ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 かごの中の人面蝶

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「……綾……」


 後ろから、ヨウちゃんの声がした。


「おまえ……羽、出してる……」


 あ……ホントだ……。


 肩甲骨のあたりが熱い。

 銀色のチョウチョの羽が、ヨットの帆のように、大きく張られてく。


 あたし、どうして……?


 パニックになっちゃって、頭の中で、人間と妖精のバランスがくずれちゃったのかも。

 誠の横に座り込んだ、あたし。

 背中の羽から、チラチラ銀色のりんぷんが、誠の体にふりそそぐ。


 チラチラ、チラチラ。


 満天の星が落ちてきて、誠につもっていくみたい。

 誠の胸に巻きついた黒いモヤは、りんぷんの光をあびると、吸い込まれるようにして、消えた。

 腕に巻きついていたモヤも、りんぷんの光の中で消えていく。




「……は~。なんだろ? 頭ん中が、すっきりした……」


 誠が上半身を持ちあげた。

 首をコキコキして、それから両手をあげて、ぐ~っとのび。


 ……え?


 まばたきしたら、あたしの顔の前に、誠の顔があった。大きな口を横に開けて、にへっ。


「……あれ~? 人面蝶じゃなくて、和泉だぁ? なんでこんなとこにいるわけぇ?」


「誠……? え? ウソっ !?」


 クリクリ二重のいつもの誠。スタジャンの腕や胸に巻きついてた黒いモヤは、もうない。


「な、治ったのっ!? 」


 だ、だって! こんなことってあるっ!?

 あたしの羽のりんぷんが、黒いモヤを消しちゃったっ!


「ヨウちゃんっ! あ、あたしっ!」


 ふり向いたら、ヨウちゃんは、砲弾倉庫の前で座り込んだまんま、ただ目を見開いていた。


 治った理由、ヨウちゃんも知らないの……?




「あはは、なんだこれ? ホントに和泉ぃ?」


 ふわっと、左のほっぺたがあっかくなった。

 ドキッとして向き直ったら、あたしのほっぺたに、誠の右手がそえられていた。

 赤い指先。しめった誠の手のひら。


 ええええ~っ !?


 数センチ先に、誠の黒くてかがやく瞳。鼻、近すぎてぶつかりそう。


 ウソこれっ !? ちょっとしたラブシーンっ !?


「和泉。なんだか、すっごくキレ~。天使みたい……」


 誠はぼんやりと、またまぶたを半分閉じた。ほっぺた、ピンクに染まってる。


 ドキッとした。


 あたしはあわてて、背中に力を入れて、自分の羽を引っ込めた。

 手のひらサイズになる前だったおかげで、羽はしゅっと、あたしの肩甲骨の中に消える。




「……よかったじゃねぇか、綾」


 背中から、低い声がした。


「……え?」


 ふり返ると、ヨウちゃんは両ひざに手をついて、砲弾倉庫の前から立ちあがっていた。


「人面蝶から、天使って、すっげ~進歩だろ?」


 さっきまでの、空気の抜けてくふうせんみたいな声じゃない。ちゃんと芯のある強い声。

 だけど、すごくざらついてる。


「あっ! ね、ねぇ。ヨウちゃんも、体、だいじょうぶなの……?」


「なにがだよ? オレは、なんも食らってない」


 ヨウちゃんはふいっと、あたしたちから背を向けた。ジーンズの後ろポケットに、両手をつっこんで、スタスタと先に歩き出す。


「ま、待ってっ!」


 どうして、ひとりで行っちゃうの~っ !?




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