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第二章 光の子と闇の子
ヤン
しおりを挟む朝、目覚めたラリー一家は、サイキ・ハイレンを家から送り出した。カイムとカミナリはサイキに同行すると提案していたが、何が起こるか分からないからと彼女は丁寧に断っていた。
一人で闇の子が幽閉される地下に向かったサイキは、カントリーの隣町のミウンタを訪れた。
ミウンタの闇の子が誕生したハミット家の家は、廃虚となり、五年前の焼け爛れた姿のまま放置されている。真顔で廃虚となった家を眺めるサイキ。
巫女装束の袴姿で歩く彼女は、町を歩く度に視線を集める。だが、闇の子が産まれた廃虚に近付くにつれ、人気がなくなり、いつしか周りには誰もいなくなっていた。
「おい、あんた」
サイキを追って来た一人の青年が、彼女に向かい、歩きながら声をかけた。
ゆっくりと振り向いたサイキの顔を見た青年は、怪訝そうに眉を顰める。
「こんな所で何をしている」
眉を顰めたまま、焼け焦げた家を視界に入れた青年は再び声を出す。
「闇の子に会いに来ました」
表情を変えず、単刀直入に言ったサイキに「何?」と青年は聞き返して、家から彼女へ視線を変えた。
「私はサイキ・ハイレンと申します」
彼女を見ながら目を見開く青年は「サイキ…ハイレン…」と、呟いた。
「これは大変失礼しました」
そして、彼は慌てて頭を下げた。
「ヤン・ランと申します」
ヤンは頭を下げると「いえいえ~頭を上げてください」と彼女に言われ、頭をゆっくりと上げた彼は、急に話し方が変わった彼女を不思議そうに見た。
「まさかここでヤンさんにお会いできるとは~、驚きましたねぇ」
先ほどまで真面目に表情を崩さずに話していたサイキだったが、気が抜けたのか妙にゆっくりと話し始めた。
「五年前、闇の子の、幽閉の際、あなたもいたようですねぇ」
サイキの言葉を聞き、暫し無言になったヤンは、再び眉を顰めた。
「闇の子を、本当に出すおつもりですか」
表情を歪めたまま、サイキに問うヤンに、彼女は涼しい顔をして答えた。
「はい。許可は得ています。この町で闇の子と暮らす許可も」
あまりにも涼しい顔をして答えたサイキに、ヤンはますます眉を顰め、険しい顔で言う。
「隣町には灰の子がいるんですよ! 危険が及んだらどうするおつもりですか」
サイキは涼しい顔を崩し、再び真面目な顔をして真っすぐにヤンを見た。
「…………」
彼女を纏う雰囲気が変わった事を察したのか、ヤンは険しい顔をしたまま口を閉ざした。
サイキ・ハイレンが各町を周り、説得する中で、許可を最後まで出さなかったのは闇が産まれ、幽閉された町、ミウンタだった。ミウンタの他の全ての町が許可を出した事を説明し、ミウンタの代表は渋々了承したのだった。
「灰の子が隣町にいるからこそ、ミウンタがいいのです」
サイキは力強い口調で答えた。
「なんですって?」
低い声を出したヤンに、目を逸らす事もなく直視し続ける彼女はさらに続けた。
「万が一、闇の力が発揮された時、ミウンタには”光”の私が、隣町のカントリーには灰の子と黄金の竜を持った力の持ち主もいます。灰の子はまだ子供ですが、闇の子とて同じ事です」
「…………」
無言で話を聞くヤンは、納得していないかのように、顰めっ面でサイキを見続けていた。
「灰の子の成長を見ると」
彼女の言葉に目を見開いたヤンは「ラリーさんにお会いして来たのですか?」と、先ほどよりも高い声を出す。
「はい。とても暖かいご家族でした。灰の子も元気に育ってましたよ」
「そうですか」
サイキの言葉に、目を伏せたヤンは、ほほ笑んでいた。
「さすがでした。強大な力を持っているはずなのに、灰の力の気配がみじんも感じなかったのです。まだ五歳だと言うのに、灰の力をコントロールし始めているという事です」
サイキを視界に入れたヤンは驚いたように目を丸くしていた。
「灰の力を感じなかった?力の制御は、数十年の鍛錬が必要なはずでは」
ヤンが言うと「えぇ、ですが灰の子は五歳にして、全く力を感じさせないほどの制御に成功しています」とサイキは言う。
「灰の子の、力の成長は早すぎる。闇の子とて同じ事でしょう」
サイキは、ヤンを直視しながら、さらに声に力を込めて話し始めた。
「闇の子が成長した時、恐ろしいほどの大きな闇の力を持つでしょう。炎の力も持つのです。地下から出るのなんて容易い事」
「人の心を持たない闇の子が、力をつけて外に出たら、一体、どうなると思いますか」
ヤンは、握りしめた拳を、小刻みに震わせた。
「闇の子が子供の今なら、力がまだ覚醒していない今だったら、私の力で闇を抑制する事ができます。隣町には雷の力を使いこなすカイムさんだっています」
ヤンの拳の震えが、徐々に大きくなって行く。彼の拳が震え、止められないのは、ある結論を決定付けていた。
「人の心を持つように、教育する事が、今だったらまだできるんです」
「闇の子がおとなになったら、力が覚醒したら、もう灰の子や神々の子が出るしかなくなります。そうなったら大変な事に…」
「サイキさん!」
話し続けていたサイキの言葉を遮るように、ヤンは口調を荒らげた。
「…………」
サイキは驚いた様子もなく、ヤンをただ見つめている。
「分かりました。案内します」
下を向き、震える拳を垂らしながら、ヤンは力無く言った。
「よろしくお願いします」
彼を見つめながら、サイキは静かに言った。
「…………」
無言で歩き出したヤンの背中を見つめながら、サイキもまた、足を進ませた。
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