DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

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破魔の護法士

破魔の武力

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 アーツは周囲を塞ぐ己の群衆に掌を向けた。

 風の術技〈聖なる風の加護ヴェン・シュラーク〉が発導され、敵を気流の斬撃が襲う。

 しかし誰一人として倒れる者はいなかった。

『・・・・』
 感情も意思も表さず、アーツを不気味に黙視している。

 正面の敵に再び術技を放つが、成果はない。
 冥遠幻土エベレストを無駄に騒がせただけであった・・・。

 アーツは次こそ敵を討つべく、〈復讐〉へ手をかざす。

 互いの視線が繋がり、瞳に反映する人物を見た。

 映っていたのは恐ろしく殺気立つ自分。
 その姿は〈復讐〉

 倒そうとする敵に豹変している。

 意識が暗転し、まどろみに囚われた。
 戸惑う。
 自分こそが醜い邪念?・・・・いや、違う!
 
 時が止まった空間の中で反芻はんすうされる自問自答。

 六人のアーツが乱雑に歩き、交差してはり抜けた。
 幼き日の故郷の崩壊が何度も脳裏で再生され、ぬぐいきれぬ邪念は肉体と精神を支配する。

 地上と異界、過去と現在で彷徨さまよう幻から逃れようと高く跳躍しても、領域を越える望みは叶わない。

 深く染ったが閉鎖された監獄のように心を捕らえ、闇に溺れながら荒々しく両手で掻き乱す。

『憎しみやおそれを力で屈服させようなど、浅はかで思慮が足りぬ。心は平静を欠き、逆境が増すだけであろう・・・』

 フィラン・ヨセフのささやく声と共に、かつて記憶した言葉が鮮明な映像で想起された。

 術技院の講堂。
 卓上に厚い教典。今は亡き僧侶の功徳くどくを心得た教えが載っている。

 アーツは何気なく教典を開いた。

 突然、講堂の外から風が吹き込んで、数十枚の紙面がめくれた。

 場景は色を失い、スポットライトのような垂直の光がつづられた文言を照らす。

〈元来、人の心に正邪せいじゃ無し。愛憎あいぞうへだたりを越えよ。万事は義を育む種子となる・・・〉

 追憶から離れ、身体に染み付くは消えた。

 意識が明転する。

 そうか・・・試練の意味を誤解していたようだ。
 負の感情を術技で強引に払拭ふっしょくしようなど、未熟な行い・・・。

 アーツは正面へ進んだ。
〈復讐〉の傍まで近づき、そっと肩を抱きしめる。

 腕の中が柔らかく輝いた。
〈復讐〉の虚ろな瞳が潤い、両眼の目尻から涙が流れる。
 巨獣に襲われ、崩壊した故郷の走馬灯が絶えず巡る。
 怒りや悔しさ、過酷な運命に嘆く〈復讐〉のアーツは、僅かに微笑みながら体の色が透過してゆく。

 清らかな光の連鎖が始まり、隣で手を広げる〈憎悪〉〈傲慢〉〈野心〉〈狂気〉〈狡猾〉は濃霧が晴れるように滅びていった・・・。

 空の彼方から七色の風。

『善に悪にも揺れる己を認め、憎しみを根源とするつたない業を鎮めた。
 心は荘厳な山の如く何事にも動じず、均衡の状態を維持している・・・。
 最上の魔法力とまがいなき精神。
 証明された・・・。継承者の証を受け取るがよい』

 試練を遂げたアーツにフィラン・ヨセフが伝え、片手を差し出す。

 指にめられた黄金の環が白銀の手から離れ、アーツの前に降りてきた。

 右手の紅い指環と重なる。
『護法の宣誓を述べ、「深結合インスパイア」と唱えるのだ・・・』
 
 アーツは腕を真上へ掲げた。

数多あまたの災から世に生きし人々と万物の調和を護り、尊き安寧あんねいいしずえを全身全霊で築く・・・。
 指環よ、いにしえより受け継がれる偉大な力を授けたまえ・・・深結合インスパイア

 そう言い終えた途端、円環リングは炎に変わって猛烈な旋風が周囲を巡る。

 手や腕、胴体に炎が巻き付いた。
 全身を灼熱の渦が包み、服装は伸縮して紅く染まる。

 直視できないほど明朗に輝き、体内から魔法力の荒波が放たれ、炎と光を残さず消した。


 漂う煙の中に破魔はまの武力を得たアーツ。

 頭髪が腰まで長く伸びている。
 ひたいに帯びた冠、真紅の衣装、純白のマント、黄金の鎧と靴を身に纏う。

 アーツは自らの変化を確かめる。

 止めどなく沸き上がる泉のように、体の芯から魔法力がみなぎっていた。

「凄い・・・。これが破魔の武力・・・」

『力の有効な期限は凡そ一時刻・・・、それ以上の使動は人間の体では耐える事ができぬ・・・』

「時間に限りが・・・。では早く戻らなければ」

『危機に陥る地上の命運を担い、汝の手で闇を打ち破るのだ・・・。さぁ、行け。破魔の護法士よ』

 アーツは振り返る。颯爽さっそうと姿勢を屈めた。
 純白のマントが大幅に背中でなびく。

 地面を蹴って空に浮遊し、幻土の外苑がいえんを満たす雲海へ飛び込んだ・・・。
    
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