 まさか天国?

 アーツは指や腕を動かして感覚を確かめる。いつもと変わらず正常だった。
 右手の指環が赤く輝いている。

 島を見渡す。
 過去に訪れた覚えはない。ここは何処どこなのか・・・。

 蒸気を吹く正面の山が気になり、立って歩き始める。

 距離はおよそ百メートル。
 真っ直ぐに進んでゆく。

 山のふもとまで着いた時、何かが大地の下層で流動した。

 アーツは魔力の気配を感じ、咄嗟とっさに身構えた。

 山の火口から閃光が天へ昇る。

 光の柱は旋回しながら輪廓を整え、全身が白銀の人物に形作られた。

 黄金の装飾品を頭上や首元に装い、神妙な風で長衣ローブが旗めいている。

『警戒を解かれよ・・・。私は守護の使命を果たす者とこころざしを分かち合う』

 白銀の人物に敵意がないと知り、アーツの固く握られた拳から力が抜けた。

「あなたは、何者?・・・」

『我が名はフィラン・ヨセフ。汝と同じく、かつてロハリネの護法士であった。
 現在いまは幻の身柄と重要な伝承だけを、この冥遠幻土エベレストのこしている・・・』

冥遠幻土エべレスト?・・・」

『地図には載らぬ幻の島だ。現世と異界の間、生と死の岐路とも云う・・・。
 アーツよ、汝は指環の力によって此処ここに転移したのだ・・・。
 ロハリネの賢正が持つ指環には、そなえた者を幻土へ移す魔法と破魔の武力が有る・・・』

 アーツは今の状況や初めて聞く言葉を理解しようと努めた。

『歴史は惨禍を繰り返す。災封具さいほうぐに閉じた邪気がいずれ蘇るだろうと、過去の護法士達は予期し、指環を造成した。
 我ら歴代の賢正が捧げた魔法力、身体能力と耐魔強度を高める〈守護精霊の魂〉、永久に燃え続く〈太陽の欠片〉が融合されている』

 指環の真相に驚くアーツ。再度、右手を見た。

『魔塊が地上を破壊と死でむしばむ時、破魔の武力は継承者に与えられる・・・。
 汝が絶大な力を受け継ぐ護法士に相応ふさわしいか、心と技を証明せよ。
 まずは眼前に創出された試練の突破・・・』

 落雷のような一閃が幻土の地面を色付け、巨大な防御障壁が建つ。

 壊すことはできないとひるむほど厚い。
 金銀の粒子が半透明の壁の内部で浮遊している。

 アーツは課された試練に挑み、〈真火球射弾しんかきゅうしゃだん〉を放った。

 球状にたぎる気体が高熱を帯び、輝く壁と争う。

 しかし破るまでには至らない。

『護法士の賢正ともあろう汝の術技は、そんな程度か?・・・。無意識に抱く抑制を解き、秘めた底力を発揮するのだ・・・』

 助長されたアーツが魔法力をふるい起こす。

 熱波の矛によって試練の表層はほころび、勢いを増した炎が障壁を貫く。

 割れた壁の剥片はくへんは華麗な流星に変わり、幻土の外界へ去った・・・。

 フィラン・ヨセフは口を結んでアーツを見つめる。

 術技の威力に納得したのだろう、無言で深くうなずいた。

『良ろしい。魔法力と技の強さは充分だ・・・。では次、心の試練。
 体内に潜む未知なる邪念を抹消せよ・・・』

 太陽が輝きが増す。

 アーツの足元の影が六つに分裂して長く這い伸びる。

 焦点から離れて面積は縮み、黒い円に変化した。

 それぞれの影の真下から物体がせり上がってくる。

「!!?・・・」
 アーツを囲む六人のアーツ。

 現れた灰色の偽者達は頭髪や服装、つま先に至るまでアーツと同一だが、瞳はうつろな闇が覆い、気力を感じられない。

 偽の護法士達は囲んだ人物へ歩いてゆく。

 その途中で全員が静止し、両腕を横に広げた。
 隣り合う手と手の隙間は無い。順に口を開いた。

『私は憎悪・・・』
『私は傲慢・・・』
『私は狂気・・・』
『私は狡猾・・・』
『私は野心・・・』
『私は復讐・・・』

 困惑するアーツにフィラン・ヨセフが説く。
『彼等は汝の身に潜む邪念である・・・』 

「憎悪・・狂気・・・」

『闇へと繋がる負の感情だ。認識しておらぬようだが、体内の深奥しんおうで僅かに存在している。
 中でも〈復讐〉の念がいちじるしく強い。過去に原因があるようだ・・・。
 負の感情が息づいたままでは、破魔の武力を与えられん。
 どのような手段を用いても構わぬ、内なる敵を打破するのだ・・・』

「つまり、自分を倒せと?」

『さよう・・・』
                    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...