4 / 7
episode.03
しおりを挟む
「打撲ですね、骨は折れていないのですぐに治せますよ」
青紫に腫れ上がった騎士の腕を観察したシュナは、治癒魔法を展開させる。淡い光が魔法陣を作り出すと、青紫だった肌の色が日に焼けた黄金色へと変わって行く。
魔法陣の光が消えると、騎士は自分の手を握ったり開いたりしてその感覚を確かめていた。その後、ニコッと笑みを浮かべると、ガシッとシュナの手を掴んできた。
「うん、助かった!ありがとうな」
「いえ」
感謝を伝えるためなのだろうが、鍛えられた騎士の握力は少々強い。苦笑いを浮かべるシュナの心境は、がはがはと笑っている相手には伝わっていないようだ。
「お前の魔法は本当に凄いな!全く違和感なく治っちまうんだから!」
「……真剣ではこうもいきませんから、気をつけてください」
「がはは!そうだな!!」
そんな話をしていると、シュナの後頭部に何かがトンっと当たり、何かと振り返るまもなく背後から誰かの腕が伸びてくる。
騎士に力強く握られていたシュナの手を包んだのは、ゴツゴツして大きな、騎士にしては色白の手だった。
「治療が終わったなら訓練に戻ったらどうかな?」
穏やかだが有無を言わせない声の主が誰であるかは明白だ。がはがはと白い歯を見せていた騎士は気まずそうにその手を引いた。
「そ、そうですね!では俺はこの辺で!」
ピューっと騎士は言ってしまった。
「他の男に触れられたらもう少し嫌そうにしてくれない?」
「い、嫌と言うわけでは…」
僅かに移動して隣に並び立つロウェルを見上げる事など出来ない。シュナは視線を落としたままぎこちなく答えた。
「なら、僕が嫌だから嫌そうにして」
「…………」
そう言うことを言うのは本当に勘弁してほしいのだが、ロウェルは初めて言葉を交わしたあの日から全く遠慮が無い。
声色こそ穏やかだが、その俺様気質なところは千年前のあの人の性格の名残りなのかなんなのか。
ロウェルが北の門番、ノルデン騎士団から宮廷騎士団に異動してきて約1年。年齢的にも若く新参者であるロウェルだが、これまでに多くの騎士を打ち負かしているらしく、実力至上主義の騎士団ではかなり高い地位に付いている。
皇女の護衛を務める程だし、それ相応の実力があって異動を命じられたのは言うまでもないのだが。
シュナはようやくロウェルをチラリと盗み見た。訓練を続ける騎士達を見ていたロウェルと目が合わなかった事にホッとする。もし万が一、こちらを見ていたら間違えて自爆の魔法を展開してしまうかもしれない。
シュナにとって、この想いが叶う事は無いのが普通で当たり前で常なのだ。それ以外を知らないのだから、それ以外が起きたら間違いも起こる。かもしれない。
シュナが間違いを犯す前に早くどこかへ行ってくれないかなぁと思っていると、「そうだ」と声が降ってくる。
「パネットーネの約束、いつにするか決めていなかったね」
「え?」
なんだったか、あぁ、と思い出したシュナだったが、「いつにする」と言う言葉が引っかかり首を傾げた。
「いつでも…大丈夫ですけど………」
遠慮したい気持ちが食欲を上回り、シュナは恥ずかしながらモゴモゴと答えた。いつでも持ってきてもらえれば美味しく頂ける自信がある。
シュナの答えにロウェルはにっこりと笑みを浮かべた。
「じゃあ、明日の夕方はどうかな?16時に正門前で待ち合わせで」
「…………待ち合わせ?」
「一緒に行く約束でしょう?」
「………………」
ぽかん。
開いた口が塞がらないとはまさに。そんな約束だったか!?と記憶を思い返しても、そんな事は言っていない。
答えないシュナに疑問を感じたのか、ロウェルは視線を落としながら首を傾げた。
「明日は都合が悪かった?」
「い、いや、そうではなく…。一緒に行くとは…思っていなくて」
「?」
(てっきり持ってきてくれるものかと)
図々しくてそんな胸の内の本音は言えず、シュナはタラリと冷や汗を流した。
一緒に行くとはつまり、隣に並び立ち、共に店に入り、共に食べて帰ってくる、という事だろうか。
想像しただけで心臓が張り裂けそうで、シュナはブンブンと首を振った。
だが、ロウェルは逃げ道を用意してはくれない。
「約束だったよね?」
身を屈めて、シュナにはっきり見えるように小指を突き立ててくるロウェルの姿に、クラクラと眩暈がした。
ユビキリゲンマンははるか古代の制約魔法で、現代では魔法と呼ぶに足らないほど効果が薄い物だが、誓いは誓いだ。違えるにはそれ相応の理由が必要である。
シュナはこの約束を違えられない。ロウェルはそれが分かっているかのように余裕な笑みを浮かべている。
約束を破ることは、それが魔導士でも騎士でも、貴族でも農民でも、等しく悪い事である。
「分かり、ました…」
結局、どう足掻こうともシュナは首を縦に振るしか無いのだ。
青紫に腫れ上がった騎士の腕を観察したシュナは、治癒魔法を展開させる。淡い光が魔法陣を作り出すと、青紫だった肌の色が日に焼けた黄金色へと変わって行く。
魔法陣の光が消えると、騎士は自分の手を握ったり開いたりしてその感覚を確かめていた。その後、ニコッと笑みを浮かべると、ガシッとシュナの手を掴んできた。
「うん、助かった!ありがとうな」
「いえ」
感謝を伝えるためなのだろうが、鍛えられた騎士の握力は少々強い。苦笑いを浮かべるシュナの心境は、がはがはと笑っている相手には伝わっていないようだ。
「お前の魔法は本当に凄いな!全く違和感なく治っちまうんだから!」
「……真剣ではこうもいきませんから、気をつけてください」
「がはは!そうだな!!」
そんな話をしていると、シュナの後頭部に何かがトンっと当たり、何かと振り返るまもなく背後から誰かの腕が伸びてくる。
騎士に力強く握られていたシュナの手を包んだのは、ゴツゴツして大きな、騎士にしては色白の手だった。
「治療が終わったなら訓練に戻ったらどうかな?」
穏やかだが有無を言わせない声の主が誰であるかは明白だ。がはがはと白い歯を見せていた騎士は気まずそうにその手を引いた。
「そ、そうですね!では俺はこの辺で!」
ピューっと騎士は言ってしまった。
「他の男に触れられたらもう少し嫌そうにしてくれない?」
「い、嫌と言うわけでは…」
僅かに移動して隣に並び立つロウェルを見上げる事など出来ない。シュナは視線を落としたままぎこちなく答えた。
「なら、僕が嫌だから嫌そうにして」
「…………」
そう言うことを言うのは本当に勘弁してほしいのだが、ロウェルは初めて言葉を交わしたあの日から全く遠慮が無い。
声色こそ穏やかだが、その俺様気質なところは千年前のあの人の性格の名残りなのかなんなのか。
ロウェルが北の門番、ノルデン騎士団から宮廷騎士団に異動してきて約1年。年齢的にも若く新参者であるロウェルだが、これまでに多くの騎士を打ち負かしているらしく、実力至上主義の騎士団ではかなり高い地位に付いている。
皇女の護衛を務める程だし、それ相応の実力があって異動を命じられたのは言うまでもないのだが。
シュナはようやくロウェルをチラリと盗み見た。訓練を続ける騎士達を見ていたロウェルと目が合わなかった事にホッとする。もし万が一、こちらを見ていたら間違えて自爆の魔法を展開してしまうかもしれない。
シュナにとって、この想いが叶う事は無いのが普通で当たり前で常なのだ。それ以外を知らないのだから、それ以外が起きたら間違いも起こる。かもしれない。
シュナが間違いを犯す前に早くどこかへ行ってくれないかなぁと思っていると、「そうだ」と声が降ってくる。
「パネットーネの約束、いつにするか決めていなかったね」
「え?」
なんだったか、あぁ、と思い出したシュナだったが、「いつにする」と言う言葉が引っかかり首を傾げた。
「いつでも…大丈夫ですけど………」
遠慮したい気持ちが食欲を上回り、シュナは恥ずかしながらモゴモゴと答えた。いつでも持ってきてもらえれば美味しく頂ける自信がある。
シュナの答えにロウェルはにっこりと笑みを浮かべた。
「じゃあ、明日の夕方はどうかな?16時に正門前で待ち合わせで」
「…………待ち合わせ?」
「一緒に行く約束でしょう?」
「………………」
ぽかん。
開いた口が塞がらないとはまさに。そんな約束だったか!?と記憶を思い返しても、そんな事は言っていない。
答えないシュナに疑問を感じたのか、ロウェルは視線を落としながら首を傾げた。
「明日は都合が悪かった?」
「い、いや、そうではなく…。一緒に行くとは…思っていなくて」
「?」
(てっきり持ってきてくれるものかと)
図々しくてそんな胸の内の本音は言えず、シュナはタラリと冷や汗を流した。
一緒に行くとはつまり、隣に並び立ち、共に店に入り、共に食べて帰ってくる、という事だろうか。
想像しただけで心臓が張り裂けそうで、シュナはブンブンと首を振った。
だが、ロウェルは逃げ道を用意してはくれない。
「約束だったよね?」
身を屈めて、シュナにはっきり見えるように小指を突き立ててくるロウェルの姿に、クラクラと眩暈がした。
ユビキリゲンマンははるか古代の制約魔法で、現代では魔法と呼ぶに足らないほど効果が薄い物だが、誓いは誓いだ。違えるにはそれ相応の理由が必要である。
シュナはこの約束を違えられない。ロウェルはそれが分かっているかのように余裕な笑みを浮かべている。
約束を破ることは、それが魔導士でも騎士でも、貴族でも農民でも、等しく悪い事である。
「分かり、ました…」
結局、どう足掻こうともシュナは首を縦に振るしか無いのだ。
10
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
婚約破棄した令嬢の帰還を望む
基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。
実際の発案者は、王太子の元婚約者。
見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。
彼女のサポートなしではなにもできない男だった。
どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる