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第三章 行く末
力の暴走
しおりを挟む砂漠に落ちているガラクタを集めてカールタウンへ戻って来たティランたちは、両親が帰って来ているかもしれないと、一度家に帰宅した。別の方向へ食材を探しに行った子供たちもタウンへ戻り、それぞれ皆、家へ帰って行く。
「ティラン、おかえり」
ティランが家に戻ると、両親は帰って来ていたようで、笑顔で家に迎え入れられた。いつもはティランが先に戻って両親を迎えるため、おかえりと言われた事がめったにない彼は、驚いたように目を丸くしている。
「母ちゃん、父ちゃん、帰ってたのか! おかえり!」
両親の顔を見ると、うれしそうに笑って母親の下へ走って行くティラン。
ティランの両親は、父がロイ・キラー、母がシャオ・キラー。彼らは、駆け寄って来た小さな体に、笑顔を向けた。そして、母のシャオが彼を抱き上げる。
「今日はこれだけだった」
父親のロイは、協会からもらって来た食材を見せ、残念そうに言った。
「でも仕事でももらったんだ。後、仕事先の村の人たちが雷の子にってたくさんくれた」
家の隅には大量の食材が置かれており「すげー!」母に抱かれたティランは目を見開いて笑顔で声を上げた。
こんなに食べ物が家の中にあるのは初めての光景だった。
喜ぶティランだったが、シャオは「あとは水ね…」と呟いた。
食材はあるが、水は協会からもらって来た樽一個分の水のみだった。
協会が食材や水を配るのは、湧き出る水がたまり、作物が育ってからだ。
サイキ・ハイレンの光の力で、通常よりは早く育つものの、人々に配るほどの量が実るのはやはり一カ月ほどはかかってしまう。しかも、一度の配布で全てのタウンの村人たちに配られる訳ではない。順番を待たなければならず、カールタウンは今日食材を配られたため、次に受け取れるのは2カ月後だった。
人間の顔くらいのサイズの樽だが、これを使って、家族三人で二カ月は生きて行かなければならない。
「水…」
母に抱かれながら、ティランは小さく呟いた。
小さいながらに、どうしたらいいのか一生懸命考えているようだった。
協会からもらった食物はお皿に並べられ、小さなコップには水が入っている。テーブルを囲んだ三人は、少ない食材と水を噛み締めて食べていた。
「サイキさん、また来てくれないかな?」
シャオは笑顔で言うと、ロイは「あぁ、楽しい人だったな」と言った。
サイキが闇の子を外に出す事への説得のため、ランドリーへ訪れた際、一日キラー一家の家に泊まって行ったのだ。ラ
ランドリーの代表や、タウンのリーダーたちが集まり、食材や水を大量にもらい、サイキをもてなすように言われた。
今までの食事の中で、一番豪華な食事をしたティランは、驚きと喜びのあまり、はしゃぎ過ぎてしまったが、実に楽しい一日を過ごしたのだった。
「変な姉ちゃん! 楽しかったな」
ティランは目を輝かせて言ったが「変な姉ちゃんじゃない、サイキさん」と母親に注意されていた。
「そろそろ行くぞ」
急いで食べていた両親は、慌てたように食器を片付け始めた。
「え?」
ティランは驚いたように目を丸くし、シャオは彼の頭を撫でて「お仕事、ティランはゆっくり食べてて」と言った。
ロイは「ごめんな。帰ったら話そうな」と言って慌ただしく用意をする。
協会で配布がある日は仕事に遅れて行き、いつも慌ただしく家を出て行く。
「ティラン、お利口にしていてね」
家を出る前に、シャオはティランに言うが、彼は寂しそうに「うん」と小さい声で頷いた。
「おいで」
そんなティランの姿を見たロイが、しゃがんで両手を広げる。ティランは父親の腕の中に入ると、大きな手で抱きしめられた。
痩せ細った体でも、暖かい温もりに、ティランは溢れる涙を我慢するように顔を埋めた。
「急いで帰って来るからな」
ロイは優しい口調で言い、ティランをきつく抱きしめる。体を離して立ち上がったロイは、シャオとともに家を出る。
ティランは顔を上げて「行ってらっしゃい」と言った。
パタンと閉まった扉の音を最後に、家の中から音が消えた。シンと静まり返る家の中、ティランはテーブルの椅子に腰掛け、一人でご飯を食べる。
「…………」
ティランは、一人でいる時はいつも無言なため、家の中は静まり返っていた。
ご飯を食べている時、寂しそうに眉毛をハの字に曲げているティラン。
食べ終わって、食器を片付けたティランは、かけてある布でお皿を奇麗に拭く。
しばらくして、コンコンと戸が鳴り、ティランの表情は一気に明るくなった。
「はーい!」
戸を開けるとシンと大きな少年が立っていた。
「行けるか?」
少年はティランに言う。
ティランは「うん!」と頷き、彼は家を出て行った。
貧しい村の大人たちは食材を探しに家を空ける事が多い。子供を連れて行かないのは、海岸や人が踏み入れないような場所など、危険な所へ行くからだ。
ギンフォン国で、食材を持って行っても問題がない場所は、村が建てられず、人が踏み入れない場所だけだ。親が家を空ける子供たちは外で集まり、彼らなりにどうしたらいいかを考えていた。
ティランたちが他の子供たちが待つ場所へと行くと、ガラクタが多く捨てられているゴミ捨て場で多くの子供たちが座って何かをいじっていた。
「おい! ティラン!」
一人の子供がティランに話しかけて来た。彼の手には、ガラクタを組み立てて作ったよく分からない物体が握られている。
「これに電気通せるか?」
地面にガラクタを置いて言う彼は、真剣な顔をしている。
「やってみる。怖いから離れててね」
ティランはガラクタを見詰めながら言う。ティランは雷の力を使うのは初めてだった。
ティランは一度、一人で家にいるときに、体が放電した事があり、家の中の物を倒して焼いてしまった事がある。何とか自分の力だけで制御したものの、中に潜む力の大きさを知ってから、雷の力を制御する事はしても外に放出する事を避けていたのだ。
目の前のガラクタを見ながら、じっと無言になるティランは、体が光り始めた。
「おおお」
「すごい…」
周りから聞こえて来る声。
ティランは、体の中で蠢く力を放出させようとした瞬間、空から、一筋の大きな光が舞い降りた。
一瞬、光った空。
子供たちは空を見上げると、あまりにも大きな光に、皆言葉を失った。
ギンフォン国中を覆うほどの大きな光の亀裂は、ティランの下へ集まって来るようだった。
町を飲み込むのではないかと思うほどの巨大な雷は、感動を通り越して恐怖心を人々に与える。
バチバチと、物凄い音を周囲に発しながら、まるで生きているかのように、ティラン目掛けて降りて来る雷。その光の亀裂は大きく、村を飲み込んでしまうのではないかと思うほどだ。
一直線に降りて来る光の亀裂を目の当たりにしたティランは、目を見開いて、とっさに「ダメだ!」と、叫んだ。
ティランが大声で叫ぶと、大きな光の亀裂はガラクタの下に舞い降りる事もなく、空を漂って消えて行った。
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