ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしたちの決断

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「なんで……杖が飛んできたの……?」


 あたしの問いに、ハグは杖の先をヨウちゃんに向けたまま、口元をゆがめる。


「ふふ。ヨージの薬をすべてたたき割る前にね、ゴールデンロッドのビンをひとつ、拝借しておいたのさ。これはなかなか便利な代物だね。どこに置いていても、従順なタカのように、わたしの手の中にもどってくる」


「……ゴールデンロッドの小花のパウダー……。ふりかけた物は、たとえ持ち主が失くしても、自ら持ち主の手にもどる……」


 ヨウちゃんは、地面にひざまづきながら、手で自分ののどぼとけを守って、ハグの杖をにらみつけている。

 その先端に、銀色のトンボの形の羽がついている。


 銀色の……妖精の……羽……。


「……まさか……それ……あの赤い髪の妖精の子の……?」


 のどから出たあたしの声が震えた。


「さぁなぁ。どいつの羽だろうなぁ? 悪いがね、もうわからないんだよ。妖精の羽は小さいんでね。りんぷんがすぐになくなってしまわないように、予備に何枚か切らせてもらったからね」


 あの子だけじゃないんだ……こいつ何人も妖精を……。


 冷え込んだ胸の底から、ふつふつとマグマのような怒りがわいてくる。


「……サイテー……」


 妖精は物じゃない。キラキラ笑い、踊り、あたしたち人間と同じ心を持った、ガラス細工のように繊細な生き物――。


「なにが最低だ!」


 ハグが胸をねじった。


「羽が小さすぎるから、しかたなく何枚か切ったまでだっ! おまえのような人間大の羽を持つ妖精に、小さな羽の不便さがわかるというのかっ!?」


 杖の先が、弧を描いて、ヨウちゃんからあたしにうつる。


「綾っ!!」


 瞬間。

 あたしは土を蹴って、飛びあがった。

 高く。ハグの背より高く。

 ハグの杖は、あたしを打てずに、宙に舞う。

 あたしの背中が、銀色に光りだす。


 銀色のりんぷん。


 りんぷんが、あたしの背中に、アゲハチョウの羽の輪郭を形づくっていく。

 あたしは、銀色の羽をはばたかせて、ふわっとハグの後ろに飛びおりた。

 羽の先端に力を込めて、ハグの背中を引っぱたく。


「ぐっ!」


 ハグがうめいた。


「き……さま……」


 お父さんの大きな体が、ずるっと地面にくずれこむ。

 その茶色い背広の背中が、刃物で切られたみたいに、ななめに裂けている。


 赤い傷口。


 この傷……今、あたしが、妖精たたきでつけた……。


 心臓がこごえた。

 血のにおいがする。

 背広が裂け、下の白いシャツが裂け、その下の皮膚が切れて、赤黒い血がたれてくる。


 ……あたしのせいで……。


 波打つ自分の心臓の音をききながら、あたしは大きく飛んで、ヨウちゃんの背中におりたった。


「あ、綾っ!? 」


 ヨウちゃんがふり返る前に、両わきをつかんで、いっしょに空に飛びあがる。




「綾ちゃん……痛いじゃないか……」



 杖で地面をついて、ハグがふらっと体制を整えた。


「どうして、わたしにこんなケガをさせるんだい? わたしはただ、ヨージの父親として、ヨージを正しく指導しただけなのに……」


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