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3 妖精と花火と綾桜
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校庭のアジサイが、水色に花開いている。
その向こうで、ボールを蹴っているのは、サッカー部員。
いつも一年生は、基礎練ばっかりしてるけど、きょうはめずらしく先輩たちにまじって、試合に参加している。
一階の家庭科室は、あたしたち手芸部員の部室。ミシンをかける音がひびいている。
「綾ちゃん、見て! 新作、幼稚園のスモック完成っ!」
有香ちゃんが、ミシンの前で、パッとお洋服を広げて見せた。
そでは白と赤のドット柄。胸は赤で、お腹の左右に白いポケットがついている。ポケットにはチューリップのアップリケ。
「か、カワイ~」
思わずさけんじゃったら、「永井さん、見せて見せて」って、先輩たちがあつまってきた。
「さすが、本物の雑貨屋さんにおろしてるだけある~」
「これ、何センチ? 今度、うちのいとこの服もつくってあげてよ。お金はちゃんとはらうから」
「ほ、ホントですかっ!? 」
さすが、有香ちゃんの服は、先輩たちにも大人気。
あたしがつくってる服は……いちおう、自分のパジャマなんだけど……ちゃんと着られるのかなぁ~?
あたしは、有香ちゃんと手芸部に入った。
真央ちゃんは、まさかの茶道部。茶道の指導に来てくれる橋本さんを好きになったんだって。
橋本さんって、今年七十三歳。頭つるつるで、あたしにはよれよれのおじいさんにしか見えないんだけど、真央ちゃん的には、渋くてドストライクなんだって。
「小学校の校長先生は?」ってきいたら、「再婚したからもういい」って言ってた。
それ、失恋に入るのかな? それでもどんどん、新しい人を好きになっていく真央ちゃんはたくましい。
人はかわっていく。
きっと、それでいいんだ。
「ね、和泉ぃ!」
手芸部の窓の外から、誠の顔がひょいとのぞいた。
「あれ? 誠、試合終わったの?」
「終わった、終わった! オレたちの勝ちぃ! ね、オレのプレー見た? PK決めたんだぞ~」
「う……ごめん。ミシンかけてて、見逃した」
「が~ん」
誠ってば、うつむいて、おでこを手芸部の窓枠にくっつけちゃった。
誠はいつも、サッカー部の休憩中に、あたしたちの部室の前にやってくる。そうして、窓越しに、校庭と部室でおしゃべりする。
「ね。和泉は何時に部活終わる? オレ、また、昇降口で待ってていい?」
あたしは「いいよ~」って笑った。
「終わるの、誠と同じ六時だよ。いっしょに帰ろ」
「……ねぇ、和泉さんって、水沢くんとつきあってるの?」
ふり返ったら、小池こいけ先輩が、あたしの後ろから校庭をのぞきこんでいた。
「え……? えっと……」
「あはは。あんまり仲良しだからまちがえちゃうでしょ? オレの母親ね、和泉んちのそばの児童館で働いてるんスよ。それで、オレ、いつも母親の職場に寄ってから、帰るんだけど。近くついでに、和泉ととちゅうまでいっしょに帰ってんの!」
誠がくりくりの目を先輩に向ける。
「あ~、なるほど」
「でも、帰り道が同じだからって、ふつうは、いっしょに帰んないでしょ」
有香ちゃんが、あたしの横に立って腕を組んだ。
「誠! 今度の花火大会で決めなよっ!」
「え~? なんの話~?」
すっとぼけたみたいに口をとがらせる誠に、にらみをきかせる有香ちゃん。
……ホントになんの話?
その向こうで、ボールを蹴っているのは、サッカー部員。
いつも一年生は、基礎練ばっかりしてるけど、きょうはめずらしく先輩たちにまじって、試合に参加している。
一階の家庭科室は、あたしたち手芸部員の部室。ミシンをかける音がひびいている。
「綾ちゃん、見て! 新作、幼稚園のスモック完成っ!」
有香ちゃんが、ミシンの前で、パッとお洋服を広げて見せた。
そでは白と赤のドット柄。胸は赤で、お腹の左右に白いポケットがついている。ポケットにはチューリップのアップリケ。
「か、カワイ~」
思わずさけんじゃったら、「永井さん、見せて見せて」って、先輩たちがあつまってきた。
「さすが、本物の雑貨屋さんにおろしてるだけある~」
「これ、何センチ? 今度、うちのいとこの服もつくってあげてよ。お金はちゃんとはらうから」
「ほ、ホントですかっ!? 」
さすが、有香ちゃんの服は、先輩たちにも大人気。
あたしがつくってる服は……いちおう、自分のパジャマなんだけど……ちゃんと着られるのかなぁ~?
あたしは、有香ちゃんと手芸部に入った。
真央ちゃんは、まさかの茶道部。茶道の指導に来てくれる橋本さんを好きになったんだって。
橋本さんって、今年七十三歳。頭つるつるで、あたしにはよれよれのおじいさんにしか見えないんだけど、真央ちゃん的には、渋くてドストライクなんだって。
「小学校の校長先生は?」ってきいたら、「再婚したからもういい」って言ってた。
それ、失恋に入るのかな? それでもどんどん、新しい人を好きになっていく真央ちゃんはたくましい。
人はかわっていく。
きっと、それでいいんだ。
「ね、和泉ぃ!」
手芸部の窓の外から、誠の顔がひょいとのぞいた。
「あれ? 誠、試合終わったの?」
「終わった、終わった! オレたちの勝ちぃ! ね、オレのプレー見た? PK決めたんだぞ~」
「う……ごめん。ミシンかけてて、見逃した」
「が~ん」
誠ってば、うつむいて、おでこを手芸部の窓枠にくっつけちゃった。
誠はいつも、サッカー部の休憩中に、あたしたちの部室の前にやってくる。そうして、窓越しに、校庭と部室でおしゃべりする。
「ね。和泉は何時に部活終わる? オレ、また、昇降口で待ってていい?」
あたしは「いいよ~」って笑った。
「終わるの、誠と同じ六時だよ。いっしょに帰ろ」
「……ねぇ、和泉さんって、水沢くんとつきあってるの?」
ふり返ったら、小池こいけ先輩が、あたしの後ろから校庭をのぞきこんでいた。
「え……? えっと……」
「あはは。あんまり仲良しだからまちがえちゃうでしょ? オレの母親ね、和泉んちのそばの児童館で働いてるんスよ。それで、オレ、いつも母親の職場に寄ってから、帰るんだけど。近くついでに、和泉ととちゅうまでいっしょに帰ってんの!」
誠がくりくりの目を先輩に向ける。
「あ~、なるほど」
「でも、帰り道が同じだからって、ふつうは、いっしょに帰んないでしょ」
有香ちゃんが、あたしの横に立って腕を組んだ。
「誠! 今度の花火大会で決めなよっ!」
「え~? なんの話~?」
すっとぼけたみたいに口をとがらせる誠に、にらみをきかせる有香ちゃん。
……ホントになんの話?
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