ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 バレンタインデーは大好きなキミと

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 バリン、バリン、バリンっ!


 ガラスビンが落とされていく。

 次々に、書斎のゆかにあたって、割れていく。

 ゆかにしみだす、虹色の液体。ビンの中身同士がまじりあって、どの液体がどのビンのものなのか、もうわからない。


「なんで、こんなことをするっ!! 」


 オレはさけんだ。

 このビンの中身はフェアリー・ドクターの薬。ひとつつくるのに、どれだけ時間をかけたか。

 薬は、目分量じゃ完成しない。比率も分量も正確に煮詰めなければならない。そうでなければ、ただハーブを煎じただけ。フェアリー・ドクターの薬となった証として、虹色にかがやきだしてはくれない。


「ヨージ。おまえは、そんなこともわからないのか? おまえには一から十まですべて説明しなければ、何も答えを導き出せないのかね? 少しは自分で、とうさんが怒っている理由を考えてみたらどうなんだっ!? 」


 自分が父親だといいはる生き物が、オレと同じ琥珀色の目をかなしげにゆがめる。


「……学校に迎えに来させた罰とでも……言いたいのかよ……?」


「おおっ!!  よくわかっているじゃないかっ! おまえの帰りが遅いと、セイコも心配していたぞ! 親に心配をかけさせるなんて、よくそんな大それたことができるもんだっ!」


 父親の姿をしたこの生き物は、ローファーをはいたままの足で、バリンとゆかのビンを踏み砕いた。


 くそ……。


 鬼婆ハグ


 きのう、図書館で調べたこいつの正体。

 イギリスの伝承に出てくる、老婆の姿をした黒い妖精の名前だ。

 ふつう、妖精は子どもの姿をしていて、おとなの姿の妖精は存在しない。けど、こいつは別だ。黒い邪悪な感情によって、顔がしわしわにゆがんだのだから。


 ただしこいつは、老婆の姿を持つ前に、オレにタマゴを壊されて、ただの黒いモヤになりさがった。

 なにか、入れ物・・・に入っていなければ、自らの形を保つことさえできない。


 足元にビンが転がってきた。割れのこりだ。

 とっさに、そのビンをつかみ取る。


「ヨージ。そのビンもわたしなさい!」


「イヤだっ!」


 中には、虹色にかがやく粉が入っている。


 これは……ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダー。


 こんなものを守ったところで、なんの役にもたたない。

 だけど、これは生前のとうさんがつくったもの。とうさんの形見だ。


「親の言うことをきけっ!」


 ビシッと右肩が、火を噴いたように熱くなった。


「っ!」


 バッと肩をおさえて、顔をあげる。

 麻酔が切れていくように、右肩の熱さが、じわじわと痛みにかわっていく。

 父親を名乗るハグが、木の杖をふりおろしていた。その先に、銀色に光るトンボの羽がついている。


 銀色の羽は、妖精の羽……。

 こいつ……どこかで妖精を手にかけてきた……。




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