ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 あたしの心の底のひび割れ

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   ★



 教室の窓際の一番後ろ。自分の席にほおづえをついて座って。

 オレは、廊下側の一番前の席へ、目をこらす。

 そっちは日が当たらずに、うす暗い。さらに、目の前をクラスメイトたちが行きかうから。たれ目の綾の横顔が、今、どういう表情をしているのかわからない。


 よりによって、こんな席。

 教室の対角線上。はじとはじ。

 けど今は、くじ運の悪さより、きのうの自分の行動のほうが、うらめしい。


 ヤバイ……。綾と話せない……。


 なんでオレ、きのう、卯月先輩をもっと早く追い出さなかったんだっ!


 とつぜんハイテンションで、カフェに入ってきた先輩は、オレの顔を見ると、ためらわずに二階にのぼってきた。本をさしだして。「読んで」って。

「追い出せ」という感情が、すぐに脳みそにのぼってこなかったわけは、あの卯月先輩の愛読書だっていう本が、けっきょくオレも気になってしまったからだと思う。

 おもしろい本だということは、わかっていた。

 この前、図書館で借りたケルトの伝説を、さらに掘り下げたような本。

 だから、反応が遅れた――。


 休み時間をもてあましていた男子たちが、ざわついている。

 見ると、教室の後ろのドアに、見慣れない女子が立っている。


 卯月先輩っ!?


 オレと目が合うと、グロスを塗ったくちびるがふっとほほえんだ。


「葉児君、ちょっと~」


 白くて長い指で、ちょいちょいと手招き。


 おそろしい……。執念深い白蛇みたいだ。こんなとこまで……。


 クラスメイトたちが、ざわざわとこっちをふり返っている。

 廊下側の一番前の席で、綾もふり向いた。河瀬が綾になにかを話しかけて、綾がそれに答える。永井も綾に話しかけている。

 綾の目はもう、オレを見ない。


 きのう感じた、あの感覚と同じだ。

 バカみたいにありったけの感情をぶちまけたオレに、綾の声は冷めていた。


 伝わらない……。


 言葉にしても、すかされて、宙に消える。

 なかったことにされてしまう……。



「……先輩。なに、人のクラスに来てるんスか?」


 しかたなく立ちあがって、教室を横断すると、先輩はにっこりと笑った。


「そりゃあ。本の感想をききたいからに決まってるでしょ? 葉児君、少しぐらい、読んだ? どこまで読んだ?」

「……読んでません。つ~か、読む気ありません」

「え~? ぜったいおもしろいのに」

「そのまま返しますから、ちょっと待っててください」


 ロボットのように言うだけ言って、本を取りに教室にもどりかけると、「あ。じゃあ、屋上の階段とこいるね」と声が返ってきた。


「いや~、ほら、ここにいるとわたし、めだつしさ。葉児君もわたしといるとこ、見せたくない人がいるんでしょ」


 なら、来んなっ!


 のどから出かかった声を、必死で飲み込む。

 感情的になっても、この人には無意味だ。

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