光と闇

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第三章 行く末

サタラーの罪

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 馬に乗ったサタラーたちと、家の横の柵に入っている馬を連れて来て、またがるカイム。

「おい、大丈夫か?」

 馬に乗ったカイムは竜に向かって声をかけると「大丈夫ー!!」と、シエルが楽しそうに声を出した。

「シエル!  しっかり捕まるんだぞ。絶対落ちるなよ!」

 竜は声を大きく出すと、シエルはケラケラと笑い出した。とても楽しそうだ。

「いやー絵になるねぇ」

 サタラーもニコニコ笑いながら、黄金の竜に乗ったシエルを見て楽しそうに声を出した。

 サタラーに連れそう二人の男も、ほほ笑みを浮かべてシエルを見ている。彼らの姿を見て安心したのか、カイムもまた、笑みを浮かべてサタラーを見た。

「では行こうか」

 馬を走らせたサタラーたち。カイムも遅れて馬を走らせ、黄金の竜も、風のように後に続いた。

 カイムの真横を飛ぶ竜は「おい! シエル! 苦しくないか!? 大丈夫か!?」とシエルに話し続けていた。

「うわー! すごーい! 大丈夫だよー! ひゃー!」

 シエルは声を張り上げ、歓喜の声を上げる。

 彼らを横目に、ほほ笑みを浮かべるカイムは「たまに一緒に走ってもいいかもな」と口にした。

「あ!?何だって!?」

 シエルが騒ぐ声でカイムの声が聞き取れなかったカミナリは、カイムに声を上げたが、カイムは「何でもない!」と返した。

 先程までシエルを連れて行く事に反対していたカイムだったが、シエルのあまりにも楽しそうな姿に、頬を緩ませずにはいられなかった。

 しばらく走った後、カントリーの隣町のミウンタのバッハタウンへたどり着いたカイムたちは、馬を歩かせながら進んでいた。村人たちは、黄金の竜に乗る子供の姿に目を丸くしている。

 一身に視線を浴びる中「サタラーさん!?」一人の村人がサタラーの存在に気付き、声を上げた。

「こんにちは。代表はいるか?」

 とても丁寧な口調で言うサタラーは、話しかけて来た村人に言うと、村人は「お待ちください」と言って慌てて走り出した。

 しばらくたつと、先程の村人と、ミウンタの代表とバッハタウンのリーダーがサタラーの下へ走って駆け付けた。二人の姿を確認したサタラーたちは、馬から降りて彼らの到着を待った。シエルも、カミナリから降りて身なりを整える。

 いつもなら代表の家へ直接訪問するサタラーだったが、サイキ・ハンレンが住んでから住居をバッハタウンへ移したミウンタの代表の家がどこだか分からなかった。

「サタラーさん!  お出迎えができず申し訳ありません。まさかいらっしゃるとは」

 ミウンタの代表は息を切らして言い「ラリーさんも、お久しぶりです」と続けた。

「急に申し訳ない。用があってな」

 サタラーは笑顔で言った。
 バッハタウンのリーダーも「サタラーさん、ラリーさん、お久しぶりです」とあいさつをした。

「私の付き人のカイとルア、カイムの雷の竜と、その息子さんのシエル君」

 サタラーは連れを自己紹介すると、代表は雷の竜を、目を丸くして見上げた。

「前より、大きいですね」

 見上げる彼らに「もうその反応、飽きたぞ」と、かわいい声を響かせた竜。

 竜がしゃべると、代表は驚いたように肩を上げた。

「あれ、ラリーさんの息子さんって事は…灰の子ですか!?」

 竜を見た後、カイムの足元に立っている小さなシエルを見下ろす村人たちは、笑顔を浮かべてカイムを見た。

「初めまして、シエル・ラリーです」

 シエルが礼儀正しく自己紹介をすると、ミウンタの代表や村人たちは満面の笑みを浮かべて「こんにちはシエル。よろしくね」と言った。

「まさか灰の子が来るとは、今日はとってもいい日だ。サタラーさん今日はどう言ったご用事で?」

 笑みを浮かべたジェンは、やわらかな口調でサタラーに言う。

「サイキ・ハイレンに会いに来た。案内を頼めるか?」

 サタラーはにこやかに言った。

「…………」

 一瞬間を置いたミウンタの代表やバッハタウンのリーダーは「…わかりました」と言いすぐに歩き出した。

 間を置いた瞬間、シエルを見たミウンタの代表。きっと闇の子と灰の子を会わせるのか?と思ったのだろうか。

「闇の子の様子はどうだ?」

 代表とタウンよリーダーたちに付いて行きながら、サタラーは質問を投げかける。

 闇の子が外に出てから、まだ二週間ほどしかたっていないが、サタラーが真っ先に聞いたのはやはり彼女の話題だった。

「…………」

 シエルを目にした時のほほ笑ましい雰囲気とは違い、暗い空気の沈黙が訪れる。

「今は、大分回復しています。よくしゃべりますし…。ヤンが、頻繁に様子を見に行っているようで…」

 途切れ途切れに言葉を発する代表と、何も話さず、歩き続けるタウンのリーダー。ただならぬ雰囲気に、カイムも竜もシエルも口を閉ざしていた。

「そうか。回復しているようでよかった」

 サタラーもまた、声を低くして言う。

「…………」

 再び沈黙した二人。

「サイキさんが…闇の子を連れて来た時…最初、見た時は…」

 言葉をつなぐように、話し始めた代表は、静かなトーンで話し始めた。

「サイキさんを歓迎出来ないほど、闇の子はひどい姿でした。生きてるのが、不思議なほど。まるで、ミイラのようで」

 代表の言葉に、サタラーとカイムは目を見開き、下を向いた。

「…………」

 サタラーは言葉を失ったように、目を見開きながら歩き続ける。

「今は、サイキさんが懸命にお世話をして、大分回復して来たようですが」

 そして代表が言い終わると同時に、町の外れにある、一軒の大きな家へ辿たどいた。外には洗濯物が干され、闇の子がいるとは思えないほど、暖かい光景だった。

「案内、ご苦労」

 笑顔を浮かべず、顔を伏せたまま、口を開いたサタラーは、ゆっくりと歩き出した。

 かつて、赤ん坊だった闇の子を抱き、地下の闇の空間へ入れ、鍵を掛けた彼は、ゆっくりと歩み出す。

 周りの賛同を糧に、自ら幽閉の決定を下し、狭い空間へ赤子を置いて来た彼は、背中に浴びせられる悲鳴のような泣き声を一日も忘れた事はなかった。

 戸をノックしようと伸ばしたサタラーの手は、微かに震え始める。

 コンコンと、小さく鳴ったノック音。

 部屋の中から「は~い」と声を聞いた瞬間、サタラーの肩はピクっと、動いた。

 開いた戸から顔をのぞかせたサイキ・ハイレンは、サタラーたちの雰囲気とは真逆で光輝いており、彼らは目を細めた。

「サタラーさんこんにちは~。待ってましたよ~。どう…」

 妙なトーンで話すサイキは、サタラーの辺りを見渡すと、途中で言葉を止めた。

 そして「うひゃー!」と、雄たけびを上げ、サタラーの後ろにいるカイムや竜、そしてシエルを見詰めて目を丸くしていた。

「ラリーさん!? 灰の子!? うそ!? 久しぶりだねー!」

 まるで子供のようにはしゃぐサイキ。

 シエルは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔になって「お久しぶりです!」と元気よく声を出した。

「相変わらず変だなぁ、あんた」

 宙を漂う黄金の竜は、サイキに向かって声を上げる。

「どうぞ! どうぞ! 皆、入って!」

 灰の子たちの訪問に、サイキは興奮しているようで、早口で言った。

「私たちはこれで」

 笑顔で言い、立ち去ろうとする代表とタウンのリーダーに、サタラーは「ありがとうな。帰りにまた寄らせていただく」と言った。

「はい。では失礼します」

 一言だけ言い、背を向けて歩き出す彼らは、闇の子の様子をたまに見に来る中の一人だった。

 訪問人数の多さから、中に入らずに帰って行く彼らは、ヤンほど顔を出している訳ではないにしても、闇の子の成長を見守る事は、快く思っている二人だ。

 サイキに招かれたサタラーたちは、ゾロゾロと家に入って行った。人数分の椅子を用意するサイキ。慌ただしく動き回るサイキとは対照的に、一番端の椅子の上に座る小さな子供を目にして、彼らは固まっていた。

 五歳にしては小さ過ぎる子供は、椅子の上に膝を曲げて座っていた。

 真っ白の髪の毛、日光を知らない白すぎる肌。そして、痩せて細い体。

 ミイラ状態だった当時からすると、大分太ったように見えるが、初めて見る彼らからすると、明らかに彼女は痩せすぎていた。

 彼らは言葉を失う。

 一番先頭に立つサタラーは、目を見開いて闇の子を見ていた。

 再びサタラーの手が震え出す。それは、彼女がまだ赤子の時に、あの暗闇に置いて来た事を思い出しているからだろうか。それとも、背中に訴える悲鳴のような泣き声を思い出しているからなのだろうか。わずか5歳にして、白髪の子供を初めて見たからなのか。

 足を伸ばせない理由を、体が小さい理由を、"あの場所"の狭さを、知っているからだろうか。

「どうぞ、こちらに座ってくだ…」

 席の準備を終えたサイキは、サタラーの顔を見ると、言葉を止めた。

「…………」

 無言で闇の子を見詰めるサタラー。そして、サタラーを見詰める闇の子。

「こ、こ、こんに、ちわ」

 懸命にあいさつしようと動かない舌を回らせる彼女の姿に、サタラーの目からは涙があふれた。涙を拭く事もなく、目を見開きながら涙を流すサタラーの顔を見たサイキは、黙ってその場に立ち、切ない表情を浮かべた。


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