輪廻の魔女と千年の恋

黒猫とと

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episode.03

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「打撲ですね、骨は折れていないのですぐに治せますよ」

青紫に腫れ上がった騎士の腕を観察したシュナは、治癒魔法を展開させる。淡い光が魔法陣を作り出すと、青紫だった肌の色が日に焼けた黄金色へと変わって行く。

魔法陣の光が消えると、騎士は自分の手を握ったり開いたりしてその感覚を確かめていた。その後、ニコッと笑みを浮かべると、ガシッとシュナの手を掴んできた。

「うん、助かった!ありがとうな」
「いえ」

感謝を伝えるためなのだろうが、鍛えられた騎士の握力は少々強い。苦笑いを浮かべるシュナの心境は、がはがはと笑っている相手には伝わっていないようだ。

「お前の魔法は本当に凄いな!全く違和感なく治っちまうんだから!」
「……真剣ではこうもいきませんから、気をつけてください」
「がはは!そうだな!!」

そんな話をしていると、シュナの後頭部に何かがトンっと当たり、何かと振り返るまもなく背後から誰かの腕が伸びてくる。

騎士に力強く握られていたシュナの手を包んだのは、ゴツゴツして大きな、騎士にしては色白の手だった。

「治療が終わったなら訓練に戻ったらどうかな?」

穏やかだが有無を言わせない声の主が誰であるかは明白だ。がはがはと白い歯を見せていた騎士は気まずそうにその手を引いた。

「そ、そうですね!では俺はこの辺で!」

ピューっと騎士は言ってしまった。

「他の男に触れられたらもう少し嫌そうにしてくれない?」
「い、嫌と言うわけでは…」

僅かに移動して隣に並び立つロウェルを見上げる事など出来ない。シュナは視線を落としたままぎこちなく答えた。

「なら、僕が嫌だから嫌そうにして」
「…………」

そう言うことを言うのは本当に勘弁してほしいのだが、ロウェルは初めて言葉を交わしたあの日から全く遠慮が無い。

声色こそ穏やかだが、その俺様気質なところは千年前のあの人の性格の名残りなのかなんなのか。

ロウェルが北の門番、ノルデン騎士団から宮廷騎士団に異動してきて約1年。年齢的にも若く新参者であるロウェルだが、これまでに多くの騎士を打ち負かしているらしく、実力至上主義の騎士団ではかなり高い地位に付いている。

皇女の護衛を務める程だし、それ相応の実力があって異動を命じられたのは言うまでもないのだが。

シュナはようやくロウェルをチラリと盗み見た。訓練を続ける騎士達を見ていたロウェルと目が合わなかった事にホッとする。もし万が一、こちらを見ていたら間違えて自爆の魔法を展開してしまうかもしれない。

シュナにとって、この想いが叶う事は無いのが普通で当たり前で常なのだ。それ以外を知らないのだから、それ以外が起きたら間違いも起こる。かもしれない。

シュナが間違いを犯す前に早くどこかへ行ってくれないかなぁと思っていると、「そうだ」と声が降ってくる。

「パネットーネの約束、いつにするか決めていなかったね」
「え?」

なんだったか、あぁ、と思い出したシュナだったが、「いつにする」と言う言葉が引っかかり首を傾げた。

「いつでも…大丈夫ですけど………」

遠慮したい気持ちが食欲を上回り、シュナは恥ずかしながらモゴモゴと答えた。いつでも持ってきてもらえれば美味しく頂ける自信がある。

シュナの答えにロウェルはにっこりと笑みを浮かべた。

「じゃあ、明日の夕方はどうかな?16時に正門前で待ち合わせで」
「…………待ち合わせ?」
「一緒に行く約束でしょう?」
「………………」

ぽかん。

開いた口が塞がらないとはまさに。そんな約束だったか!?と記憶を思い返しても、そんな事は言っていない。

答えないシュナに疑問を感じたのか、ロウェルは視線を落としながら首を傾げた。

「明日は都合が悪かった?」
「い、いや、そうではなく…。一緒に行くとは…思っていなくて」
「?」

(てっきり持ってきてくれるものかと)

図々しくてそんな胸の内の本音は言えず、シュナはタラリと冷や汗を流した。

一緒に行くとはつまり、隣に並び立ち、共に店に入り、共に食べて帰ってくる、という事だろうか。

想像しただけで心臓が張り裂けそうで、シュナはブンブンと首を振った。

だが、ロウェルは逃げ道を用意してはくれない。

「約束だったよね?」

身を屈めて、シュナにはっきり見えるように小指を突き立ててくるロウェルの姿に、クラクラと眩暈がした。

ユビキリゲンマンははるか古代の制約魔法で、現代では魔法と呼ぶに足らないほど効果が薄い物だが、誓いは誓いだ。違えるにはそれ相応の理由が必要である。

シュナはこの約束を違えられない。ロウェルはそれが分かっているかのように余裕な笑みを浮かべている。

約束を破ることは、それが魔導士でも騎士でも、貴族でも農民でも、等しく悪い事である。

「分かり、ました…」

結局、どう足掻こうともシュナは首を縦に振るしか無いのだ。

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