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4 何度、桜の季節が来ても
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しおりを挟む「『巻きもどしの法』だね。わたしもリズからきいたことがあるよ」
鵤さんが、部屋の中を歩いていって、お母さんの座るイスの後ろに立った。
「フェアリー・ドクターは、自分のかけた魔術をリセットしたいとき、巻きもどしの法をつかうらしい。そうすると、物事が巻きもどって、ゼロになるのだとか」
「はい。いつものように、フェアリー・ドクターの薬をつかっただけでは『巻きもどしの法』はつかえないのですが。今回のよみがえりは、いちおう儀式めいたものだったので。儀式には有効な手段だと、とうさんの本に書いてありました」
「つまり、こういうことよね。ハグの入ったリズの体を、墓地までつれて行って、『巻きもどしの法』を行う。そうすれば、あの人の体から、ハグの魂が出ていく。でも、それからは? ハグの魂はどこに行くのかしら?」
「たぶん……うちの鏡に入ると思う。ハグはもともと、うちのカフェの鏡の中に、モヤになって入り込んでいた。たとえば、ハグを鏡にもどして、鏡を割ったら……ハグの魂も消えるのか?」
ヨウちゃん、あごにこぶしを置いて、考え込んでる。
「それでもダメなら……たとえば、土にうめたらどうかしら?」
わぁ……お母さんてば、過激!
「まぁ、こればっかりは、やってみるしかないね」
鵤さんが丸い体をゆらして、ため息をついた。
「儀式をして、リズからハグの魂を切りはなす。そして、ハグが出てこられなくなる対処をする。それで終わってくれるのが一番なんだが。先のことは……また、そのつど考えていくしかないね……」
「そうね……不安はのこるけど、今はできることをするしかないわね」
「ありがとうございます。鵤さんやかあさんがいっしょに考えてくれるから、オレも心強いです」
ヨウちゃんは、組んでいた足と腕をおろして、ふたりに深々と頭をさげた。
なによ……。あたしは数に入ってないんだ……。
あたしはひとりで、管理棟の入り口のドアに背中でもたれて、ぼんやり。
みんなのむずかしい話は、わかったような……。わかんないような……。
「問題は、どうやって、ハグを墓地につれて行くかだな」
「それなら、アグリモニーの葉をつかえないかしら? たしか、乾燥させた葉や茎は、食べ物にまぜると、眠り薬になるんだったわよね。それで、二、三時間は寝かせられるはずよ」
お母さんが、ピンと人さし指をたてた。
「でも、かあさん……アグリモニーの葉なんて、庭にはもう……」
「それがね。庭にはなくても、カフェの店内にあるの。ほら、昔、葉児がつかったアグリモニーの葉があまってたでしょ。それを今、カフェの壁に、ドライハーブにしてつるしてあるのよ」
「それだっ!」
ヨウちゃん、身をのりだす。
「清子さん、フェアリー・ドクターの薬のことに、いつの間にそんなにくわしくなったんだい?」
鵤さんにきかれて、お母さんははずかしそうにほっぺたを赤らめた。
「葉児にいつか読んでもらうために、あの人の書いた日記を翻訳してた時期があるんです」
そっか……だから……。
フェアリー・ドクターの洗礼を受けただけで、なんにもしてないあたしなんかより、お母さん、ずっとくわしい。
「リズの食事に、わたしがアグリモニーの葉をまぜます。そうすれば、不自然なくあの人を眠らせることができるでしょう。そして……車に乗せて、墓地まで運べば……」
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