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第四章 力との闘争
目覚めの時
しおりを挟むさらに五年の月日が流れ、光の子が十歳となった平和な国、エフティヒアでは、丸い月の光が、昔と変わらず夜空を照らし続けていた。
皆が床に着いて寝静まる時間帯に、ある一軒の家で、幼き叫び声が響き渡る。
叫び声を上げた少年は、布団の中で、表情を歪めて苦しそうに身悶えていた。額には汗が滲み、嫌な夢に魘されているようだ。
彼は、夢の中で走っていた。
息を切らしながら、まるで何かから懸命に逃げるように、全力で体を前に押し出していた。焦りと苦痛に顔を歪めながら走っている彼は、後ろを振り向く。
彼の背後には巨大な丸い円が存在していた。二重の縁は白く光っていた。丸い円の中には、文字でも数字でもない奇妙な形の小さな印が大量に描かれ、複雑な図形が白い線で描かれいる。まるで錬成陣のようだ。
巨大な円から逃げるように、彼は再び前を向いて走った。丸い円は、走って遠ざかる彼を追いかける事も動く事もなく、ただそこに存在しているだけだ。遠くにあるはずなのに、彼の視界を覆うほどの巨大な丸い円は、煌々と輝き、走り去る彼に満面の光を与えていた。
「ーーーーーー」
さまざまな音が彼の耳に降り注ぐ。
自然界が発するものでもなければ言葉でもない不思議な音は、巨大な丸い円が発しているようだ。だが、全力で走っている彼は、耳に届く騒音はどこから聞こえて来るのか分からない様子だった。
彼は耳に手を当て、顔を歪ませながら走り続ける。
「いやだ! 知らない! 知らない!」
叫ぶように声を吐き出す彼は立ち止まってしゃがみ込んだ。
「頭が…痛い! やめろ。頭が…爆発する」
耳をふさいで声を絞り出す。
『ーたーーーー』
不意に新しい音が加わった。
『ーーとーー』
頭を抱える彼は、別の音がなり始めた事に気付いていないようだった。
『おーーーいーーた』
光が降り注ぐ中、苦痛に顔を歪める彼の元へ、誰かの声が降りて来る。
「……声……?」
ようやく気付いた彼は、耳をふさぐ手の力を緩めた。
『たーくーーーと』
声は響く。彼を呼ぶ声が。それを聞いた彼は、安心したように耳をすませた。
ーーー・・・
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