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episode.02
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ロウェルと出会ったのは約半年前。
北の関所にあるノルデン騎士団の所属だったロウェルがその腕を買われ、セレネの護衛役として宮廷に異動してきた事がきっかけだった。
騎士達は訓練で怪我を負うこともあり、治癒魔法が得意なシュナは定期的に彼らの訓練場に足を運んでいた。その時、遠目で見ただけで、彼が自分にとってその人であると分かってしまうのだから、神から授けられた力の強靭さが恐ろしくもあった。
そして、事あるごとにシュナの元に逃げ込んでくる妹、もとい皇女であるセレネを追いかけてくる役のロウェルと対面するのに、そう時間はかからなかった。
「彼女はシュナ。シュナ・イレイナー。私にとっても国にとっても特別な人だから覚えておいて」
「国にとっても?」
「ええ。彼女はかつて戦争の終結に尽力した神に選ばれた能力を受け継ぐ方よ」
「ああ、なるほど」
この国で、戦争が終結し平和を取り戻した物語りを知らない者はいない。例え今のシュナが何の力を持たなくとも、その功績は千年たった子孫やその能力の継承者に恩恵と縛りを与えている。
ロウェルを直視出来ずにいたシュナの前に、ロウェルはズイッと近づいた。
「ノルデン騎士団から参りました、ロウェル・ストルキオです。以後お見知り置きを。」
この数日で調べ上げたのだから、知っていますとも。
なんて言えるはずもなく、シュナはボソボソと口を開いた。
「………宮廷魔導士のシュナです」
差し出された手から逃れる方法など、ダラダラと冷や汗をかいて冷静では無いシュナに思いつくはずもなく、おずおずと右手を差し出した。
酷い手汗だと思われたらどうしよう。もしくは色気の無いカサついた手だと思われるだろうか。愛想も良くないし……などと考えていると、頭上から「あの…」と声をかけられた。
ふと顔を上げると、ロウェルが不思議そうな顔でこちらを見ている。
「以前、どこかでお会いした事がありましたか?」
「……………どう、でしょう…?」
なぜロウェルがそんな事を言ったのかは分からないが、シュナはぎこちなく誤魔化した。「千年前に…」なんて言って頭がおかしいと思われたくもない。
その後もロウェルは握ったシュナの右手を離さずにじっと見つめた。もう滴り落ちるほど手汗をかいている気がして気が気ではないのだが、離してくれる様子もない。
「あの……?」
声をかけると、ふとロウェルの顔が上がり思わず目が合ってしまった。痛いほどに高鳴る心臓が早く離れるようにと警鐘を鳴らす。
焦るシュナとは裏腹に、ロウェルは思わず見惚れるような穏やかで美しい笑みを浮かべた。
「不思議だ。あなたの手は懐かしいような気がして」
「っ…………」
ドクン ドクン ドクン
そんなはずはない。シュナ以外に祖先の記憶を継承する力を持つ者がいるわけがない。
だけどほんの少しだけ期待してしまう。
怪我の治療の為に握った手を、あの地下壕で手を繋いで眠ったあの夜の事を覚えているのかと。
そんな事、あるわけがないのに。
「………ちょっと!大事な人だって言ってるでしょ!?初対面で変な事を言うのはやめてよ!」
緊張して呼吸すらままならなかったシュナを救ったのはセレネだった。グイグイと2人の間に割って入ってくれたおかげで、ようやく長い握手は終わりを迎えた。
ホッと胸を撫で下ろしたシュナだったが、安心するのはまだ早かった。
ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てるセレネだったが、ロウェルはさほど気にした様子ではなかった。
「変な事…そうだね。そうかもしれないけれど……。僕はあなたを好きな気がする」
「っゴフッ!?!?」
口の中はカラカラに渇いていると思っていたのだが、生唾が喉に引っかかり、シュナは盛大にむせた。
「な、何言ってるの!?」
まだ14歳の少女であるセレネが、シュナの気持ちを代弁するかのように大声で言う。セレネはシュナよりずっとずっと少女だ。青い顔のシュナに対して、セレネは真っ赤に染まっている。
そして、問題発言をかました当の本人はケロッとしていて顔色どころか表情ひとつ変えていない。
「一目惚れってやつかな?でも、それも少し違うような…」
「なっ……」
一目見て惚れてしまうような、そんな魅力的な容姿ではない。シュナはごく平凡な、全てにおいて平均的な仕上がりだ。年若いが、相手がセレネならまだしも、シュナに一目惚れだなんてありえない。
「ちょっと!まず手を離してよ。シュナの顔が真っ青よ!?」
「おっと………」
悪いと思っているのかいないのか。セレネのおかげで右手は解放されたのだが、にっこりと微笑まれるとシュナはバッと視線を逸らした。
これ以上何かされたら、この心の臓は動きを止めてしまうだろう。
北の関所にあるノルデン騎士団の所属だったロウェルがその腕を買われ、セレネの護衛役として宮廷に異動してきた事がきっかけだった。
騎士達は訓練で怪我を負うこともあり、治癒魔法が得意なシュナは定期的に彼らの訓練場に足を運んでいた。その時、遠目で見ただけで、彼が自分にとってその人であると分かってしまうのだから、神から授けられた力の強靭さが恐ろしくもあった。
そして、事あるごとにシュナの元に逃げ込んでくる妹、もとい皇女であるセレネを追いかけてくる役のロウェルと対面するのに、そう時間はかからなかった。
「彼女はシュナ。シュナ・イレイナー。私にとっても国にとっても特別な人だから覚えておいて」
「国にとっても?」
「ええ。彼女はかつて戦争の終結に尽力した神に選ばれた能力を受け継ぐ方よ」
「ああ、なるほど」
この国で、戦争が終結し平和を取り戻した物語りを知らない者はいない。例え今のシュナが何の力を持たなくとも、その功績は千年たった子孫やその能力の継承者に恩恵と縛りを与えている。
ロウェルを直視出来ずにいたシュナの前に、ロウェルはズイッと近づいた。
「ノルデン騎士団から参りました、ロウェル・ストルキオです。以後お見知り置きを。」
この数日で調べ上げたのだから、知っていますとも。
なんて言えるはずもなく、シュナはボソボソと口を開いた。
「………宮廷魔導士のシュナです」
差し出された手から逃れる方法など、ダラダラと冷や汗をかいて冷静では無いシュナに思いつくはずもなく、おずおずと右手を差し出した。
酷い手汗だと思われたらどうしよう。もしくは色気の無いカサついた手だと思われるだろうか。愛想も良くないし……などと考えていると、頭上から「あの…」と声をかけられた。
ふと顔を上げると、ロウェルが不思議そうな顔でこちらを見ている。
「以前、どこかでお会いした事がありましたか?」
「……………どう、でしょう…?」
なぜロウェルがそんな事を言ったのかは分からないが、シュナはぎこちなく誤魔化した。「千年前に…」なんて言って頭がおかしいと思われたくもない。
その後もロウェルは握ったシュナの右手を離さずにじっと見つめた。もう滴り落ちるほど手汗をかいている気がして気が気ではないのだが、離してくれる様子もない。
「あの……?」
声をかけると、ふとロウェルの顔が上がり思わず目が合ってしまった。痛いほどに高鳴る心臓が早く離れるようにと警鐘を鳴らす。
焦るシュナとは裏腹に、ロウェルは思わず見惚れるような穏やかで美しい笑みを浮かべた。
「不思議だ。あなたの手は懐かしいような気がして」
「っ…………」
ドクン ドクン ドクン
そんなはずはない。シュナ以外に祖先の記憶を継承する力を持つ者がいるわけがない。
だけどほんの少しだけ期待してしまう。
怪我の治療の為に握った手を、あの地下壕で手を繋いで眠ったあの夜の事を覚えているのかと。
そんな事、あるわけがないのに。
「………ちょっと!大事な人だって言ってるでしょ!?初対面で変な事を言うのはやめてよ!」
緊張して呼吸すらままならなかったシュナを救ったのはセレネだった。グイグイと2人の間に割って入ってくれたおかげで、ようやく長い握手は終わりを迎えた。
ホッと胸を撫で下ろしたシュナだったが、安心するのはまだ早かった。
ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てるセレネだったが、ロウェルはさほど気にした様子ではなかった。
「変な事…そうだね。そうかもしれないけれど……。僕はあなたを好きな気がする」
「っゴフッ!?!?」
口の中はカラカラに渇いていると思っていたのだが、生唾が喉に引っかかり、シュナは盛大にむせた。
「な、何言ってるの!?」
まだ14歳の少女であるセレネが、シュナの気持ちを代弁するかのように大声で言う。セレネはシュナよりずっとずっと少女だ。青い顔のシュナに対して、セレネは真っ赤に染まっている。
そして、問題発言をかました当の本人はケロッとしていて顔色どころか表情ひとつ変えていない。
「一目惚れってやつかな?でも、それも少し違うような…」
「なっ……」
一目見て惚れてしまうような、そんな魅力的な容姿ではない。シュナはごく平凡な、全てにおいて平均的な仕上がりだ。年若いが、相手がセレネならまだしも、シュナに一目惚れだなんてありえない。
「ちょっと!まず手を離してよ。シュナの顔が真っ青よ!?」
「おっと………」
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