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三章 クレインズ・ガーデン
四 ──
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無音に響く部屋。
電球は何も照らさない。黒いカーテンは光を遮る。それでも入り込んだ明瞭な明かりが充満している。
そこは安全な場所なのにどこか不安定で。閉じ込めたその部屋の中では攻撃が飛んでくることはない。けれども、虚しさは胸の底で気づかない内に溜まっていく。
暗い中、仄かに見える文字。手帳を何枚かめくり七月へと飛んだ。
出雲ヒガナの誕生日。
かつ、命日。
着々とその予定が確実になってきた。地面に転がる焦茶色の縄が存在感を放っている。
自分は欠陥品。学校に行くことができない。今では部屋からも出ようとも思えない。出たら親は学校へと行かせる。部屋の扉は心のセーフガードだった。
この生活が正しいとは思えない。そもそも、大不正解だと思っている。家族に多大な迷惑をかけている。そんなことは知っていた。こうして生き延びていることが足を引っ張ってるのだと思ってる。それでも、この生活を改善することはできない。もう後戻りできないのだと勘づいている。
ヒガナはこの世で不必要な存在。迷惑をかけるぐらいなら存在しない方がいい。
そう思っているのに自殺しようとしたら怖くなってできなかった。
しかし、それももう終わりだ。生まれた日に終わる日を決め、強い決意でその実行のため動いているのだ。この決意はこのまま揺るがないだろう。
弱々しい腕で折り紙を手に取った。
五十枚入の様々な色の入った折り紙だった。それを一枚手に取って、綺麗に折っていく。優しく慣れた手つきで一枚の紙が色のついた鶴へと姿を変えた。創られた新たな命。その命に触れ、生きている実感を受ける。
生み出された鶴が次々と床に置かれた。周りには様々な色の鶴が仁王立ちしていた。
閉じ込められた庭に息苦しそうに木漏れ日を求めている鶴がいた。だが、癒えない傷を檻に変え、有無を言わせず閉じ込める。
愛情を埋め合わせる使命を果たす。それ以上のことは許されず、自由は存在していなかった。
床を疎らに埋める鶴が花のように映る。
花畑の上で花を摘んでは抱擁する。失いつつある感情を多色の鶴で穴埋めする。
カーテンの隙間から溢れる木漏れ日が花畑を照らしていく。
鶴の庭に咲く一凛の彼岸花。その花から垂れ流れる悲劇が鶴を道連れにする。悲しい記憶に打ちのめされ、未だに抜け出せずにいる。頼みの綱の鶴も意味無く聳えるだけだった。負の連鎖に揉まれていく。
コンコンコン。壁という扉がノックされる。
ご飯を運んできたようだ。その音が消えたら、誰もいないのを確認して、向こう岸のおぼんを引き寄せた。
家族にも面を合わせられない。重症となっていることは分かるのにどうにもできないもどかしさと虚しさが喉を狭めていく。
時間だけが経つ。
冷たくなったご飯を摘んで口に運んだ。美味しくもなければ不味くもない。ただ、無味だった。
ほんの少量で体に溜まる。それを向こう岸の方へと返した。
つらい──。
沢山のカラフルな鶴の群れの中心で虚しく体育座りしている自分がいる。時間だけが過ぎていく。それだけで、大切な人にも辛い思いをさせていく。
様々な色が咲き乱れる花畑は木漏れ日を受けて美しく存在していた。けれども、
その部屋には一筋の希望も見えてこなかった──
電球は何も照らさない。黒いカーテンは光を遮る。それでも入り込んだ明瞭な明かりが充満している。
そこは安全な場所なのにどこか不安定で。閉じ込めたその部屋の中では攻撃が飛んでくることはない。けれども、虚しさは胸の底で気づかない内に溜まっていく。
暗い中、仄かに見える文字。手帳を何枚かめくり七月へと飛んだ。
出雲ヒガナの誕生日。
かつ、命日。
着々とその予定が確実になってきた。地面に転がる焦茶色の縄が存在感を放っている。
自分は欠陥品。学校に行くことができない。今では部屋からも出ようとも思えない。出たら親は学校へと行かせる。部屋の扉は心のセーフガードだった。
この生活が正しいとは思えない。そもそも、大不正解だと思っている。家族に多大な迷惑をかけている。そんなことは知っていた。こうして生き延びていることが足を引っ張ってるのだと思ってる。それでも、この生活を改善することはできない。もう後戻りできないのだと勘づいている。
ヒガナはこの世で不必要な存在。迷惑をかけるぐらいなら存在しない方がいい。
そう思っているのに自殺しようとしたら怖くなってできなかった。
しかし、それももう終わりだ。生まれた日に終わる日を決め、強い決意でその実行のため動いているのだ。この決意はこのまま揺るがないだろう。
弱々しい腕で折り紙を手に取った。
五十枚入の様々な色の入った折り紙だった。それを一枚手に取って、綺麗に折っていく。優しく慣れた手つきで一枚の紙が色のついた鶴へと姿を変えた。創られた新たな命。その命に触れ、生きている実感を受ける。
生み出された鶴が次々と床に置かれた。周りには様々な色の鶴が仁王立ちしていた。
閉じ込められた庭に息苦しそうに木漏れ日を求めている鶴がいた。だが、癒えない傷を檻に変え、有無を言わせず閉じ込める。
愛情を埋め合わせる使命を果たす。それ以上のことは許されず、自由は存在していなかった。
床を疎らに埋める鶴が花のように映る。
花畑の上で花を摘んでは抱擁する。失いつつある感情を多色の鶴で穴埋めする。
カーテンの隙間から溢れる木漏れ日が花畑を照らしていく。
鶴の庭に咲く一凛の彼岸花。その花から垂れ流れる悲劇が鶴を道連れにする。悲しい記憶に打ちのめされ、未だに抜け出せずにいる。頼みの綱の鶴も意味無く聳えるだけだった。負の連鎖に揉まれていく。
コンコンコン。壁という扉がノックされる。
ご飯を運んできたようだ。その音が消えたら、誰もいないのを確認して、向こう岸のおぼんを引き寄せた。
家族にも面を合わせられない。重症となっていることは分かるのにどうにもできないもどかしさと虚しさが喉を狭めていく。
時間だけが経つ。
冷たくなったご飯を摘んで口に運んだ。美味しくもなければ不味くもない。ただ、無味だった。
ほんの少量で体に溜まる。それを向こう岸の方へと返した。
つらい──。
沢山のカラフルな鶴の群れの中心で虚しく体育座りしている自分がいる。時間だけが過ぎていく。それだけで、大切な人にも辛い思いをさせていく。
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その部屋には一筋の希望も見えてこなかった──
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